番外編 メリークリスマス! 5
所変わってそれぞれのドラゴンたちもあちこちでツリー設置に奮闘していた。
流石に一つ一つの領地に一本という訳にはいかなかったので、今年は比較的大きな領地に一本設置していくことになったけれど、来年はそのほかの領地にも勝手に設置を考えているアリスである。
妖精王の子どもたちがツリーりにかけてくれた魔法は、クリスマスの夜にだけ出現する魔法のツリーだ。設置が完了した時点で本体は妖精界に移り、幻のツリーがその場に現れる。
いかにもクリスマスだけの特別感を出したいと言ったアリスの言葉を妖精王の子どもたちは見事に再現してくれた。
グリーンドラゴンがやって来たのはレヴィウスの王都の隣の大きな街だ。
突然現れた何だかよく分からない衣装を着たドラゴンや動物たちに街の人達は驚くばかりである。
「な、なんだ? 一体何事だ!?」
「分からん……分からんが、この間のチラシにそういやアリス工房が何かするとか書いてあったな」
「ママー! ドラゴンだぁ~!」
「おっきいわねぇ。でもあれ何を持ってるのかしら?」
不思議そうな街の人達を他所に広場に舞い降りたグリーンドラゴンは、早速前足でクマたちと共に徐に穴を掘り始めた。一心不乱に何かを始めたドラゴンと動物たちに皆、目が点である。
そこへ何やら急に騒がしくなった街の様子を見に、時間まで隠れていたリアンが心配そうにやってきて広場で穴を掘っているグリーンドラゴンを見つけて驚いて駆け寄った。
「ちょ! グリドラ! 家に居ないと思ったらこんな所で何やってんの!?」
思わず止めに入ったリアンの目の前に大きなクマが立ちはだかる。
「パ……パパベア? え? ママベア? どっちでもいい! 何やってんのって聞いてんの!」
リアンが叫ぶと、クマはアリスに倣ったキメッ! をやってみせた。それを見てリアンは全てを察する。
「……アリスか……」
コクリ。
リアンの呟きにクマは無言で頷いてリアンの肩を叩いた。どうやらここで見ていろと言うことらしい。
しかしクマまでキメ! を出来るのか。一体バセット領の動物たちはどうなっているのだ。そしてそれを見ただけで全てアリスがやっているのだと分かってしまう自分もどうなのだ。
リアンは振り返って騒ぐ街の人達に向かって言った。
「えー皆さん、お騒がせしてすみません。これはアリス工房からのクリスマスプレゼントです! どうぞ最後までお楽しみください」
リアンの言葉に街の人達はようやく安心したようにその場に腰を下ろしだした。結局いつもこうやってアリスの尻拭いをするのだ。
大きなため息を落としたリアンもその場に座って、何が起こるのかを見守る事にした。
「な、なんじゃこりゃぁ~!」
思わず叫んで身を潜ませていたグランのエドワード邸を飛び出したルイスは、広場のど真ん中に出来た大きな穴を見て呆然としていた。
「な、何事ですか、ルイス王!」
「す、すまん、エドワード……アリスがどうやら俺たちに秘密で何かしているらしい……」
住人の一人が先程、突然赤い服を着たドラゴンと赤い鼻をつけた狼が広場で何故か穴を掘っているとエドワードの屋敷に駆け込んできた。何となく嫌な予感がしたルイスが飛び出して来てみると、そこには黄色いドラゴンとウルフが一生懸命穴を掘っている。
「らしい、というのはルイス王もご存知ではないと?」
「ああ。俺も全く何も聞かされていない。はっ! ノアはどうだ!?」
徐にスマホを取り出したルイスの元に一本の電話がかかってきた。相手はキャロラインだ。
「キャロか! そっちは何色だ!?」
『そっちもなの!? こちらはブルーよ! ルイスではないのよね?』
「俺がこんな事する訳がないだろう! そうか……そっちはブルーなのか。こちらはイエローだ。ウルフも居るから恐らくアリスだ」
『ええ。こちらにはパパベアが居るわ。あ……まぁぁぁ! 何てこと! アリス……あの子ったらこれがしたかったの……もう、本当に困った子ね……』
「キャ、キャロ?」
電話越しに鼻をすすりだしたキャロラインにルイスが思わず声をかけると、ようやくキャロラインの声が聞こえてきた。その声は何故か弾んでいてとても楽しそうだ。
『ルイス、これはアリスから私達へのクリスマスプレゼントよ、きっと。最後まで見ていてやってちょうだい。きっと驚くから』
「わ、分かった。そうしよう」
ルイスは電話を切ってエドワードにそれを告げると、エドワードは肩をすくめて困ったように笑った。
「なるほど。では王妃様に従いましょう。お~い皆、これはアリスさんがやってるらしい! 最後まで見守ろうじゃないか!」
エドワードの声を聞いてグランの人達はアリスの仕業か、と笑った。それで許してもらえるのがアリスの凄い所だと感心しながら、ルイスはマントが汚れるのも気にせずその場に腰を下ろした。
カインは目の前の光景をさっきからずっと写真に収めていた。目の前ではオレンジドラゴンとチビベアが一生懸命泥だらけになりながら穴を掘っている。
彼らがここでこんな事をしているということは、まず間違いなくアリスの仕業だ。カインは早々にレヴィウスの宰相、オルトにこれはアリスの仕業だと言って動物たちを観察していた。
彼らの傍らに置いてあるあの大きな木は一体何なのだろう? などと考えながら。
「そういやフィルはどこ行ったんだろ。もしかしてあいつ、あっち側かな」
「お疲れ様です、カイン」
「オルトさんもお疲れ~」
「で、これは嫁の仕業かな?」
「間違いなくそうですねぇ」
カインはオルトが持ってきたホットビールを受け取って苦笑いを浮かべた。レヴィウスの中間地点はオルトの自宅だ。
戦争が終わってレヴィウスと会議をするようになり、同じ立場のオルトとカインは自然と付き合いが増えた。最近ではよく二人で飲みに行ったりするぐらい親しい付き合いをしている。まぁ、内容は大体ノアの愚痴である。
「本当にあの嫁は一体どうなってるんだ?」
「そこそこ付き合いの長い俺でも未だによく分かんないんですよ。それはノアもみたいなんで、多分誰にも分かんないんじゃないかな」
苦笑いを浮かべたカインを見てオルトも声を出して笑った。とんでもない嫁だ! そう言いながら目の前の光景を楽しげに見つめている。
目の前ではオレンジドラゴンが掘り終えた穴にあの大きな木を突き刺して足で掘り返した土を埋めだした。それを見てどこからともなく集まってきていた人たちがはしゃいでいる。
「一体何が始まるのやら」
「それはもう、アリスのみぞ知る、ですね」
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