第68話 皆で食べよう

「あん? こりゃお前、王太子殿下のお屋敷で使ったやつじゃねぇか」

「そりゃ、そこからジャルナールを通して下げて貰ったやつだからな」

「ああ、そういやあれは殆ど支店長が持って帰ってたっけな」


 僕達の馬車から下ろされたものを見たエルドレッドの第一声がそれだった。

 特に気にすることなく返事をしたものだが、そう言えば今並べているこの焼肉調理器具セット、最初に使ったのはエルドレッド達だったな。それがこんなところにあればそりゃ驚きもするか。


 宿から全員で歩いて馬車があるところに到着すると、僕は真っ先に中を確認すると言う名目で馬車それぞれを巡り、【僕だけの宝物箱カラーレス・ジュエルス】から出せる道具と食料を出しまくった。どう考えても多すぎだろってくらいには出した。生肉や新鮮な野菜もあるから突っ込みどころは満載だけど今の僕に躊躇いは無かった。

 まぁエルドレッド達にとって僕は恩人だし、何より冒険者アドベルの能力については聞かないのが暗黙の了解。深くは聞いてこないだろう。多分。


 そんな訳で、今はニール達に任せた焼肉の準備が終えるのを待っている状態だ。


「まぁしかしよ。今回は本当、助かった。感謝してる。俺だけじゃない、ここに居る奴らも、ここに居ない奴らも皆お前には感謝してる。この通りだ」


 丸型のテーブルを囲み、対面に座っているエルドレッドがそう言って頭を下げた。その後ろに立ち並ぶ兵士達もまた同様で、皆知っている奴らばかりだ。

 ちなみに僕の後ろには補助係としてパムレルが控えている。


「気にするな。正直に言えばお前達の為と言うよりは、自分の為だったからな」

「ああ、何か回って来てたなそれ。何でも公爵閣下に大恩があってここが第二の故郷だとか」

「ああ。詳しくは言えないがその言葉に嘘は無い」

「ほぉ。まぁ良いけどな。大事なのはお前が命をかけて俺達の故郷を守ってくれたってことだ」

「守れなかったところもあるがな……」


 あの失くなっていた要衝二つを思い返す。

 僕がレーニルで愚かなことをしなければ間に合ったのか。そもそもレーニルにたどり着くまでに宿を取ったりしなければ助けられたのか。ああすれば、こうすれば。そう言った“もしも”が脳裏をよぎってしまう。


「人にゃ手を伸ばすにも限界がある。だから群れる。仲間を作る。それで伸ばす手を増やすんだ。お前に非は全く無い。お前は自分の伸びる手を最大限に伸ばしてくれたんだから」

「エルドレッドっていかつい顔の割に良いこと言うよな」

「おいこら人の感謝の気持ちを返せや」


 そんなやりとりに、エルドレッドの後ろに並んだ兵士達が笑う。


 ふざけて返したが、今のエルドレッドの言葉は僕の胸に深く突き刺さった。

 そう、一人の手の長さなんてたかが知れている。一人だけが強くても意味がない瞬間がある。今回の一件は僕にそれを痛感させてくれた。もし一人でザルードに来ていた場合、僕は何も出来ないままに死んでいただろう。


 味方と言うものは作った方が良いんだろうな、なんて思ったことは確かにあったが、僕はその意味を全く分かっていなかった。だが、エルドレッドはそれをきちんと理解している。だからこそ、今みたいな言葉が流れるように出てくるのだろう。

 何だかそれがちょっと誇らしくて眩しくて、僕は目を細めて苦笑した。


 それからエルドレッドと取り留めのない馬鹿話を続けていると、準備の手伝いが終わったのか、ミミリラが隣の椅子に座ってそっと身体を寄せてきた。


「そういやそのお嬢ちゃんは連盟副長サブマスターだっけか。お前の女か?」

「ガッツリ俺のだな。手を出したら怒り狂った俺が敵になるから気をつけろよ」

「ぜってーふれねぇ。龍の番ドラゴンズ・ペアかよ」


 龍種はつがいを作ると生涯を共に過ごすという。その伴侶を傷つけた際はもう片方が激怒し、相手が何であれ傷つけたものを決して許さないと言う。

 伝承ではそれで滅びた国も幾つかあるらしい。神話の話まで持ち出せば番を奪った神すら滅ぼしたとか。この世界の大神と呼ばれている七柱は決してそんなことをしないので、したとしても木っ端な神だろうな。


 僕はミミリラの手を借りて、その頭をわしわし撫でて猫耳を小さく指でくすぐった。それを出来るのは親しい間柄だけ。そして僕とミミリラは種族が違う異性だ。これだけでエルドレッド達に伝わるだろう。

 こうしたいと思うだけで意思が伝わるってこういう時に便利だな。


「あんまり詳しくはねぇが、お前の連盟ギルド、女も結構居るんだろ? 羨ましいこった」

「全員一度にやると寝る時間が殆ど無いから体力無いと大変だぞ」

「……」


 エルドレッドは準備をしている女衆を見て、ミミリラとパムレルを見て、僕を見て、目を瞑って顔を振った。


「お前の印象がかんっっっぜんに変わったわ。だが話は分かりそうだ。三週が経ったと言え、実はまだ復興は一部で始まったばかりでな。それ以外は半壊した家屋の解体や片付けが終わってねぇのよ」

「ふむ?」

「つまり本格的な復興作業はこれからが本番って訳だ。そしてここの情報は各領地に回ってる。何が言いたいか分かるか?」


 城塞都市ガーランドを出発する時にもジャルナールと話したが、恐らくガーランドやその他の領地にも、復興支援の強制依頼が出ているだろう。つまり大量の冒険者や傭兵が次々にここ城塞都市ポルポーラやザルード領で被害があった場所に集結する訳だ。

 それだけじゃなく、有志で集まる一般の人だって居るかも知れない。鍛冶師や大工その他大勢の人達が集まってくる訳だ。そんなところには、必ず生まれる需要がある。


 まぁそもそも女の話をしていたのだ。分からない方がおかしい。


「話の流れからすると、出張娼婦が来るって感じか? それも多方面から大量の」

「よく分かってるな。流石じゃねぇか。つまりそう言うことだ。俺はお前の護衛だ、いつでも付き合うぜ」


 本気で言っているのか冗談で言っているのかは定かでは無いが、それを話すエルドレッドの顔はとても楽しそうだった。ちなみにエルドレッドの後ろでは兵士達が「え? 俺達は?」と言った顔をしている。エルドレッドは今間違いなく「俺は」って言ったもんな。

 まぁ根っこが真面目なエルドレッドが、都市がこんな状況なのにそんないい加減なことを言う訳がない。今のは恐らく貢献した僕への気遣いだろうな。行きたいと言えば本当に連れて行ってくれるだろう。


 ミミリラの耳を弄りながら思う。まぁ悪くは無いな、と。

 ただ個人的に至高とも呼べるミミリラを筆頭に最高の女達をいつでも抱ける。わざわざ金を払ってまで違う女を抱きたいとは思わない。

 ミミリラが以前自分に飽きれば他の女を、と言う話をしたが、飽きるどころか日に日に味を増していっている自分に忠実な美女が居る以上、無駄な味は邪魔にしかならない。


「気が向いたらかな? 何せ毎日相手は居るからな」

「おい聞いたか。これだから上位、いや一流の冒険者は」


 エルドレッドが後ろを向いて同意を求めると、皆がうんうん頷いた。

 僕はその言葉に苦笑した。わざわざ言い直してまで一流だなんて。


 厳密に定められている訳ではないが、冒険者とは段階ランクによって呼称が変わる。

 これは魂位レベルでされる区別とはまた別の話で、3が下位、4が中位、5が上位、そして6が最上位だ。この最上位を越える冒険者として、尊称的な扱いで一流と言う呼び方をすることがある。

 つまり、エルドレッドは今わざわざ「とんでもなく凄い冒険者」と言い直してくれたのだ。そのわざとらしくも嫌味の無い言い方がおかしくてつい笑ってしまったのだ。多分に下世話な意味が含まれているだろうことも併せて、だ。


 まぁこれらは厳密なものではないし、斡旋所が公式に認めている区別や呼称では無い。例えば冒険者段階アドベルランクが4であろうとも上位と呼ばれることもあるし、逆に5であっても中位と呼ばれることもある。ようはどう見られているか、と言う訳だ。


 折角だから主人としては中々聞けないことを聞いてみようか。


「なぁ、お前らってどうやって性欲処理してるんだ? メイドには手を出せないだろ?」

「ああありゃ出せねぇな。仮にも王太子殿下の御世話役だし、そもそも貴族のご令嬢だって居るからな」


 ちなみにエルドレッドはかなり見目が良い。その上公爵家に代々仕える家の次期当主であり、騎士号を賜っている上位の騎士だ。金だってある。落とそうと思えばメイドの一人や二人は容易いだろう。


「じゃあどうしてるんだ?」

「実を言えば直属兵は割と自由だ。屋敷に付いてる奴ならいざ知らず、外に出る奴らも多いからな。その時に発散してるのさ」

「その論でいけば近衛兵は無理じゃないか?」

「あいつらはぶっちゃけたところ、性欲を殺す訓練を受けてる」

「え?」

「何せ本来は王城だけじゃなく、王宮や宮廷内で護衛してる兵士だ。王宮は言わずもがな、宮廷には宮廷貴族だけじゃなくて色んな上流階級の女性が社交界サロンに集まる。万が一にもそういった方々に劣情を催さないように、冗談抜きで鋼の精神を鍛える為と言って特殊な訓練を受けてる。昔聞いた話じゃあ、素っ裸で娼婦十人が居る部屋に放り込まれて、男として反応したらその回数に応じて棒叩きだったかな」

「まじか……」


 知らなかった。いや知る訳ないんだけどさ。


「ただどうしても男だ。子孫を作る力は残す訳だから、溜まるもんは溜まる。そう言う時は上手く時間を作って外に出るんだよ。基本的に近衛兵が警備を担当するのは十人だ。残りは普段から訓練なり休むなりしてる。だからそこの時間を利用して街に行かせる。後はその時に好きな娼館ってところだ」

「びっくりするぐらいの性事情だったな……」

「まああんまり言わねぇでくれ。これでも王太子殿下の兵士だからな。隠す程でもねぇが」

「ああ分かった」


 自分の兵士の性事情なんて誰が言えるか。

 そう言えばあっさり王太子屋敷の警護の状況を話したけれど、恩人だからなのかな? はたまた僕と言う存在に隠しても意味が無いからなのか。まぁどちらでも良いか。


 そんなことよりふと思うのは、こういう場所に来る娼婦と言うのは本当に癒しと夢を売りに来てるんだな、と言うことだ。先程エルドレッドが口にしたことも、別に悪いことじゃない。僕はもし本当にエルドレッドが娼婦の仮宿に足を運んでも何も思わない。楽しんで来いよ、と声援すら贈るだろう。

 なにせ自分の故郷が踏みにじられているのだ。心だって踏みにじられている。

 そんな時、男にとっては女性の温もりが最高の癒しだろう。ニールの言葉を借りるなら、「女を抱けば」と言うやつだ。今の僕にはそれが痛切に分かる。


 復興支援に来る人達だって、何の娯楽もなければ録に美味い物も口に出来ない、その上楽しめるものすら無いとくれば、最初は大丈夫でもいずれは嫌気の一つも差すだろう。そんな人達の癒しとなるのだ。そこに足を運ぶ男を責める奴は居ないだろう。

 まぁそれが妻を持つ夫だったりした場合は知らないし、女にとっての癒しは? と聞かれてもやっぱり分からない。僕は未婚の男なのだから。


「ジャスパー準備出来たわよ」


 イリールの声に顔を向けると、そこには焼肉調理器具が十二ほど並んでいる。一つ四人計算で四十八人分。全員合わせて四十五人だから丁度良いか。

 その脇にあるサイドテーブルにはこんもり肉と野菜が載っており、更に少し離れたところにはパンの山が乗せられている。ちょっとした配給にしか見えない。

 僕はエルドレッドに視線を戻した。


「だ、そうだ。行くかマルリード」

「おう。準備するの見てたらお屋敷思い出して腹が減って堪らん」

「さてじゃあ」


 と言って再びパムレルに運んで貰おうとしたら、ミミリラとピピリに椅子のまま集団の近くまで運ばれた。これはあれか。猊下げいかとかが乗る神輿台的なあれか。


「ははは。ジャスパーのこんな姿は今だけの希少レア物だな」

「だな。今回で自分の弱さを実感したから帰ったら少し特訓だな」

「お、おう」


 エルドレッドが頬をヒクつかせながら空いている場所に陣取る。

 そして僕が自分の位置に連れて行かれると、全員の視線が集まった。


「じゃあ、祝うと言う状況でも無いから皆で無事に食事を取れることに感謝しよう。さぁ食べてくれ」


 そう言って皆が一斉に肉や野菜を焼き始める。


 ちなみに今焼いている肉は城塞都市ガーランドの中ではそこそこに良い肉だったり、食べられる魔獣をベルナール商会の解体所で処理して貰った物が殆どだ。

 つまり、取り出す時には分かっていたそれらの肉も、並んでいる状態では十把一絡じっぱひとからげ。獣の肉か魔獣の肉かすら分からない。

 それでも今の僕の状態だからか、どれもが最高級の牛肉に匹敵するくらい美味しそうに見える。

 僕は何も出来ることが無いのでただ眺めているだけだ。側にテーブルがあり、そこには味付けの調味料や香辛料、それらを調合した調味液体が溜められた皿が幾つも置かれている。


「おー、美味いな」


 真っ先に声を上げたのはエルドレッドだった。多分だけど、焼きが足りない気がする。でもしっかり調味液体をつけた肉を頬張るその顔は本当に美味しそうで、本人が良いなら良いか、と納得することにした。


「ジャスパー、はい」

「ああ」


 こちらはきちんと焼けた肉と野菜とパンをミミリラが持ってきてくれる。もちろん今の僕は録にフォークすら持てない。それを分かりきっているミミリラはある程度吐息で冷まし、調味液体をつけて口に運んでくれる。


 驚嘆びっくりする程に美味しかった。


 これは三週間も食べてなかったからか、あるいは無茶をした身体が食べ物に飢えていたからか。どちらにしてもこんなに美味いと思ったのは初めてだ。


「美味しい?」

「分かってるんだろ?」

「うん。凄く嬉しそう」


 そう言うと、ミミリラは笑顔で次々に口に運んでくれる。そのどれもが最高に美味しく感じる。

 でも自分だけが味わっていては意味がない。


「お前も食べろ。俺と同じなんだから」

「ジャスパーが寝ている間に少しは食べてた」

「他の奴に交代で世話をさせてお前は食べろ」


 少し強めに言うと、ミミリラは猫耳と尻尾を落としながら頷いた。


「沢山食べてくる」

「ああ、そうしてくれ」


 そしてまるでそれを待っていましたと言わんばかりに女達がわるわる世話をしてくれる。どれだけ食べても空腹感が減らないのはどう言うことだろうか。むしろ食べれば食べる程にお腹が空いてくる感じすらある。

 これはもう少し食材を出しておかないと足りないな、なんて思っていると、一人の子供がエルドレッドの側に近寄っていた。

 その顔は無表情で、あまり元気があるようには見えない。


「お、何だ腹空いてるのか?」

「うん」


 それを見て少し眉をひそめた。ミミリラは食糧事情に関して、今は問題ないそうでもないと言っていた。ミミリラが僕に嘘を吐くことはありえない。ではこれはどう言うことだろう。ただ単に次の食事までの間にお腹が空いたと言うことだろうか。


「ジャスパー、分けても良いか?」

「そこにあるのはお前のだ。好きにしろよ」

「助かる」


 言うなり、エルドレッドは違う皿に肉や野菜、パンを取ってやり子供に分け与えた。子供を椅子に座らせて好きに食べさせてやるその姿は正に市民を守る騎士そのものだ。

 僕はそんな光景を尻目に、遠くからこちらを見る人達に視線を向けた。


 気になって、僕の世話をしている一人に聞いてみる。


「チャチャル。食糧事情は収まってるんだよな?」

「はい。私達も街の人から『ようやく食料が行き届いてきた』と聞いています」

「……ここは第何層だ?」

「ジャスパーさんが居た宿が第一層。ここは第一城壁外の第二層居住区になります」

「ちなみにさっきの話はどこで聞いた?」

「第一層です」

「おいマルリード」


 今質問に答えたのは、僕が目覚めた時に部屋に居なかった女だ。

 恐らく情報収集担当だと思って聞いてみれば正解だったようだ。それはいい。だが、その内容に僕は疑問を抱いた。


「どうした?」

「俺は食糧事情は落ち着いていると聞いていた。それは第何層までの話だ?」

「ああ……第二層が落ち着いて、ようやく第三層に回り始めたところだ。最初は第一層に集めていた食料を避難していた街の人全部に出来るだけ均等に分けていたんだが、一週を超えるまでは外からの補給が殆ど入って来てなかったんだ」


 城塞都市ポルポーラ全ての住民が第一層に集まり、そこの食料を一週間も消費すればどれだけ豊かな第一層でも確かにそうなるだろう。何せ総人口が凡そ二百万と避難してきた人々だ。第二層と第三層の食料を全て第一層に運び、かつ普段から第一層内に食料を溜め込んでも限界はある。

 僕の予想通りではあったと言うことだ。

 

「今は第一層には安定して食料が届き、そこから配給や復興に携わっている人に優先的に回している。供給のペースがようやく落ち着いたのが第二層って訳だ。それに第一層には大店の商会が幾つもある。そこが各地から品を集めて売ってるってのもあるな」


 つまるところ、第二層の住人ですら未だ食べるものが十分ではなく、空腹に喘いでいると言う訳だ。そして元々第三層に住んでいた人達は日々の糧を得られるかどうか、か。お祖父様が帰参されてもやはり限界はあるか。

 まぁ、第三層も元々全くと言う訳じゃなく、恐らくは第二層の配給の際に配ってはいただろうな。


「もしかして騎士のお前がこうして美味そうに肉を食ってるのは良くなかったか?」

「見せびらかすようにそんなことすりゃあ下手すりゃ騎士号剥奪もんだな。ただお前達の馬車の位置は知ってたし、人目もそうつかないから問題は無いと思ってたんだが、こりゃ誰かが知らせたんだろうな。何せ量と食べてる人数が人数だ。色々と思ったり勘違いして来る人も居るだろうな」


 エルドレッドは極力こちらを見る人達に視線を向けないようにして困った表情を浮かべている。


名目言い訳は?」

「護衛している貢献者からのお礼だな」

「はは。なるほどな」


 と、ここで浮かぶ疑問。


「ちなみに都市中に溢れていた魔獣は? 食えるのもあっただろ」

「巨人種は当然のこと、他にも食えない個体や食料として適さない奴もいた。後まぁ、これは決してジャスパーを責める訳じゃねぇんだが。食えそうな奴はその殆どが身体をぶっ飛ばしててな。食える箇所が殆ど無かった」

「ああ……なるほどな」


 言われてみればそれもそうだ。お祖父様直伝の秘技で殺す気満々で吹き飛ばしたのだから。例え不完全な創造であっても危険度第4段階程度の魔獣なら原型すら留められなかっただろう。

 精神力が満ちた状態で、且つお祖父様と同等の想像と創造を出来れば間違いなく一匹も生き残ることはなかっただろう。巨人種であっても肉の破片と化していた筈だ。

 今思えばナーヅ王国との戦でお祖父様が城郭都市の城壁を吹き飛ばしたのはこれだったんだな。


「まぁ気にしても仕方がねぇ。今は折角のジャスパーからの気持ちを素直に受け取るさ」

「お前のそう言うところが、今のお前の地位を確立させてるんだろうな」

「褒められてるのか貶されてるのかよく分からんぞ」

「十割称賛だよ」


 いや本当に。苦を苦と理解しながら、それを受け止め飲み込み、決して立ち止まらないその姿勢。僕は心から尊敬と親しみを覚える。以前の宴の際に思った通り、まさしく強き者の資格を持っている。小さなことと言うなかれ。小さなことに蹴躓き、立ち上がれない者すら世には居るのだから。


 と、そんな時だ。向こう側から冒険者らしき一団が近づいてくるのに気がついた。


 それを見てこちらの面々が警戒し始めた。皿を置いて向き合うその姿からは魂の波動が溢れ出ている。あれは戦闘態勢一歩手前だ。

 一気に様子の変わった連盟員サガラに、僕は首をかしげた。


「何だ?」

「私も見てないから確信は持てないけど、多分馬車の食糧で揉めた冒険者」

「ああ……」


 即座に側に寄って来たミミリラに聞けばそんな返答が返ってくる。馬車の方で少し揉めたとは聞いていたが、まさかその相手が冒険者だったとは。

 しかもあれ、かなり強いな。


 先頭を歩くのは集合体主パーティーリーダーだろうか。片袖が破れ顕になっており、そこに見える鍛え上げられた腕はまさに戦士の証。その重みを感じさせる歩みと強い眼差しは歴戦の冒険者を教えてくれる。その後ろには六人の男女が続く。七人集合体一組7にんワンパーティーと言う訳だ。


 変なことにならなければ良いんだけど。なんて思いながら僕は近づいてくる彼らを見つめていた。

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