第82話 夜逃げに追手は付きものらしい

 旅をする上で必要なものは何だろうか。

 色々あるだろう。馬や武器や回復薬。魔術が使えないことを前提にすれば水に着火道具。言い出せば幾らでもであるが、その内、人が生きる上で水と並んで必要不可欠なものがある。

 そう、食料である。


 今移動している人数は百六十五名。城塞都市ザーケルへ向かう途中寄った町で多少の補給はしたが、正直かなり厳しい。狩っている魔獣と獣だって持ちはしないだろう。

 更に言えば連れているのは高級な肉を食べ、野菜を食べ、パンを食べ、紅茶を飲みながらお菓子を食べる貴族に準ずる女達だ。野営食のように大雑把に調理したものを「さぁ肉だ食え」と言う訳にはいかない。

 彼女達は別に贅沢な訳では無い。そういう生活をするのが当たり前の環境に居ただけだ。そんな娘達に野性味溢れる肉ばかりを食えと言うのはむしろ僕に非が出てくる。

 美を存在価値の一つとする彼女達の美を汚そうとする真似は主人として有り得ない。


 ではどうしたかと言えば答えは簡単。僕が全力で走り城塞都市ザーケルに戻り片端から食料を買い集めたのだ。顔を変えて街を一周し、また時間を置いて顔を変えて一周、また顔を変えてもう一周と言った感じで。


 どうしても嵩張かさばる量の場合は手頃な鞄を買って、その中に入れる振りをして【僕だけの宝物箱カラーレス・ジュエルス】に収納し、驚く店主などに「これは宮廷魔術士の偉い方にお借りしたのだ」なんて適当なことを言って誤魔化した。

 どうしてお前みたいな奴がそんな魔道具を、程度は思われたかも知れないが、こんな王都から離れた都市で店を構えている人に真偽なんて分かりようもない。

「疑うなら王都にいらっしゃる宮廷魔術士の方に聞いてみろ」なんて濁せば何も突っ込んでこない。逆に僕は宮廷魔導士七人と宮廷魔術士五十六人の名前全てを口に出来る。弟子を含めた宮廷の魔を司る全ての名前を知る奴なんてそうは居ない。説得力は抜群だ。


 ただ正直に言えば、これでも心許ない。昼はおやつだけにして、朝夜二食の消費速度ペースで消費しても次に中継する町まではぎりぎりだ。かと言って、あまりこの集団から長い時間を何度も離れることはよろしくない。いつ何がどれだけ襲ってくるのか分からないのだから。

 まぁ中継町に近づけば何とでもなる。走り戻っても数時間もかからないのだから。最悪は一日分くらいは肉だけで我慢して貰おうと結論づけることにした。

 

 それから特に襲撃などもなく数日馬車を進め、何とか娘達に不自由な思いをさせずに中継町まで辿り着くことが叶った。

 到着して早々ジャルナールには補給を頼み、僕はサガラの面々と分かれて宿を片端から取ることにした。


 幸いなことにこの中継町は比較的大きな町で、宿はそれなりに数があった。

 そもそも『中継町なかつぎのまち』とは、次の都市や町までの行程が長い街道途中に作られる、宿場町が大きくなったもののことを言う。その為、旅人、冒険者アドベル傭兵ソルディア、そして兵士向けに宿は多く作られている。


 かと言って人数が人数だ。一室に入る人数は相当に増えてしまった。まぁ外で寝るよりは余程にましだろう。

 後はジャルナールがどれだけ食料を商会や卸屋から仕入れてくれるかだけだな。



 ※



「ああ、何か疲れたな。身体は疲れてないのが腹立たしいくらいだ」

「お疲れ様」

「本当。ちょっと働きすぎです」

「って言ってもさ、ついこの間まで三週間も寝てた上に後はのんびりしてたよな」


 そんな感じで会話していると、珍しくピピリが喋っていないことに気づく。どうしたのかと見てみれば、一人首をかしげながら考えごとをしている。

 ちょっと気になったので考えを読んでみると、僕の癒し方を割と真剣に考えてくれているようだった。

 ピピリにしては珍しいと思うも、この娘は真面目な時は真面目だと思い出す。逆に言えば、ピピリが真剣に考える程に僕が疲れているよう見えるのだろうか。半分は冗談で言ったんだけどな。


 僕達が居る場所は宿の一室。他の宿や部屋に泊まっている者達は結構な室内人口密度を味わわせている中、僕は比較的広い部屋で三人と一緒だ。

 そして現在僕はぐったりベッドに倒れ、三人にくっつかれたり抱きしめられたり乗っかられたりまぁ色々されている。彼女達なりに癒そうとしてくれようとしているのが強く伝わってくる。


 実を言えば、精神的な疲れの原因がもう一つある。

 最近の僕はジャスパーばかりで、元々の王太子である自分が曖昧に感じる時があるのだ。ここ数日は特にそれが強くなってきている。

 別にジャスパーが悪いなんて言わない。これはこれでもう一つの僕だと思えるようになってきているから。


 ただ何と言えば良いんだろう。自分なのに自分じゃないと言うか。両方が僕の筈なのに王太子である僕を無理やり封じ込めようとしていると言うか。

 決して偉ぶりたい訳じゃない。だが横柄であり人の上に立って当然なのが王太子。誰かの世話をするのでは無く誰かに世話をされる。誰かに気を使うのではなく誰かに気を使われる。その姿こそが王太子なのだ。

 そんな自分が無くなっていると言うか抑圧されているというか。変な例えをすれば、カー=マインジャスパーが殺そうとしている感覚だ。けれど、カー=マイン王太子ジャスパー冒険者如きが適う筈もない。王太子に勝てるのは国王と王妃、ただお二人だけなのだから。


 そんな曖昧すぎる感覚自体が焦慮ストレスになっているのだ。

 そしてこれはあまりに曖昧で焦慮なのかも不明なのか、ミミリラ達にすら気付かれてないようで、何だかなぁ、と言う重たいものが胸のうちにある。


 僕はわざと強めにミミリラの臀部を鷲掴んだ。


「んにっ」


 感度の良いミミリラがびくり反応したことに微笑み、敢えて乱暴に身体を弄ぶ。

 そこで何か感づいたのかニャムリが耳元に顔を寄せてくる。


「ジャスパーさん、何かありましたか?」

「分かる?」

「ええ。少し普段と違う感じが」


 普段か。普段か……普段って何だったかな。

 僕は息を吐いた。


「なぁミミリラ」

「なに」

「俺は誰だ?」

「ジャスパー」


 その言葉の後に、僕は室内を覆うように【僕だけの部屋カラーレス・ルーム】を発動させ、【変化ヴェイル】を解いた。

 たったそれだけで、重い礼服を脱いだような軽さを感じた。


 その状態で改めてミミリラの瞳に紫色の瞳を合わせる。


「では私は?」

「王太子殿下に御座います」

「で、あるな」


 そう言って身体を起こし、僕に跨いで座る形になったミミリラの顎を親指と人差し指で軽くつまむ。相変わらず瞳は綺麗なままだ。しかし人見の瞳には、その奥に病んだ狂信者の魂が映って見える。


 その事実にどうしてか、途轍もない充実感を覚える。


「貴様は何だ」

「王太子殿下の忠実なしもべに御座います」

「それだけか?」

「この身この心この魂、王太子殿下に全てを捧げた一人の情婦に御座います」

「で、あるか」


 ニャムリを見る。


「貴様は何だ」

「王太子殿下の忠実なしもべ、また恐れ多くも無聊ぶりょうをお慰め差し上げる情婦に御座います」

「で、あるか」


 ピピリを見る。


「貴様もか?」

「はっ。同時にご寵愛賜ることを望む愚かな女に御座います」

「で、あるか」


 僕はもう一度ミミリラを見る。


「どちらの私が私か?」

「どちらも御魂はカー=マイン様。比べるものは御座いません」

「ああ、なるほど」


 焦慮を感じていた理由が分かった。

 今まではジャルナールとサガラだけが居た。しかし今はアンネ達が共に居る。そして王太子とジャスパーが同じであると知っているのは前者だけなのだ。

 カー=マインもジャスパーも同じなのに、ジャスパーしか許されない状況。そのもどかしさがもやもやした気持ちを生み出していたのだ。


 納得した。そして、酷くすっきりした気持ちになった。

 現状ジャルナールとサガラ以外に正体を明かすつもりはない。そう考えれば、ジャルナールとサガラの価値が爆発的に上がった。


 僕は非常に良い気分で微笑んだ。それが伝わったのか、ミミリラが蠱惑的な笑みを浮かべた。


「世話をせよ」

「畏まりました」


 そうして三人から献身的な世話を受ける。これまで以上に、サガラの女達が側に居ることを当然と感じるようになった。

 至上の心地よさを感じる中、どうしてだろう――幼き頃の僕が、今の僕を無感動な瞳で見ている気がした。



 ※



 ジャルナールがしっかりと補給物資を手にしてくれたお陰で、僕達は安心して中継町を出発することが出来た。

 現在は中継町を出て二日程進んだ辺りをゆっくり移動している最中で、次の町まであと一日程度の場所だ。この町を抜けて凡そ二日も走ればザルード領はマリード地区に入る。


 ザルード領とアジャール領の間には、二つの伯爵領がある。

 アジャール領寄りにあるのがフーダ伯爵領。そして現在僕達が進んでいるここ、ザルード領寄りの領地がスーラン伯爵領になる。

 つまりお祖父様に隠れて武具や物資を買い集めていた伯爵の領地だ。そして他に買い集めていたジーバ子爵とザバッカ子爵はこの伯爵領の各地区を任されている代官となる。

 スーラン伯爵はもちろんフーダ伯爵もアジャール侯爵の派閥貴族だ。つまり、僕達が居るこの場所は完全に彼の手の内であり、しかも二つの伯爵領のほぼ中間と言う訳だ。


 そして現在、僕達が進んでいるこの場所は人通りが非常に少ない。


 今進んでいる場所は山岳地帯の麓付近に当たる。右手側は完全に山岳と言った風景で、小高い崖や浅い林や森が現れては途切れたりを繰り返している。

 左手側には数百メートル程向こうに崖がある。こちらは聳えているのではなく、僕達からは見下ろす形となる。常人が落ちたら先ず間違いなく助からない高さがある。

 普通に通るだけならば何の問題もない街道の風景だ。しかし、今回みたいな大人数で移動する場合、前後にしか逃げることが出来ない閉塞感を感じる場所でもある。


 つまり、野盗や傭兵崩れが襲撃するには最適な場所ということだ。


 僕の【万視の瞳マナ・リード】には行く先の右手側、傾斜のある崖の上の森の中に、幾つもの反応がある。詳細に表示させてみれば、『トゥール盗賊団』と出ている。その中には僅かばかりに傭兵崩れの姿もあるようだし、一部には傭兵団連盟ソルディアーズギルドの名前まである。つまり立派な冒険者登録をしている傭兵も居ると言う訳だ。


 待ち構えているその数、凡そ五百。


 こんなことアーレイ王国では絶対に有り得ない。

 これだけの武装集団なんて情報一つ入った時点で被害の有無に関わらず確実に征伐軍がすっ飛んでくる。国王にとっても領主にとっても害にしかならないし、何より殺して良い不埒者だ。戦闘訓練になるし経験値も手に入る。アーレイの戦士である王侯貴族のみならず、騎士や兵士にとってもただの獲物おやつでしかない。

 そんなこの国で、この規模の盗賊団が存在出来ている筈が無いのだ。


 それでも事実こうして存在していると言うことはつまり、気づいていながらもその存在を目溢ししている者が居るのだ。そしてそれが誰かなんて考えなくても分かる。なにせここは領内、そこを自由に扱えるのは領主以外には有り得ないのだから。

 そしてこの領地の主は誰の派閥に属しているかを考えれば自然と答えは見えてくる。


 ふと思い出す。スーラン伯爵とジーバ子爵、ザバッカ子爵はお祖父様に隠れて物資を買い集めていた。

 そして思う。盗賊団の野盗共は果たして、どうやってその存在を隠しながら武器や防具、食料を手に入れていたのかと。いつも獲物が街道を通る訳でも無し。手下を食わせてやるだけの収入源がどこかにある筈だ。


 時期タイミングがおかしいので違うかも知れないけれど、何となく、腑に落ちた気がした。もしかしたら彼らはお祖父様がお出になられる以前から似たようなことをしていて、あの時はそれが目立っていたのかも知れないな。


【万視の瞳】に映っているのは野盗だけではない。

 先ず、中継町を出発後暫くしてからずっと後を付けて来ている傭兵の群れ、傭兵団連盟の姿がある。纏まっているのは馬車に乗っている者もいるからだろう。

 きっとこいつらが野盗と合わせて襲う手筈なんだろうな、と思う。だからこそ、こちらから距離を取って追いかけて来ているのだろうから。


 そしてその数百四十人。七人集合体7人パーティーと考えれば集合体二十組20パーティーと言う訳だ。数だけで言えば大手連盟丸ごと連れて来ているようなものだ。

【万視の瞳】には複数の傭兵団連盟の名前が表示されているので、足並みを揃えてきただけで、依頼主は違うのだろう。辿れば恐らく一人になると思うが。


 一番頭がおかしいんじゃないかと思うのは前方に確認出来る、こちらに向かってやや遅めに移動している最中の五百人。こいつらの表示は「スーラン伯爵家直属兵」を始めとした子爵や男爵の領兵達。

 そして後方傭兵団連盟の更に離れて後ろに居る「アジャール侯爵家直属兵」や「フーダ伯爵家直属兵」を始めとする子爵や男爵の領兵達千二百人。

 しかもそれを率いているのは正真正銘の爵位持ちだ。アジャール侯爵本人こそ居ないものの、もうこれは完全な領主混合軍だ。


 まさか冒険者第6段階アドベルランク6に対して堂々と領主軍を送り出してきたと言うのだろうか?


 純粋に目的あっての領主混合での軍事行動なら分からないでもないし、ザルード領への支援派兵と言うのであれば納得も行くが、何せ真っ直ぐこちらに向かって来ている。目的は野盗や傭兵達と同じと考えた方が自然だろう。


 馬鹿なのだろうか? 本当に冒険者第6段階なんて存在に手を出せばどうなるか分からない訳では無いだろうに。

 ましてや相手はザルードの英雄とすら言われている冒険者だ。伯爵以下の当主やこの程度の軍勢では太刀打ち出来る訳がない。そして恨みを買えばその瞬間全てが終わる。


 あるいは、そうまでしなければいけない価値がアンネ達にあるのだろうか?

 触れてはならぬ相手だと理解していようとも、手を出さなければならぬ理由が。


 アジャール侯爵が寝床でアンネに零してしまったあの言葉や高級娼婦達が仕入れていた情報以外にも、例えば娼婦達にとっては価値が分からなくとも、外に出たら困る“何か”を彼女達が手にしているとか。

 今日こんにちに至るまでに彼女達からは色々と話は聞かせて貰っているが、全てが全て聞けている訳でもないので、それが何かは予測も付かないが。


 まぁはっきりしたことがある。誰が指示を出したかは言葉にする必要もないが、確実に僕達を消すつもりだ。

 今居るこの場所なら次の町からも遠いし、人通りが少ないから目撃者は居ない。実際僕の【万視の瞳】にも旅人や冒険者の姿は映っていない。

 例えザルード領を救った英雄であろうとも、ここで消せば誰に何を言われることもない。


 まぁ、それはお互い様ではあるけれど。


 冷めていく思考の中、『以心伝心メタス・ヴォイ』でジャルナールとミミリラの二人に心の声を飛ばす。


『ジャルナールとミミリラの二人に伝える。この先で野盗の待ち伏せがある。街道の前後からも傭兵や領主軍が迫り、その数二千を越える。広いところで馬車を止めよう』

『あい分かった』

『ミミリラはサガラの面々を使って全ての馬車の娼婦達に襲撃があるから止まると伝えてきてくれ。何の心配も無いから茶菓子の時間ミッディー・ティーブレイクを過ごす気持ちでくつろいでろってな。それが終わったらサガラは一度俺のところに集まってくれ』

『畏まりました』


 僕の指示を受けたミミリラがサガラの女達に目配せをすると、全員が頷いてから荷台を飛び出していく。ミミリラもまた、膝枕していた僕の頭をそっと置いてから荷台を降りていった。

 それ以外、アンネやアンナを筆頭にした荷台の半分を埋めていた娼婦の娘達は何事かと目を丸くしている。


「ジャス、何かあったの?」

「何かあったの、と言うより、今からあるの、だな」

「どう言うことですか? 旦那様」

「夜逃げしたから追手が来ましたってことだな」


 僕はミミリラの膝枕が無くなったので身体を起こした。

 そんな僕を見て、ラナと言う娼婦の一人が口を開く。


「それは……お貴族様ですか?」

「さぁね。ただ総勢で二千を超える野盗や傭兵、領兵が構えてたり向かって来てたりするな」


 娼婦達が息を飲んだ。

 そんな中でも流石の先代店主アンナ、そして僕の力を知っているアンネは全く動じていなかった。


「旦那様が守ってくださるわ。信じられないとお妾失格よ」

「そうね。あと貴女達ジャスの強さを知らないから不安なのよ。今は向かって来ている彼らを憐れむところよ」

「ははっ」


 その言いように笑ってしまった。


「何だアンネ。旦那様を心配してくれないとは酷いな」

「私が心配するのはジャスから飽きられることと見捨てられることね。古の龍セブンズ・ドラゴンが産まれたての獣に挑まれるのをどうやって心配すればいいのよ」


 この世には七つの属性其々それぞれを司る生物が存在する。

 そんな中でも古くから生きる龍のことを古の龍セブンズ・ドラゴンと呼ぶ。それらは龍種の中でも特別な力を持っていることから畏怖の対象となっている。生物最強とも言われており、何か恐ろしいものの例えとして出てくる筆頭だ。

 それと比べるのは流石に褒めすぎと言うか、彼ら彼女らの耳に届くと怖いので今後は止めて貰いたい。上位の龍種は人種と変わらない知能があるのだから。


 さて、では僕も準備を始めるとしよう。


「ちょっと行ってくる。何も心配せずにここに座ってれば良い。もしここに奴らが乗り込もうとしてもそのままのんびりしてろ。奴らは絶対にこの馬車に乗り込めないし、お前達に指一本触れられないから」

「畏まりました。お気を付けてくださいね」

「お待ちしてますわ旦那様」


 アンネがおどけて言う。

 僕は手を振りながら馬車を飛び降り、そして屋根の上へ飛び乗った。

 僕の乗っている馬車は行進列のほぼ真ん中にある。そこに立つと、行進列の全体が見渡せる。改めて見ると本当に長い。


 暫くそうやって眺めながら【万視の瞳】を確認していると、比較的広くなった場所で先頭のジャルナールが馬車を街道から離れるように寄せて止まらせた。それに釣られるように次々に馬車が止められていく。

 ここから待ち伏せしている盗賊団との距離はそう遠くはない。前後からこちらへ向かって来ている軍勢もここに到着するまでは今少し時間がかかるだろう。


「ジャスパー伝え終わった」

「ご苦労さん」


 同じように馬車の上に飛び乗ってきたミミリラの耳を撫でる。

 僕の乗っている馬車の周囲にはサガラの面々全てが集まっている。


「ミミリラ。ニャムリとピピリの二人を連れて戦いに参加してこい。ちょっと一度冒険者としてのサガラの戦いというものを見てみたい」


 城塞都市ポルポーラの宿で、僕は連盟拠点ギルドハウスで待つ面々のことを心配した。それに対し、ミミリラは大丈夫だと言った。僕自身もミミリラ達やニール達の集合体連携パーティープレイを見たことはある。

 しかし『サガラ』と言う里人がどれだけ戦えるのかを、僕はまだ見たことがない。裏人と戦士とでは強さの意味が全く違う。ミミリラが大丈夫だと言う冒険者としての戦いを確かめたいと言う気持ちがあった。


 死にさえしなければ助けられる。死なないように支援もする。その上でもし即死するようなことがあれば、それは弱いサガラが悪いと思うことにする。

 城塞都市ポルポーラで僕を支えてくれた感謝の念はある。が、それはそれ。弱い者は朽ちていくだけだ。


 そんな訳で、僕達に牙を剥こうとしている奴らには生贄と言う名の試金石になって貰おうと思う。

 僕がサガラの強さを見極める為、彼らには精々役に立って欲しいものだ。


 僕の練習相手としてもね。

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