第91話 冒険者の歴史

「傘下?」


 僕は首をかしげたままに疑問の言葉を口にした。

 寡聞にして知らない言葉だ。傘下と言う単語に対してではなく、連盟ギルド集合体パーティーを傘下に、という言葉に関してだ。


「野良固定集合体が連盟のお抱え、なんて言う形なら知ってる。普段は斡旋所からの依頼を受け、それ以外は一つの連盟からの直接依頼だけを受ける専属契約だよな。だけど連盟が連盟の傘下に下るなんて俺は聞いたことないんだが」

「ああ、ジャスパーは冒険者としての経験が浅いんだったな。すっかり忘れてた」


 ネイルがそう言うと、数人が苦笑する。僕は眉をひそめた。


「そもそもだジャスパー、どうして冒険者アドベル傭兵ソルディアがお互いに殺し合っても捕まらないか知ってるか?」

「いや、知らない」


 僕が首を振ると、グリーグが続きを取る。


「ずっと昔はこの国の冒険者や傭兵も、お互いに傷つけ合ってたら捕まってた。だがそうするとだ。やっぱり強い奴、でかい連盟。そこがだんだんと仕事を独占するようになるんだよ」


 まぁそうだろうなと思う。それは今だって変わりはない……ない? 本当にそうか?

 もしそうなら最初の頃、ニール達みたいな木っ端集合体パーティーが『リリアーノ』や『グリーグ傭兵団』のような大手連盟集合体ギルドパーティー連合体レイドなんて組んで依頼を受けられただろうか? 例え指名依頼や直接依頼だったとしてもだ。


「昔だって同盟パートナーズって手もあった。だがそうすると規模の小さい連盟同士が同盟を組んでるところに、大手連盟から色々と嫌がらせが入るようになるんだよ。斡旋所以外では素材の買取が出来ないようにしたり、武具を購入出来ないように商会や商人に手を回したりな。

 そうすると同盟は崩壊し、連盟自体もどんどんと小さくなって、結局大手だけが生き残る」

「ふむ」


 僕は側に居たミミリラの尻尾を手に取った。この尻尾は考えを落ち着かせる時の最高の癒しだ。甘えるように巻きついてくるのが気持ちいい。


「そうすれば中小連盟だけじゃねぇ、野良集合体や単独活動者ソロランナーすら排他されていき、徐々に冒険者の数が減っていくんだよ。なにせ食う為に冒険者やってるのに食えなくなるんだからな。傭兵だってそうだ。戦争がなけりゃ金は入らねぇ。その間を凌ぐ為に冒険者やってるのに収入が無くなるんだ。するとどうなるか」


 そこまで言って、グリーグは果実水をぐっとあおった。


「食いっぱぐれた冒険者や傭兵って力持った奴らが野盗に変わるかただの農民や市民になっちまう。国の中の治安が悪くなるのにそれを鎮圧する奴らが減る。そして各地の依頼をこなす奴も減る。依頼をこなす奴が減るから一つの依頼の単価が増える。単価が増えりゃ市民が依頼出来なくなるから放置事案が増える。国の負担がとんでもないことになったんだ」


 その理屈は分かる。全ての領地でそれが起きた訳じゃないだろうけれど、多くの地でそれが起きても不思議ではない。弱肉強食はあらゆる事象に通じる。


「そこで当時の国王だった御方はとんでもない法を作った。冒険者や冒険者登録している傭兵は、一般の民に害を及ぼさない限り互いの殺傷を罰することはない、ってな。実際はもうちょい細かいが大まかはそれだ」


 これは以前ニールから聞いた部分だな、と頷く。

 と言うか登録してない傭兵は駄目なのか。


「そうするとだ。大手連盟だろうが話は変わる。なにせ大手連盟集合体だろうが外に出てる時は連合体でも組んでない限り多くても七人だ。それに街の中を常に集団で歩いてる訳でもねぇ。

 始まったのはこれまで耐え忍んでいた冒険者や傭兵、そして冒険者に復帰した奴らと大手連盟との戦争だ」

「へぇ」


 その光景がありありと想像出来る。さぞかし大地が血で染まったことだろう。


「こうなると大手連盟も困る。なにせ小さい連盟であろうとも手を出せば十数人の冒険者によって少数で活動している最中の連盟員ギルドメンバーを狙われる。野良の固定集合体でもそれは同じだ。野良を狙うような大手連盟に対して野良同士で連合体を組んで襲い始める。

 ただ、もちろん大手連盟だって黙っちゃいない。中小連盟の連盟拠点ギルドハウスを攻めて連盟ごと皆殺しにしたり、野良の冒険者達に対しても敵対すれば容赦しなかったらしい」


 そりゃそうだろう。大手連盟の恐ろしさは力と数と人脈と金だ。ただそれが一方的では無くなった、という話だろう。


 ここまで聞いて思い出してきた。僕はこれに関することを王城で学んでいる。


「これが続くとどうなるか。互いに互いが抑止力になってきて、次第に冒険者達の間で争いが減っていくんだ。そりゃ一人の単独活動者を殺しただけでも報復に来る奴らが居るかも知れない状況に発展した訳だからな。

 で、そうして長い時間を掛けて一連の騒動は落ち着いていき、普通の冒険者や傭兵達が斡旋所に戻って来て、ときは経ち今に至るってことだな」

「知らなかったな」


 既に思い出している知識だが、知らないふりをしておく。


「現在に話を戻そう。今の冒険者や傭兵ってのは馬鹿を除いて基本的に争いを好まねぇ。普段偉そうにしてる荒くれだってな、言い争いはしても最後まではいかねぇ。もし手を出した相手が連盟員だった場合、下手すりゃ報復合戦の始まりだからな。

 それでも辿ってきた歴史が歴史だ、依頼に関する助けあい以上の意味で同盟は多く組む。その上で極力諍いは避ける。もちろん無いとは言わねぇがな」

「ああ、正直に言おう。俺達同盟も、過去に幾つかの野良固定集合体や連盟を潰してきた」

「そりゃまぁ有ってもおかしくないだろうね」


 それを聞いても別に何とも思わない。

 どんな理由があろうとも負ける奴が悪い。だから、勝利したネイル達は正しい。


「ああ。だが逆に言えば俺達もいつ狙われるか分からねぇ。ここには連盟だけじゃなくてお抱えの野良固定集合体の奴らも居る。こいつらも何故俺達の連盟に入っていないにも関わらず、そういう選択をしているかの理由がそこにある」

「ふむ」


 まぁ分かってきた。で、だ。


「それとうちの傘下に入ること、何の繋がりが? その論で行けば別に、俺はお前達に手を出せない話になるよな。うちの冒険者は多い方だろうが、お前達の総数には勝てないだろ。連盟拠点もでかいし目立つ。それにうちの使用人は全て登録使用人、狙われて困るのは俺も一緒だ。まぁお前らと争う理由は今のところ無いが」


 今のところは、だ。無いとは言わない。

 あと本当のところを言えば、うちの何人が冒険者やってるかなんて僕も知らない。ニール達と街に出かけて行った中には使用人として登録してる筈の奴も居て、ジャルナールのところに向かうであろうその足取りは軽く、顔には晴れやかな笑顔が浮かんでいた。

 許可を出したのは僕ではあるが、あれは間違いなく冒険者業をするつもりだ。僕が治癒してやるまで手足が上手く動かなくなっていた奴だから、色々と溜まっていたのだろう。


 ちなみに連盟の使用人と言うものは、厳密に言えば二つに分かれる。

 連盟を設立する時にも少し述べたが、連盟とはそれ自体が食堂や宿を営むところもあるし、直接依頼窓口を設置しているところもある。

 そこに常時連盟員を付かせる訳にもいかないので、一般の人を雇うのだ。つまり単純な雇用契約をしている者を指す。

 もう一つは依頼などには関わらないものの、純粋に連盟の後方担当としてそう言った仕事に従事する者を指す。


 前者は一般人で、後者は正式な連盟員。

 そして前者は一般人なので駄目だが、後者は使用人でありながらも正式に冒険者登録されている連盟所属の者なので、他の冒険者や傭兵が殺しても違法にはならない。

 僕の連盟の使用人は全て後者に該当するので、そう言う意味で困る、と言っているのだ。

 

 次に口を開いたのはネイルだ。彼の表情は硬い。


「ジャスパーの言うことは間違ってないさ。ただ例外もある。ジャスパー、お前だ。俺達はお前の力を見ている。ジブリー伯爵領での特殊個体を圧倒した姿も、あまり大きな声では言えんが王太子殿下のお屋敷での強さも」


 そして、と言う。


「今回のザルード領の大発生スタンピードの一件だ。俺達にも強制依頼は来た。行ったさ。そして知った。十数万の魔獣をたった一人の冒険者が倒したと。その名前が『ミミリラの猫耳キューティー・キャットイヤー』の連盟長ギルドマスタージャスパーだ」

「ふむ」


 来てたのか。それは知らなかった。

 まぁそりゃそうか。強制依頼だったんだから。


「それから依頼を完了し、帰って来て追加の情報も来た。冒険者の実力等級と信用等級が6になったと。実力等級は分かる、そりゃあ6にもなるだろう。だが信用等級が6にはそうはならん。なるとすれば余程に上位の御方が身元保証人になって下さるか、その御方からの推薦がないとな。そしてそれがどなたかなんて、考えるまでも無い」


 僕は腕に巻きついているミミリラの尻尾を撫でながら思う。やっぱり裏人として働ける者は欲しいなと。

 生き延びたサガラの内十人は今も外で働いている。ミミリラに聞いて問題が無ければ呼び寄せるか。正直現段階でも、保険として外に出したままと言うところはあるみたいだし。


「ジャスパー。正直に言おう。俺達が束になってもお前には勝てない。実力も、後ろに居る御方もだ。多少の連盟員への被害くらいは出せるかも知れない。だがその間にここに居る連盟のメンバーや野良の集合体全員の命は亡くなっているだろう」

「ああ、手を出されたら確実に鏖殺おうさつだな」

「だろうな。だから俺達は万が一も無いようにお前の傘下に入ることを決めた」


 どうしてそう繋がるのかさっぱり解らない。


「話飛躍しすぎてないか?」

「俺達は同盟だ。もしどこかの連盟の連盟員がお前のところの連盟員と揉めた場合、その責任は全ての同盟に行く」

「そうか?」

「ああ。同盟を組んでいる以上、被害を受けた連盟を助ける義務が俺達にはある。どう言う理由があろうと、そこを蔑ろにすれば同盟の意味が無くなるし、後々の関係に罅が入る。つまりどうあっても全ての連盟がお前と敵対しなければならなくなる」


 どうしてだろう。視点の違いからか、彼らの言っていることがよく分からない。


「で?」

「今回、それを恐れてジャスパーのところに下ろう、と言う意見が各連盟で出た。だが一つの連盟が抜ければそれは同盟の崩壊に繋がるし、今後の活動に影響が出る。それを避ける為に連盟長ギルドマスター同士で話し合いをした結果が今回の結論だ」


 このままでは何かあった時に一蓮托生で同盟連盟パートナーズギルド全てが被害を受ける可能性がある。

 でも一つの連盟が抜ければ同盟が崩壊して今まで通りの活動が出来なくなり困ってしまう。

 それならいっそ皆で傘下に入れば良いんじゃない?


 つまりこう言うことか――馬鹿じゃないのか?

 それは傘下に入るのではなく、ただ僕に怯えて逃げているだけじゃないか。


 自分達の、連盟員達の為を思っての保身は大いに結構。自分達より上位の存在にこうべを垂れるのもありだろう。

 だがその卑屈な姿勢が気に入らない。


 敵対しないだけなら他にも方法はあるのだ。例えば何かしらの約定を交わし金の神に誓うなり、契約紋カラーレス・コアを刻むなり、彼らが現在の体制のままに活動する選択肢は幾つもある。僕がそれに応えるかどうかは別として、手段自体はあるのだ。

 僕達は別に敵対している訳では無い。比較的友好な関係を築けている。つまり話し合う余地なんて幾らでもあった。

 なのに、彼らはそれを試すことなく最初から膝を着きに来ている。最初から敗北に震え許しを乞うている。最初から己が弱者だと認めている。

 その姿がどうにも不快で仕方が無い。


 あのジブリー領で命を懸けて魔獣と戦っていた勇敢な姿はどこへ行った。

 王太子屋敷で精鋭の騎士や兵に立ち向かっていた勇ましい姿はどこへ行った。

 特にグリーグ。お前はナーヅ王国との戦の際、劣勢の決戦に於いて、戦士としての矜持を胸に死地を駆け抜けた程の強者だろう。その情けない姿はどう言うことだ。


 僕の感情の波を悟ってか、ミミリラとニャムリとピピリの三人が擦り寄ってくる。

 指でテーブルを軽く叩いた。眉根が寄っているのが自分でも分かる。


「で?」


 声を出すと、皆が身体を固まらせた。


「俺にどう利点メリットがあると? 下ります、だけじゃあるまいに」

「ああ、月に得た一定の収益を渡す。連合体も言われれば協力、いや応じる。それ以外にも何かしらの指示があれば素直に従う」

「お前達に利点が無いだろ。まさか俺の傘下に入って終わりではないだろう。傘下とは利があって成立する。ただ恐れるだけならここから出ていけば良いだけの話だからな。貴様らであれば王都でも十分食っていけるだろう」


 恐らく【王者の覇気不愉快な感情】が漏れているのだろう、何人かが苦しそうにしているが知ったことではない。


「もちろん俺達にだって利がある。下るだけで得る莫大なものだ」

「言ってみせろ」

「ジャスパーの傘下、その事実だけで俺達は庇護を得られる」

「ふむ」


 少し力を抜いた。途端に和らぐ彼らの表情。庇護と来たか。


「どういう意味だ?」

「『ミミリラの猫耳』、そしてジャスパーと言う名前はもう各地に広がっている。俺達は同じ都市だからこういう手段に出たが、他所の冒険者だって確実にジャスパーとは敵対しようとしない。連盟単位でこの都市に来た時は恐らく挨拶にすら来るだろう」

「ふむ」

「俺達はそんな連盟と冒険者の下に付いている、下部組織、つまり配下な訳だ。それに手を出すことの恐ろしさ、と言うのは冒険者や権力者であればよく知っている。本当にそうであるかどうかは別としてだ」

「ふぅん」


 非常に良く分かる話だった。

 僕が無能なのに誰も手を出せなかったのは母上、そしてその母上に頭の上がらない父上、更にお祖父様の庇護があったからだ。あの温情がなければ僕は間違いなく野垂れ死んでいた。


 なので、その言葉は納得がいく。むしろそれだけ先に言えよと言いたいくらいだった。ようはサガラと同じ、こいつらは下りに来たのでは無く、庇護を得る為にここにこうして居る訳だ。

 もっと厳密に言えば、ネイルは庇護と言う言葉を使ったが、結局のところこれは契約をしに来ているのだ。


 自分達はお前の下に付く、その対価として色々なものを差し出すから敵対しないで欲しい。配下になると言うのもその対価の一つであり証明でもある。

 その結果、庇護と言う名の“威”を手に入れることが出来る、と。ネイルの言葉はそういうことなのだろう。


 まぁサガラとは違い、僕から直接の庇護を得る訳ではなく、連盟第5段階ギルドランク5連盟ギルド『ミミリラの猫耳』の連盟長であり、冒険者第6段階アドベルランク6であり、英雄と呼ばれ、背後にザルード公爵家当主が居るジャスパーと言う冒険者の名前を傘に、間接的に庇護を得ると言う訳だ。


 それなら別に構わない。

 名前を貸すと言う意味ならアンネが最初に僕にお願いしてきたことと似ているが、こいつらの場合は別に僕に依存する形で後ろ盾を得る訳ではなく、英雄の“威”を利用しながら冒険者業をするという形なのだからまるで意味は違う。彼らはある程度なら自分で尻は拭けるのだから。

 彼らの手に負えないことが起きれば腰を上げなければいけない時もあるだろうが、そんなことは早々起きない。そして多少のことなら同盟で結託して解決するだろう。


 月々の上納金を得る。城塞都市ガーランドで最大手三連盟が下部組織という手足を手に入れられる。僕が都市を離れている間の、連盟拠点への攻撃に対する抑止力が生まれる。

 これらの対価にジャスパーの“威”と言う庇護を与える。

 こちらとしては全く損は無いし、得する部分が多い。格付けも終わっているから裏切りの可能性も殆ど無いだろうし、何の問題も無いかな?


 欠点デメリットがあると言えば、傘下となった連盟の誰かが余程の馬鹿をやらかした時だが、その時は尻尾を切れば良い。そもそも守ってやるなんて約定は交わして無いし、そこまでしてやる義理はないのだから。

 サガラには安寧と言う庇護を与えた。彼らには僕の“威”と言う庇護を使う権利を与えた。そう言うことだ。


 僕は紅茶のお代わりを頼んだ。


「話は分かった。俺は良いよ。別に不利益無いしな」


 僕がそう言うと、全員の顔が和らいだ。


「実際さ、心配はしてたんだよ」

「何がだ?」

「いや、俺が居ない間に連盟拠点に手を出す馬鹿が居たら、都市から連盟が減ることになるなって」


 全員の表情が固まったので僕は手を振って笑った。


「まぁ冗談だよ。冗談になってるんだ、問題ないさ」


 そう言って背後のミミリラの胸に頭を埋めた。何だか無駄に疲れたな。

 そのままの体勢でネイルに聞く。


「手続きって何かあるのか?」

「ああ。斡旋所には連盟組織登録申請書と言うものがあってな。それを提出しなければいけない。登録が完了すれば、その後は上位組織が下位組織の依頼の処理をすることが出来るようになる。この連盟にこの依頼を振る、と言う形だな。逆に下位組織は依頼完了などの確認を上位組織にして貰わなければいけなくなる」

「手間じゃない?」

「傘下ってそう言うものだからな」


 まぁ確かに、と苦笑する。

 組織と名が付いている以上、上に存在する組織や存在に不明な行いなんて許される訳が無い。国の組織がそうであるように、冒険者も御多分に漏れないようだ。


「細かい話は今度、まぁ早ければ夜にでもまたここで決めようか。今集合体主級パーティーリーダークラスが外に出て夜まで帰って来ない予定なんだよね。俺と連盟副長サブマスターのミミリラだけが聞いても、俺達が外に出てたら下位組織の皆が動けなくなるし。伝達不足も説明の二度手間もちょっとね」

「ああ、分かった。では夜に必ずまた来る」


 その言葉に、僕と長級マスタークラス全員が頷く。

 折角なので、彼らの後ろに居る冒険者達についても聞いておこうかな。


「ちなみにそこに居る何人かはお抱え野良?」

「ああ、出来れば挨拶をしたいと言うから代表格を連れて来た」


 すると一人の男と一人の女が立ち上がった。

 二人共かなりの美男美女だ。


「集合体『馥郁ふくいく』の集合体主ローラルと言います。この度はありがとうございます」

「集合体『サンジュ』の集合体主シムシスと申します。これからよろしくお願い致します」

「こちらこそ」


 僕が手を振ると二人が座る。他にも何人かが立ち上がっては挨拶をしてくる。

 挨拶も終わり後はまた夜に詳細を話せば良いか、と思ってふと気付く。最も重要なことを言っていなかったな。


「ああそうだ、これは絶対守ってくれな」

「何だ?」

「連盟の女には絶対に手を出すなよ」


 言うと、僕の背後を見た面々が笑う。


「当たり前だ、そんな馬鹿はいねぇよ」

「そう? ここに居る面子だけじゃなくて、冒険者だけで七十二人、あと今回違うところから最高級娼館の娼婦達を百人以上連れて来たから、それにも触るなよ」


 僕がにやりと笑うと、全員が唖然とした。


「この邸宅の後ろに娼館がある。もし街で凄い美女や美少女が集団で歩いてたら気を付けろって伝えておけよ」


 まぁあいつらを外に出す時は必ず護衛を付けるんだけどね。

 それからは多少の雑談をして、また夜にと言うことで彼らは一度撤退と相成った。


 去ろうとする彼らに、僕は一つ尋ねてみた。


「ところでお前達、連盟とお抱え合わせて何人くらい居るんだ?」

「総数で四百五十人くらいだな」


 多いなぁ。

 組織運営が円滑になるまでは手間が掛かりそうだ。斡旋所の登録関係も地味に面倒なんだよな。まぁ娼婦達の為にどうせ一度は足を運ばなければいけなかったし、丁度良いと言えば良いか。


 そう思いながら、僕は後でミミリラで癒される決意を固めた。

 ちょっと、精神的に疲れた。


《お慰めします》

《よしなに》

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