OOPARTS(1)

 結界が張り巡らされたかの孤島――世界と世界のハザマは、幻想的で神秘的な闇夜に包まれている。榕樹の森は数千数万数億もの生物をその腹に抱え込んでいるというのに、その白い石の祭儀場からは鳥や虫の声はおろか、波の音すら聞こえてこない。


 完全無欠の静寂である。

 

 ふっと、祭儀場に炎が燈された。その明かりで顕になった影の正体は長身の男。白い岩に囲まれた小さな祠から吹き抜けて来る風に、その男の亜麻色の髪が揺れた。

「“停止”はもう“神”の御手に渡った――終幕は最早避けられないだろう」

ざわざわと榕樹の黒い森を揺らして重苦しい静寂の世界を引き裂いた風は止み、今はまた沈黙が夜闇を支配している。その沈黙に耐え切れなくなったのか、徐に男は口を開く。

「大地護神使(ソニア)が自らの封印を望んでいたのは知っている……彼女の考え方は、むしろ、明護神使(リョウ)に近いからな」

亜麻色の髪の男は一度、その祠と丁度対角の位置にある別の祠を覗き込んだ。数多に輝く星の光も届かない暗黒の大地である。例え世界が歩みを止めたところで、一体誰がそれに気付こうか。

「何故、お前まで封に甘んじているんだ?」

風護神使、と呟いた彼の亜麻色の髪を揺らした風が祠の入り口で旋風(つむじ)を作った。

「まさか、“終幕”を止める方法を見つけたとでも言い出すんじゃないだろうな?」

旋風は解け、再び弱い風となり男の髪を撫でて消えた。

「……そうだな」

幾許かの間合いを置いて、まるで独り言のように長身の男は呟いた。


「“それ”は民である彼等が気付かなければ意味がない、か」


 ――柔らかい風は、呼吸いきをするように甘やかに榕樹の森を揺らすと、施されたばかりの封印に従い、再び静かに眠りに就いた。

 

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