番外編 メリークリスマス! 7
シャルルはシャルにクリスマスという日について詳しく聞き終えると、城から見える幻のツリーを見下ろして苦笑いを零した。隣ではシエラとオリジナルアリスが手を取り合ってはしゃいでいる。
「なるほど。そういう……お祭りなのですか?」
「厳密にはお祭りではないんですけどね。まぁアリスですから楽しい所だけ輸入したのでしょう」
細かい儀式のような物は全て取り去って、アリスは楽しい部分だけをすっかり輸入してしまった。この調子だとそのうちハロウィンやお雛様や子どもの日なども輸入しかねない。
「まぁアリスですからね。とんだヒロインも居たもんです」
「それはこちらのセリフですよ。誰ですか、彼女のステータスを弄ったのは」
「そ、それは私ですが、直さなかったのはあなたでしょう?」
「そうやって私に責任転嫁ですか?」
「いやいや、元はと言えばあなた達が――」
「はいストーップ! どうしてWシャルルはいっつもそうやって言い合いを始めちゃうの?」
「そうよ。こんな日ぐらい仲良くしましょう?」
二人のアリスが二人のシャルルに詰め寄ると、シャルル達はゴクリと息を呑んだ。たとえステータスを弄っていなくてもアリスと名のつくヒロイン達には逆らえないWシャルルである。
「まぁ、綺麗だからいいです。それにしてもどんな対価を渡したんでしょう?」
シャルが言うと、シャルルが首を傾げた。
「対価なんて渡してますかね? アリスですよ?」
「まぁそうなんですけどね。見えますね、嬉々として手を貸した妖精王やティターニアの姿が」
「全くです。妖精たちがさっきからずっとはしゃいでいるので、まぁ大成功なのでしょう、きっと」
目を細めたシャルルにシャルもアリス達も頷く。
城の窓から見下ろすと、大きなツリーと周辺がキラキラと輝いている。その根本には沢山の人たちが突然現れたクリスマスツリーに集まって騒いでいるのが見える。
「写真に撮ってキャロライン様に送らなきゃ! あとで側まで行ってもいいかしら?」
「もちろんです。私達の役目が終わったらゆっくり鑑賞しましょう」
シャルの言葉にオリジナルアリスは嬉しそうに微笑んだ。
「そちらのキャロライン様もきっと喜ばれるわね。その後、キャロライン様にはお会いできたの?」
「ええ! この間少しだけだけど。もう二度とお会いすることも無いって思ってたから、思わず二人して泣いてしまったわ」
「そうなの! 良かったわね! これから少しずつそんな事がきっと訪れるわ」
「ええ。今度どこかへお出掛けする約束をしたわ。今からとても楽しみよ! ねぇシエラ……今更だけどありがとう。あなた達が居なかったら、私はここには居なかった。全てのアリスと仲間たちに本当に感謝してるわ。ありがとう」
涙を浮かべてそんな事を言うオリジナルアリスにシエラもまた涙ぐんで抱きしめた。
「そんなの! あなたが居たからこそなの! あなたがあなただったから、ノアが動いたのよ! ありがとう、アリス!」
全ての出来事はオリジナルアリスがノアの心を動かしたからだ。どうしてもアリスを助けたいとノアに思わせた事で全てが始まったのだから。
抱きしめあって涙する二人のアリスを二人のシャルルが眩しそうに目を細める。
目だけで互いを労いあった二人は視線をもう一度クリスマスツリーに移すと、そこには全てのアリスの想いが詰まったかのようなツリーがずっと輝いていた。
その頃アリスは、まだまだ終わらないツリー設置作業に頭を悩ませていた。
「困ったなぁ~あんまり早く飛ぶと飾り落ちるしなぁ……どうしたもんかなぁ~」
「何が困ったんですか?」
「うん、それがね、まだあと半分程ツリーがあるんだけど、私だけでは間に合いそうにない……ん?」
どこかで聞いた事のある声にアリスは思わず振り返ろうとしたが、すぐに思い直して振り返るのを止めた。背中に何だか不穏な圧をひしひしと感じるのだ。
「それは困りましたねぇ? ところでどうしてあなた、こんな所に居るんでしょうねぇ?」
「……(ひぃぃぃぃぃぃ!)」
心の中で叫び声を押し殺してアリスはその場でブルブルと震えた。後ろにいるのは間違いなくキリである。そして確実に、絶対に物凄く怒っている!
「お嬢様、あの幻の木は大変美しかったですよ。ですが、一体どうやっているのでしょう? まさかとは思いますがミアさんを一人にしてあなたが直接設置して回っている、だなんて言いませんよねぇ?」
「……(やばいやばいやばいやばいYABA……)」
おかしい。どうしてここにキリが居るのだ。絶対に怒られるからキリの所とノアの所は最後に回したはずなのに! ミアさん連れてキリの前でジャジャーン! ってするはずだったのに!
「お嬢様? お嬢様の可愛らしいお顔を見せてもらえますか?」
いつまでも振り返らないアリスの肩をキリは無理やり掴んで振り向かせる。
「ひぃぃぃぃぃ!!!!」
振り返ったアリスは真正面からキリの顔を見てとうとう叫び声をあげた。いつになく満面の笑みを浮かべたキリにアリスが一歩後ずさろうとすると、そんなアリスの腕をキリがグッと掴んだ。
「何も逃げなくてもいいんですよ? 俺はどうやったんですか? って聞いているだけです」
「ど、どうって……ふ、普通に……植え……た?」
「植えた? あなたが?」
「ド、ドラゴン……が」
「ではあなたは何故こここに居るのでしょうね? 何故そこでドンとブリッジとルンルンが震えているのでしょう? おかしいですねぇ? さっさと全部言いましょうか」
「……はひ」
観念してコクリと頷いたアリスは事のあらましを全てキリに話した。案の定、話が終わるか終わらないかの時点で特大のゲンコツを食らう。
「このお花畑は本当に! そこに咲いてる花全部引っこ抜いてもう二度と生えないようにしてやりましょうか!? で、ミアさんも了承しているんですね? なるほど、それであんなにもしつこくルーイさんとユーゴさんをつけろと言ったのですね……そこだけはまぁ評価しますが! それ以前の問題ですっ!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 驚かせようと思ったんだよぅ! いっつも皆にお世話になってるし何たって私、新婚だし! 新婚さんは皆に幸せのお裾分けしなきゃでしょ!?」
「そんな話聞いた事ありません! むしろ新婚なら新婚らしく大人しく家から一歩も出ずにイチャイチャしていればいいんです! あなたが余計な事言い出さなければ俺たちだって今頃……」
そこまで言ってキリは大きなため息を落としてアリスが持っていた『アリスのドキッ! 誰にもマル秘のサプライズノート』を取り上げた。
「か、返して!」
「いいえ、返しません。全く、よくもまぁいつもいつもこんな事ばかり思いつくもんです。で、今どこまで進んでるんですか? まだこれだけ!? もう22時ですよ⁉ これは俺たちだけでは無理ですね。ノア様の所に行きましょう」
「に、兄さまのとこ? お、怒られるかな……?」
「そりゃもう、こってり怒ってもらいますとも! ほらドン、我々をノア様の所へ連れて行きなさい! ブリッジもルンルンも早く乗る!」
「キュゥゥ……」
「ぅぉぅ……」
「ぅぉん……」
しょんぼりと項垂れた3匹はしおしおと飛び立つ準備をしだした。ブリッジとルンルンがソリに乗り込んだのを見て、キリはアリスの耳を引っ張って無理やりソリに乗り込む。
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