第92話 時間がある程やることは増える
次の日、僕は早速色々とやるべきことの為に動き回ることとなった。
先ずはネイル達と斡旋所へ連盟組織登録申請書とやらを提出しに行く。
それに伴って、新しく作らなければいけない
ここで改めて、
今回ネイル達と築くことになった
そして僕としてはこちらが本題なのだが、今回『
少し悩んだのだが、娼婦達は連盟登録使用人では無く、一般の使用人として登録することにした。本当は連盟員とした方が外部から手を出されにくいと思ったのだが、それは僕の
それなら市民のままの方が冒険者達から手を出され難いと結論付けることにした。
よって、僕は今までジャルナールにしか渡したことがない
僕が頼んだ
かなりの太さの束となって幾つも差し出された証明証全てをその場で【
一瞬で大量の証明証が消える光景に周りが瞠目していたが気にしない。そもそも冒険者の能力などには触れないのが暗黙の了解。ましてや相手がジャスパーと言う
【僕だけの宝物箱】に関しては普通に使っていくことにした。今後活動していく上で絶対に隠しきれない場面も出てくるだろうし、それなら堂々としていた方が良いだろうと判断したのだ。
サガラと出会った時や城塞都市ザーケルからの夜逃げの時と同じだ。何かを隠したかったり触れられたくないなら夜よりも昼と言うことだ。
まぁそもそも絶対的に隠していたものでもないし、今更というところはある。
流石に馬車や娼館を収納出来る部分に関してはその時々の判断になるだろうし、宮廷魔導士や宮廷魔術士に目を付けられたらその時にまた考えよう。あの人達は殆どが研究馬鹿か魔術狂いなので、出来れば関わり合いになりたくないものだ。
さて次に来たのはベルナール商会。そこでジャルナールに今回の事情を説明した。それを聞いた時のジャルナールは何とも嬉しそうに笑ったものだ。
下位組織にはもちろんこれまで懇意にしていた商会があるので、普段はそこに素材とかは卸して貰うようにはしたものの、もし何かあればこちらでも受け取るようにジャルナールにはお願いすることにした。
それに加えて、連盟拠点に定期的に食料を持って来て貰うことや、娼婦達が使う化粧品などの仕入れなど、必要な諸々なことを相談した。
そして次に、魔石を片端から譲って貰った。
用途は多種多様。ジャルナールは頬を引きつらせる商会員を他所に、文字通り片端から譲ってくれた。貰った魔石の値段は全部で金貨一万前後。それを店に持っているのも凄いが、ぽんと笑顔で渡すジャルナールはもっと凄いと思う。
さてどうやって返せば良いんだろうな。
他にも迷惑がかからない程度に食料や物資をもう片端から【僕だけの宝物箱】に詰め込んだ。この時点でベルナール商会は凡そ金貨一万五千枚くらいの赤字だと思う。
本当にジャルナールは大丈夫だろうか?
それ以外にもジャスパー
ミミリラ達三人が元々していた格好に全員が統一した感じだ。
胸には革製の胸当てを付け、腰帯には通常より多くの短剣を差しており、更にもう一本巻かれた細めの腰帯には幾つもの回復薬を差し込んでいる。
それでいて普通の片手剣と魔術の威力を高め制御を補助する小型の杖を買っていた。他にも弓と矢を新調、補充もしている。
お前達は今からどこの戦場に向かうつもりだ、と言わんばかりの本気装備だった。
この買い物でももちろん金貨数千枚がぽんと飛んでいった。今日は豪勢な日だなぁなんて思う。ジャルナールには無理なら無理と早めに言って欲しい。
「ちょっときついのねん」
「調整してこれって困るなぁ」
「ですね」
どうして買った。
「……」
最近体格に見合わない猛烈な成長を遂げているミミリラは無表情ながらに内心で相当苦しそうにしていた。戦いの時以外は外しなさい。
《畏まりました》
《はーいなのーん》
心の声が通じる二人が返事をするものの、残りの女達はウーウー唸り続けていた。
これは後で寸法測って特注の装備を作って貰った方が良いな。戦闘に支障を生むだろうし、何より弓を扱う者も居るのだから胸当てはきちんとしたものを使わないと困るだろう。
ピピリを見る限りでは問題ないと思うけれど、あれだけ胸が大きいと割と本気で弦で乳房が吹き飛ぶんじゃないかと不安になる。僕の精神安定的な意味でも早い内に注文しておこうかな。
外での用事が終わり、連盟拠点に帰って娼婦一同に僕の
この証明証を持ってる者に手を出すことは僕に手を出すも同義なので、余程の馬鹿でも無い限り大丈夫だろう。
その後、ジャルナールに譲って貰った魔石を使って『
連盟員全員分は流石に無理なので、連盟の
更に、僕の
本人に危険が及んだ時に自動で技能値6-7相当の【物理障壁】と【魔術障壁】を張る魔道具だ。色々と条件や難点はあるけれど、魔石の魔力が無くならない限り効果は続く優れものだ。
流石に僕自身が使う【
他のサガラからして贔屓と言うこと無かれ。僕と一緒に居る時が一番安全であり、最も危険なのだから。それが今回の
一応連盟拠点防衛用の
これが難航した。そしてすぐに現段階では作成不可能と判断した。と言うのも、敵味方の識別が上手く出来なかったのだ。
詰まるところ、これは魔石の密度と言うか、質が足りないのだ。知能と戦闘能力、この両方を併せ持つ人形体を作ろうとすれば今の手持ちの魔石では厳しい。魔石同士の魔力を一つの魔石に凝縮すると言う手もあるけれど、今はしたく無いので止めておくことにした。
一度だけ戦闘能力全振りで作った人形体を試しに起動させてみたのだが、速攻で僕に殴りかかって来てミミリラに首を刎ねられ、ピピリの拳に粉砕され、動かなくなった身体をニャムリに燃やされていた。
サガラの戦闘訓練用なら十分役立つな、なんて思った瞬間だった。
最後に、余った魔石で僕専用魔道具を作ることにした。
あの
戦闘中に僕の補佐をする補助戦闘具として作成することにしたそれは、魔力の多く籠った魔石を七個僕の周囲に浮かせ、僕の精神力を源にして自動で攻撃すると言うものだ。
これは僕が視認し意識的に敵と認めたもの、あるいは【
これなら単純に手数が七つ増えることになるし、【アーレイ王国】使用中に僕が油断している時の護衛にもなってくれる。
問題は精神力の残量を常に把握しておかなければいけないことだろうか。放っておくと、この魔道具が使いたいだけ精神力を使ってしまうので注意が必要だ。
それに、恐らく連続して使い続けると自壊してしまうだろう。魔石自体もあまり良い物を使っている訳では無いし、試作的な物でしかないのだから。
そして止めに連盟拠点防衛用の罠。
これはもう
幼い頃に毒で暗殺されかけたことがあるので、その時の毒を更に強化する感じで想像してみた。多分上手くいっていると思うが、今度魔獣で試しておきたいと思う。
「ああ、もう無いな」
今後のことを考えて色々な備えの為に動いていたが、流石に一日に詰め込むと肉体的はともかく精神的に疲れるな。
「お疲れ様ですジャスパーさん」
「忙しかったのねーん。構ってくれなくて皆いじけてたのん」
「私はいじけてない」
「私はちょっと寂しかったですよ」
「ですです」
「そうですねぇ」
「私はかなり」
皆がベッドの上に乗って僕に纏わり付きながらわいわい騒いでいる。この時点で女の匂いが凄い。非常に心地いいが、完全にミミリラ達三人の思惑に嵌まってしまった気がする。
「もう急ぎは無いか? 無いよな? あるなよ?」
「ありますよジャスパーさん」
「え?」
まさかのパムレルが僕に膝枕をしながらそんなことをのたまう。
この娘は相変わらず胸が大きいので顔が見えない。
「族長とニャムリとピピリ、この三人にしかしてないことありますよね」
「ああ」
確かにあったなと思う。
しかし、それを言われた僕から漏れ出た言葉は乗り気では無いものだった。
「あれなぁ」
【
対象を自身の一部として認識し、魂を繋げる魔術。
便利なのは間違いない。心で会話が出来る、集合体での高速移動が可能となる、ミミリラ達三人で言えば生命力や精神力の譲渡も可能となる。良いこと尽くしだ。
しかし、やはり『魂が
以前にも述べたが、魂と言うものは本来迂闊に触れて良いものでは無い。魂とは人の核、人そのものとも言えるのだ。それなのに、自分の魂に次々と他人の魂を繋げると言うのはどうなのだろうか、と懐疑心が湧くのだ。もし魔術を解除した場合に無事で済むのかどうかという懸念もある。
一見大きな
それにもう一つ問題がある。ミミリラ達三人だ。
ミミリラはザルード領で「サガラはどうでも良い」と明言している。
そんなミミリラ同様に魂が病んでいるニャムリとピピリも、恐らくは平然と同じことを口にするだろう。
《言えますね》
《聞く? 聞く?》
こんな感じで即答が来るぐらいだ。
一応【久遠の結晶紋】は魂の繋がりが強くならなければ心の中を“読む”と言うことは出来ないようだが、逆に言えば出来るようになればミミリラ達の思考が読めるということでもある。
あれ? と言うかミミリラ達はお互いに心を読めるんだろうか?
《カイン様の御心が強く感じられるようになってからは可能となりました。恐らくはカイン様との繋がりが強ければ出来るものかと》
ならば危険なことに変わりない。族長と「リ」の二人が「サガラはどうでも良い」なんて思ってると知れたら良いことにはならないだろう。
と、僕個人としては思うのだが、
《実際その辺り、お前達はどう思ってるんだ?》
《私は気にしません》
《どうでも良いですね》
《ですのん》
話にならないので代表してミミリラに聞く。
《ミミリラ。お前達のその考えを他の奴が聞いたらどう思う》
《素直に頷くと思われます》
《ならんだろ》
《そうですかね?》
心底疑問、という念を送って来たのはニャムリだ。
《何故そう思う?》
《ミミは一番早かっただけで、皆それぞれそんな感じになってきていると思いますよ》
《それはあるのねー》
《どう言うことだ》
あのですね、とニャムリは声を届けてくる。
《手段と目的の逆転です。ミミは誰よりも里の者を思っていた。だからこそ、最初にそこに到達したんです》
《照れる》
《ミミリラお前、絶対照れてないだろ》
突っ込みながらも、ニャムリの言葉には素直に頷けた。
ザルード領で僕がミミリラに対して思っていたことだから。
《それで、ですね。皆同じ、最初は救いを求めました。けれど、今は救いを手に入れ感謝を向けています。これが続くと、今度は感謝を向けることこそが目的となる訳です。感謝を向けることこそに救いを見出すんですね》
これもザルード領で思ったこと、言わば狂信者のそれだ。
《だからこそ、族長、ミミは最初に救いを得ました。私達はジャスパーさんの側に近かったことでそれを強く感じました。そしてミミの姿を見て、その真実に気が付きました。あとは皆が遅かれ早かれそうなるかと》
言っていることは分かる。
ニャムリが言っているのは人の矛盾が抱える面白いところであり、おぞましい点でもある。
《全部ジャスパーさんの為であればこそ、良いじゃないですか。それにジャスパーさん、貴方だって今の私の話、思い当たるところあるんじゃないですか?》
ふと、城塞都市ザーケルからの帰路で寄ったランド町で、ニールと交わしたやりとりを思い出す。
あの時のニールの言葉をそのまま鵜呑みにすれば、現状に何の不満も無いし、それどころか死戦の中でも付いてくる覚悟まで持っていることになる。これまでミミリラ達から聞いた言葉も踏まえて言えば、現状に男衆も女衆も不満を抱いていないと。
実際、連盟拠点に帰って様子を見ていると、女衆は男衆から常に距離をとってやりとりをしているし、男衆もそれを当然といった態度で接していた。あれはミミリラ達の言うところの、僕の女だからこそ男に触れないようにしているのだろう。
ニールは言った。僕は家族や仲間を救ってくれた恩人だと。だが、同時にその家族や仲間を好き勝手に扱っている存在でもある。
でありながらも、彼ら彼女らがそれを受け入れて居るということはつまり、そう言うことだったのだろうか。
《左様に御座います》
ミミリラが端的に言う。
《だからジャスパーさんが気にすることないですよ。多分今ここに居る四人にサガラを捨てろって言ったら頷くでしょうし》
《チャチャルはちょっと悩むかも? 悩むと言うか葛藤? あの子は真面目過ぎるのん。どっちも正しくてどっちも大事って思うタイプなのねん》
《チャチャルは逆に転んだら一瞬で染まるタイプ。問題はない》
《それは言えてますね》
三人の会話を聞きながらチャチャルを見る。至って真面目な顔付きをしているがそういう感じなのか。
《カイン様が望まれるままに。それが私どもの望みでありますれば》
《ですね》
《なのん》
《分かった》
息を吐く。他の四人の視線が強く向けられる。
「お話終わりました?」
「ああ、気づいてたのか」
「ええ。そうなんだろうなって」
僕はパムレルを見て、他の三人に視線を移し、再びパムレルへと戻す。
僕と視線を合わせたパムレルが頷く。
「分かった」
僕の言葉に、パムレル含む四人はにっこりと笑った。
そうして僕はパムレル達四人に【久遠の結晶紋】をかけた。
全員で念話をして効果の程を確かめると同時に、伝わってくる感情の強さに驚く。これは既に、相当に強い想いを僕に向けている証左だ。ミミリラ達三人の言葉の正しさが証明された訳だ。
その後、まるでその魂の繋がりを確かめるようにして八人で交わり続け、僕達は夕餉を取る機会を失ってしまった。途中でサガラの女衆と娼婦の面々が突入して来たのが全ての原因だ。
まぁずっとドタバタしていたんだ。こう言う時間もまた良し、だ。
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