50. 決勝

『さあ、今大会も最後の戦いとなりました!さあ、まずは記憶を失くした謎の転校生ヒロキ・アモン!なんとあのジュルペ・アリーカーを下し、エルディラットから追放するという偉業を達成しました!赤魔法使いの魔族である彼の実力はまさに未知数!今回もまた、火の弾を連射しまくるのか!?』


 俺は今まで通り、銃型魔道具を二丁腰に下げてフィールドへと歩を進めた。

 歓声も、もう聞き慣れたものだ。


『対するは魔道具開発の名門の一つ、アルスレー地方領主にも連なるアルティスト家長女、シルヴィーナ・アルティスト!今までに見られない板状の魔道具を使って相手を翻弄してきました!果たしてそれは、ヒロキ・アモンにも通用するのか!?』


 金色のツインテールを風に吹かせながら、シルヴィーナが入場してきた。

 これだけ近づいてみると、整った顔をしている。


『それでは、開始します!3、2、…あれ?』


 シルヴィーナは片手を上げた。

 カウントダウン中の攻撃は禁止されているが、彼女は何も持っていない。

 つまり、カウントダウンを停止するよう指示したのだ。

 客席に困惑が広がる。


「はじめまして、ヒロキ・アモン。改めて、わたくしはアルティスト家が長女、シルヴィーナ・アルティストと申しますの」


 よく通る声で、シルヴィーナは自己紹介をした。


「…ヒロキ・アモンといいます。よろしくお願いします」


 俺も困惑しつつ、答えた。

 シルヴィーナは別にこちらを不意打ちしたいわけではなさそうだ。


「こうして時間を取っていただいたのは、先日のジュルペ・アリーカーの件に関してお礼を申し上げたかったからですの」

「お礼?」

「ジュルペの数々の悪行が、ようやく国王陛下のお耳に入ったそうですわ。結果として、ジュルペはエルディラットはおろか我がコースヴァイト王国からも追放されることになりましたの」

「それは知りませんでした。何にせよ、良かったですね」


 耳に入るまでが遅すぎる気もするが。

 ジュルペは実質このエルディラットという都市に恐怖政治を敷いていたようなものだったのだろう。

 高校生ですらない彼がその手腕を持っていたと考えると、随分恐ろしい話だ。


「この一件が明るみに出たことで、国内で横暴に振る舞っているいくらかの赤魔法使いや魔族も、大それたことはできなくなると思いますの。それはつまり、我々赤魔法使い全体の印象の向上にも繋がりますの」

「…はぁ」


 なんだかスケールが大きくなってきた。


「この問題を解決してくださったヒロキ・アモンには、アルティスト家としても感謝をしなければなりません。わたくしが代表させていただきます。本当にありがとうございました」


 シルヴィーナは深々と頭を下げた。

 仮にもアルスレー領主であるらしい家の人間が代表して俺という一般庶民に頭を下げているという異常事態に、客席はざわついた。

 シルヴィーナはそれを大して気に留めず、頭を上げた。


「試合が終わったら、ゆっくりと話をさせていただけませんか?わたくしも貴方に興味がありますの」

「わかりました。そうしましょう」

「ありがとうございます。それでは始めますわ。手加減は無用ですわよ」


 シルヴィーナはアナウンス席のほうを向いて合図をした。


『皆さん、お待たせしました!それではヒロキ・アモン対シルヴィーナ・アルティストの試合を開始します!3、2、1、はじめ!!』


 かくして、決勝の火蓋が切られた。

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