第58話 情報収集2
宿に帰って情報をすり合わせると、ニャムリとピピリ側はある意味予想通りの内容ばかりだった。
宿で食事を取っていたのは一家総出だったり、懐にゆとりのある一人者だったり、どこぞの貴族の使用人だったり、商人だったりが大半だったらしい。
内容もただあそこの村がやられた、あそこの町はもう駄目だ、親戚が逃げてきたから一緒に逃げている、暇を貰ったなどという被害報告みたいな感じだった。
ただしその中で、とある商人から聞き出したと言う話の内容が少しばかり気になった。
「スーラン伯爵とジーバ子爵、それとザバッカ子爵が大量に物資や武具を買い集めていた?」
「そうなのねん」
「それも複数の商人や商会から分けて仕入れていたようで。目立たなくする為のようですね」
「……ほぉ」
時期を聞いてみればお祖父様がナーヅ王国との戦いの為に領地を離れた後くらいからと言う。それを聞いて僕は少し眉を寄せた。何せその三人の貴族は戦には参加していない。指揮を務めた僕が言うのだ。間違いない。
そもそもその貴族はザルード公爵領の貴族では無い。ザルード公爵領の南に領地を持つ侯爵の派閥貴族だ。だから戦に参戦していなくて当然だろう。
問題は、その他領の派閥貴族が何故そんな
お祖父様が戦に出立する前に集めた、と言うのなら分かる。物資の提供や支援を求められるかも知れないし、もしくは集めたその物資を売りつけることも出来る。
だが、商会に対しての注文自体がお祖父様が出て行った後というのが少し気になる。
まぁ折角の情報ではあるが、今は関係ないだろう。
「気にはなるが、まぁそれは今はおいておこう……いや待て。お前らそんなに詳しい情報どうやって知った?」
「男性と言うのは女性に弱いので」
「情けないのねん」
「それにしてもな」
分からないでもないが、そこまで細かいことを喋るだろうか? 信頼という名の秘密を厳守する商人が?
ましてや今の話は完全に貴族の裏側の情報になる。普通に考えればそんなことを迂闊にも喋るような商人は上手な生き方は出来ない。どこにその貴族の耳があるか分からないのに、初めて知り合った女二人に喋るだなんてどれだけ愚かな商人なのかと言いたくなる。
まぁこの二人がかなり良い女と言うのは確かに認めるところではあるが。
「ジャスパー、この二人は男性に対しての固有技能を持ってる」
「へぇ」
ミミリラの補足するような言葉に声が漏れる。
そう言えば
「ニャムリは狐属の変異種で長耳狐属。その瞳をまっすぐ見ると引き寄せられるような錯覚に陥る。ニャムリの場合は男性への効果が凄く高い。一度その状態に嵌ってニャムリに質問されると本音を引き出される。ニャムリは容姿も声も綺麗だから余計に」
「照れますね」
絶対照れてないな、と思う。
そしてミミリラ、さりげなく今体型のことを除いただろう。ニャムリは確かに全体的な美しさはあるが、女性の母性面で言えば貧相だからな。
「ピピリは兎属。男性を誘惑する
「ぬふふ~」
ピピリが腕を組んで胸を強調するように身体を振る。まぁそれは否定しない。服を脱がなくても、厚めの服を着ていても主張するその母性に目がいかない男はあまり居ないだろう。
身長は低めで童顔、それでいて甘えるような声で胸を当てられながら質問されたら自然と答えたくなってもおかしくはない。実体験からの感想なので説得力はあると思う。
「ピピリの技能で男の警戒を緩めて、ニャムリの視線で相手の心の中を暴く。大体これで男からの情報は手に入れられる」
「おっそろしい……」
裏人の恐ろしい一面を垣間見た気がする。
まぁそれを使っているのはこちら側の配下としてだ。逆に頼もしいと思っておくことにしよう。
ただ、商人から情報を引き出した理由は分かったが、一つだけ二人には注意しておかなければいけない。
「ミミリラは絶対許さんが、ニャムリとピピリ、情報とか仕入れる為に男と寝るのは今は止めといてくれよ」
「独占欲ですか?」
「言われなくてもサガラの女は貞操硬いのねん」
「私は言わずもがな」
「ミミリラは当然だが。いや、単純に【
ん? と三人が首をかしげる。
「あれは“俺の身体の一部として認識する”魔術だからな。自分以外の男と交わった自分の身体とか、悪いが考えたくも無い。そう言う意味で俺が連れてくことが出来なくなるから、置いてきぼりにするぞ。これは本気で」
三人は納得、という顔をした。それ以上の表情が浮かばないので、元よりするつもりは無いのだろう。ちなみに独占欲は多少ばかりあるにはあるが、執着する程のものでは無い。
ミミリラだけは絶対に許さんが。
僕がミミリラと誓いを交わした時、確かにミミリラは自分とサガラの女を対価とすると口にした。だが最終的に僕は“ミミリラを”対価にサガラへの安寧を約束したし、ミミリラは“自身を”対価として僕に捧げた。
その後確かにサガラの女の大半を抱きはしたが、別に僕は彼女達から、僕だけの女になると言う約束も誓いも受け取っていないし、僕も別に求めてはいない。
ニャムリやピピリ、それ以外のサガラの女に対して“自分の女”と言う認識は多少あるものの、同時に彼女達は“配下”と言う認識もある。だから彼女達が情報を得る為に違う男と寝たとしても、僕は特に思うところは無い。それは“配下”としての勤めを果たしているだけなのだから。
まぁその後ただの“配下”となった彼女達を抱くかどうかと言われれば首をかしげてしまうが。
ちなみに後で聞いてみれば、別に商人に酌をした訳でも寄り添って胸を当てた訳でも無かった。ただ離れて座っていた商人に二人して視線を送り、こちらに向いたところでニャムリの瞳で呼び寄せて、後はミミリラが言ったような流れで言葉を引き出したと言う。
その時二人が座っていたのは商人の対面。それでいて商人を虜にしたピピリ。こんな芸当を可能としつつもヒムルルと同等の優秀さというのだから恐ろしい。何となく、何故族長であるミミリラの御側付きなのか分かった気がする。
「まぁいい、話が逸れた。取り敢えず明日からの行動には二つ選択肢がある。真っ直ぐ城塞都市ポルポーラに向かうか、それ以外の主な被害にあっている町や都市などの魔獣を討伐してからポルポーラに行くか」
「ポルポーラだけで良いんじゃないのん?」
ピピリの言葉に頷く。
それは正直思うし、そうしたい気持ちがかなり強い。そもそも最初はそれしか頭には無かった。だが、先程の男との会話で腹立ちを覚えると同時に頭が冷やされた部分もあるのだ。
「他の都市なんかはポルポーラと違って
酒場食堂で男が吐き捨てるように言ったあの言葉は、今はまだ不満で済んでいる。だが、もしもこれ以上の被害が広がっていくと、それはお祖父様不在に対する責任転嫁となる可能性が非常に高い。どんな理由があれど、民からすれば自分達を守ってくれなかった領主という印象が強くなるからだ。
それは僕にとって、決して受け入れられることではない。
だからこそ、頑強な城塞都市ポルポーラがすぐに落ちないと言う前提条件を利用して、出来る限り大きな大発生の
それを説明すると、三人は静かに頷いた。
「確かにそれは正しい」
「私もそう思います」
「なのねん」
「決まりだ」
この三人も頷いたならそれで良い。自分だけの意見だけでは不安があるものだ。特にあの男との会話で自分が冷静じゃないことに気づかされた直後なだけに。
ミミリラ達が気を使って追従しただけじゃないと信じよう。
「と言うわけで今日はもう寝る」
大げさにベッドに倒れてから部屋全体と全員に【
並んだベッドの真ん中に身体を動かして寝転がる。すると三人はきっちり施錠とカーテンを確認してから、服を脱いで僕の服を脱がし始めた。
男としてしたいと言う気持ちに嘘は無いが、正直に言えばこんな状況だしそこまで気乗りはしない。
ただ反面、このままでは眠れる自信も無い。寝ようと思えば眠れる身体だが、寝ようと思えなければいつまでも眠ってくれないのは弟の件で思い知らされている。
あの時はどれだけ寝ようと努力しても、頭に弟のことばかりが浮かんで眠気なんて欠片も湧いてこなかった。
この町に到着して早々にした仮眠だって、正直眠れるとは思っていなかった。眠気が襲ってきてくれた時は安堵したくらいだ。良く眠れたと思う、本当に。
そう言う訳で、躊躇いを覚えつつもここは素直に馬鹿になろうと思う。快楽に耽って何も考えない内にさっさと寝てしまおう。悶々として不眠のままに朝を迎えるよりは余程に良いだろう。
「ジャスパー、【一心同体】を使って」
僕の上に乗ってきたミミリラがそんなことを言ってくる。
「え? 何で?」
「あれがあれば、もっとジャスパーを気持ちよく出来そう」
「え、いいよ別に」
「お願い」
根負けして、僕は三人に【一心同体】を使った。何だか心の中を覗かれている気がして猛烈にむずむずする。
だけど、僕の身体に纏わり付く三人に快感以上の心地よさを感じた。自分を想ってくれての行動というのは気持ちが良いものだ。それに、変に悩まなくて済むのは本当に助かる。
ここでふと、出発する前の
本当にこれが理由ならば今後色々と役に立つだろうし、その他の魔術への応用が効くようになるかも知れないし。
僕は三人に【
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ミミリラ・サガラ
種族 亜人族・獣人種・狐猫属
魂位 256
生命力 6,727/6,727
精神力 27,240/27,240
状態:
力 4-1
速度 5-6
頑強 4-1
体力 5-4
知力 5-2
魔力 5-2
精神耐性 6-1
魔術耐性 5-3
魔術属性
光 3-5
闇 4-7
火 3-6
風 5-3
金 1-7
土 3-5
水 4-1
技能
攻撃系技能:【短剣術5-4】【剣術5-3】【槍術5-1】【格闘術5-7】【弓術5-1】【投擲術5-7】【投槍術5-1】
防御系技能:【闇纏い5-7】【部分強化5-4】【風纏い5-1】
補助系技能:【隠伏5-7】【風流れ5-7】
回復系技能:
属性系技能:【光魔術1-7】【闇魔術2-7】【火魔術1-7】【風魔術3-7】【金魔術1-7】【土魔術1-7】【水魔術1-7】【発光5-7】【発火5-7】【発水5-7】【土硬化5-1】
特殊系技能:【還元する万物の素5-1】【気配感知5-7】【魔術感知5-7】【危機感知5-7】
固有技能:【才知才覚】【超感覚】
種族技能:【種族強化】【暗視】【視力強化】【感覚強化】【聴覚強化】【嗅覚強化】
血族技能:【原祖返り】【率いる者】
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ニャムリ
種族 亜人族・獣人種・長耳狐属
魂位 334
生命力 11,822/11,822
精神力 13,422/13,422
状態:
力 3-7
速度 4-6
頑強 3-7
体力 4-4
知力 5-2
魔力 5-2
精神耐性 5-3
魔術耐性 5-1
魔術属性
光 4-1
闇 4-7
火 3-7
風 5-1
金 1-7
土 4-2
水 4-6
技能
攻撃系技能:【短剣術4-4】【剣術4-3】【槍術3-7】【格闘術4-3】【弓術4-5】【投擲術4-7】【投槍術4-1】
防御系技能:【部分強化5-4】【物理障壁4-4】【魔術障壁4-1】
補助系技能:【隠伏5-1】【風流れ4-7】【満ち満ちる大地4-6】
回復系技能:【高速超回復3-7】【癒しの光5-1】【清める水5-1】【穏やかなる風5-1】
属性系技能:【光魔術4-1】【闇魔術2-7】【火魔術1-7】【風魔術4-1】【金魔術1-7】【土魔術4-1】【水魔術4-1】【発光5-7】【発火5-7】【発水5-7】【闇招く土4-1】【混ざり合う水と土4-2】【風纏う火3-7】【拭えぬ火3-6】【風に舞う土4-2】
特殊系技能:【還元する万物の素4-6】【気配感知5-2】【魔術感知5-1】【危機感知5-1】【魔力操作4-3】【安眠4-7】
固有技能:【誘いの瞳】
種族技能:【種族強化】【暗視】【感覚強化】【聴覚超強化】【嗅覚強化】
血族技能:
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ピピリ
種族 亜人族・獣人種・兎属
魂位 399
生命力 21,080/21,080
精神力 16,580/16,580
状態:
力 5-2
速度 5-3
頑強 4-7
体力 5-2
知力 3-7
魔力 4-1
精神耐性 5-5
魔術耐性 5-1
魔術属性
光 3-5
闇 3-7
火 3-5
風 4-5
金 1-7
土 4-1
水 3-4
技能
攻撃系技能:【短剣術5-1】【剣術3-7】【槍術3-7】【格闘術5-4】【弓術5-4】【投擲術5-4】【投槍術4-1】【爆拳5-1】【五月雨の矢5-1】
防御系技能:【部分強化5-4】【外殻強化5-4】
補助系技能:【隠伏4-7】【風流れ5-1】【駆る大地5-2】
回復系技能:【高速超回復5-2】
属性系技能:【光魔術1-7】【闇魔術2-7】【火魔術1-7】【風魔術3-7】【金魔術1-7】【土魔術1-7】【水魔術1-7】【発光4-1】【発火3-7】【発水4-1】
特殊系技能:【還元する万物の素4-1】【気配感知5-1】【魔術感知4-7】【危機感知5-1】
固有技能:【誘引の色香】【一点集中】
種族技能:【種族強化】【暗視】【感覚強化】【聴覚強化】【嗅覚強化】
血族技能:
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
実は連盟拠点の時点でも思っていたけれど、ニャムリとピピリの表示されている能力値の方向性が真逆だ。
ニャムリは魔術士寄りで、ピピリはどう見ても近接戦闘型。
ピピリなんて凄く分かり易い。技能からして、こう、真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす! って言う感じが伝わってくる。もしくは弓術が異様に高いから、「絶対逃がさない」と言う感じか。能力等級値も力とか速度が酷い。ニールですらまともに攻撃を受ければ数発で死ぬんじゃないかこれ。今日はピピリを褒めてばかりだけど、これはヒムルルと比較されても仕方無いよなぁ。
ニャムリはピピリの派手さに目立たないかも知れないけれど、そんなことは無い。
こうやって見ると、二人共「リ」の付く、族長の血を引くサガラなんだなと納得してしまう。
よし、と内心で頷く。
これでもし何か影響があるのであれば、朝の時点できちんと比較出来るだろう。
避妊魔術を三人に対して使い、僕は何も考えないようにして力を抜き、快楽に身を任せた。
明日からは、殺戮に身を任せることになりそうだと思いながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます