OOPARTS(3)
一筋の光も差さない筈の「彼」の居るべき場所が、あたかも風が吹き抜けた後のようにざわついた。世界が不可視単位の粒子の織り成すバケ学に彩られているだけならば、誰も思い悩まなくても済むのかもしれない。
とりあえず、煩わしいが来客の相手をしなければならないだろうかと溜息をついた「彼」は、漸く重い瞼を開けたところである。
飛び込んできたのは、光。
「来ちゃった」
などとおどけて見せた来訪者が鬱陶しく、「彼」は再び瞼を閉じた。
「オイ、持て成せよコラ」
愛想の無いこの闇とも言うべき空間の主の応接に、客は不満げな声を上げたところである。
丁度、二人の耳にも『勇者』と『魔王』の声が聞こえてきた。
「懐かしいな」
ふと、客は「彼」にそんな言葉をかけた。
この世界を愛する民達の見出した希望とは裏腹に、近付きつつある終幕の時――この状況をして、この客はそんな事を言うのである。
「オレ等も、誰が書いたのかも知れない『
立ち退くどころか思い出話までし始めたこの客人の為に、「彼」は渋々目を開けた。
「とんだ物好きもいたもんだ」
舌打ち交じりで「彼」は悪態をついた。
「これ以上世界に民を縛り付けることに、一体何の意義がある?」
カタチ有るモノは何時か無くなる。そこに意義があろうと無かろうと、何人たりともその宿命には抗えない――この是非はともかく、「彼」は、世界真理をそのように解釈・理解している。それなのにこの客人ときたら、
「どうしようもない未来でも立ち向かいたかった。オレの願いを託したんだ」
こんな甘い戯言を口走っては目を輝かせているのだから。
「オレは、アイツ等と“その先”を見に行くよ」
それにしても、わざわざこう宣誓しにきた客を、事実上野放しにしている「彼」も「彼」で充分物好きなのかも知れないが。
随分と長い時間、こうして此処にいる「彼」等には、立場も呼び名も変わった今尚、変わらないスタンスというべきものがある。例えば、
「甘チャンって言いたいのか? ハハ……そりゃ、そうだよなァ」
もっとずっと遠い昔から、この客人が己の甘ったるい理想の実現の為に奔走し続けていたように。
「……ゲロ甘チャン」
もっとずっと遠い昔から、「彼」が件の甘ったるい理想の実現の為に己の命も未来も懸けていたように。
世界がまた一つ、変わろうとしていた。
「今度は、お前も一緒に見て回らねえか?」
進化した民が織り成す、“その先”とやらを――「彼」の返事も待たずに、“どうせ、腐れ縁じゃねえか”と喚き散らす客人が鬱陶しく、「彼」は客人から顔を背けた。
そのまま、曰く。
「ああ。……きっと、な」
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