第二節
昨日は酒を飲み過ぎた。気持ち悪い、頭痛い。
仕事に行かなければと思うものの、どうしても気が乗らない。
若干酔いながらもオフィスビルに着いた。
「如月さん、頼んだデザインは終わった?」
「へ?」言われた内容が入ってこない。
「大丈夫ですか?」
「多分、大丈夫じゃないです。すみません、昨日酒を飲み過ぎたせいで」と頼まれた部下に謝罪する。
「帰ってもいいんですよ? 無理しないで」心配する皆の声。だけれど、帰っても何も良い事が無い。ずっと先輩のことを考えてしまうだろう。
「平気です」
そう言葉にしたけど、結局早退指令を出され、今日は会社を休む事になってしまった。
先輩は私のこと、どう思っているのだろう……
気になってメールしてしまった。
“先輩は私のことどう思ってたんですか?”
“付き合ったらまず、何をしますか?”
“お返事待ってます”
今日の昼ご飯は何にしようかと考えているとメールの通知ランプが光った。見てみると返信ではなく、本屋の宣伝メールだった。
なんだ、びっくりした……まさかこんな早く返信来るはずないよね……
そう思いつつ、本を手にする。黒猫の魔女のお話だ。今日の午前中はずっとその本ばかり読んで過ごしていた。
午後になって時計が12時を過ぎた頃、通知ランプが光った。
今度は先輩からのメールだろうと思い、電源を付けると今回こそは先輩からの返信メールだった。
“俺は此葉の事を最初は平凡な女性だと思ってたけど、メールし合ってから
“付き合ったらまずはいっぱい喋って、デートでもしたいな”
“今日、会社早退したんだって? お大事にね。飲み過ぎには注意しな”
嬉しい返信だった。告白の時に感じてた軽さも少しは緩和された。
昼ご飯の準備をしようと冷蔵庫からシーザーサラダを出す。オムライスのお
多分、いつになっても返事は出せないだろうと思いながらお粥を口にする。かなり熱い。火傷しそうだ。温め過ぎたかなと思ったけどそれはそれで良い。返事が出せないのは……だってタイプじゃないんだもん。顔は良いのに女を
「今日は何もない1日だったなー」ひとりでに呟く。
もう日が沈む。
「おやすみ」とストラップに向かって言う。このストラップは初めて出来た彼氏と一緒に遊園地に行った時に買った物だった。
そうして、眠りに就いた。
翌日。デスクチェアーに座ると早速、彩芹に「もう返事したー?」と聞かれる。散々な毎日だ。
今日は白いレースとピンクの紙。要するに周りがピンクで右上と左下に白いレースを書けという事だ。昨日の仕事は全員が片付けてくれたらしい。
パソコンで書くけれど、白いレースが難しい。細かく塗らなきゃいけないので、作業は大変だ。
午前中、ずっとそのパソコン作業。一昨日の肩がこったと言う人の気持ちが嫌というほど分かる。
私が白いレースを塗っている途中、彩芹に「恋渕先輩に告白されるなんてついてるね。此葉なんかが何であんなイケメン上司に告白されたんだろ。いいなー私も誰でもいいから告白されたいなー」と耳元で囁かれた。
“此葉なんかが”? それって見下してない? そう思ったが口に出さない事にした。レースから少しでもはみ出てはいけない。緊張と集中がピークに達していた。
午前の仕事が終わった。休憩中。お洒落なカフェテリアのような食堂で彩芹と絵梨花に声を掛けられる。ずっと恋渕先輩の話題だ。うんざりする程、言われる。いい加減振ってしまおうかとも考える。だけど、振ったら振ったで何で振ったのかを聞かれる。私が思うに何故そこまで人の恋愛に干渉してくるのか。
2週間が経った今でも尚、彩芹からは返事したのかや遅すぎない? との事を言われまくっている。
私は「話しかけないで」と言い、距離を取った。
昔、恋渕先輩と付き合ってたという
「用事があるから」
「とか言って別の男の家に行くんだろ?目に見えてるんだよ」
「違うよ!」
違うと断言しても、片方の手首を掴まれて身動きできない。本当に若奈は浮気とかするわけでもなく、単なる用事だった。なのに、信じてもらえない。用事は二人で行く事になった。これが毎回続く。
ある時は「お前の体のせいで上手く入れられない」「尻が汚い」「何度言ったら分かるんだ!!」などの罵詈雑言や悪口を浴びせられ、パシッと頬を
「痛い」というと「若奈を愛せなくてごめんな」とか「前の女もそうだった。許してくれ、俺が悪いんだ」とか言って許してもらっては暴力の繰り返しだった。
「これがあるから」と若奈は言った。
別の日。
「今日は若奈の好きなオムライスを作ってあげたよー」
「わーありがとー」あはは。くすくす。そして、二人でケチャップを持ってハートマークを付けた。
笑っていられるのもほんの
正に束縛の激しい優しさと冷たさが混在する男だった。
そんなこんなで3週間が過ぎてしまった。
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