第五百二十話 アリスのルーツ

「……確実にそれだね」

「はい。あと、チビアリスさんにも通じる所がありますね……名前も一緒だし、案外ルーツは一緒なのでは?」


 言いながらキリはアリスをちらりと見て、アランの所に居るチビアリスを思い出した。言われてみれば、どことなく似ているような? 


「かもね。だと面白いなぁ! ねぇシャル、ユリアちゃんって、もしかして目、紅くない?」


 冗談交じりで言ったノアの言葉に、シャルとアリスが驚いて頷いた。


「どうして分かったんです? ユリアは私の魔力が遺伝したのか、かなり巨大な魔力を持ってるんです。それが瞳に現れているんですが、私、この話した事ありました?」


 それを聞いて驚いたのはノアとキリだ。


「キリ、やっぱチビアリスとアリスは、ルーツ一緒かも」

「……ですね」

「てことは、何だかんだ言いながら、アランもアリスと幸せになれそうって事か」


 ノアがアランの設定をした時、シャルルと同じぐらいアリスを好きだという設定にしていた。だからアランは未だにアリスが頼むと何でもしてしまうのかもしれないが、それは過去のアランが正にそうだったからだ。


 アラン・ブラックはずっとアリス・バネットに片思いをしていた。


 けれど、アリスがシャルルと付き合いだした時、誰よりも喜んだのも彼だ。アリスがシャルルをずっと好きだった事を、アランはよく知っていたから。


 だから乃亜はせめてゲームの中だけでも、とアランとアリスのルートを用意したのだが、まさか本当にアリス・バネットの子孫と現代のアランが出会う事になるとは思わなかった。


 それをシャルに伝えると、シャルもそれを聞いて喜んだ。やはりシャルも立派なカップリング厨である。


「何かよく分かんないけど、愛は世界を救うんだよ! ところで、何で二人がここに居るの? ていうかアリスさん、初めまして。アリス・バセットです! よろしくね! キメッ!」


 そう言っていつもの調子でポーズをとるアリスに、シャルとアリスは顔を見合わせて笑った。


「本気でユリアみたいですね!」

「ええ! あの子もお調子者だから。よろしくね、アリス。これからもちょくちょく遊びにくるわ」

「うん、いいよ! で、何で来たの?」

「ああ、それはですね――」


 アリスの問いに、シャルはまたスマホを取り出して説明を始めた。


 こうして、この日からパレードまでの間、シャルとアリスはバセット家で過ごす事になった。


 またアリスのそっくりさんが来たとアーサーは驚いていたが、そこはまたキリが、世の中には~、などと言って無理やりアーサーを黙らせていた。


 ちなみに、シャルの事はシャルルの親戚だと言う事にしておいた。流石に過去からやってきた、とは言えない。


 

 そしてパレード当日、アリス達は王城の控室でチームキャロライン達に囲まれて頭の先からつま先まで磨き上げられていた。普段はする側のミアまでそんな状態で、アリスとライラよりも戸惑っている。


「も、もうこんなもので! そ、そんな派手な装飾品は私には似合いません!」

「ミアさん、いいからいいから! ここをこうして~あそこをこうして~! 出来た~!」


 出来上がったミアを見て、チームキャロラインは手を叩いて喜んだ。何せ同じチームキャロラインから表彰される者が現れたのだ! 喜ばない訳がない。


 今日の予定は、王城にて一人一人の功績が称えられた後、パレードだ。チームキャロラインも、もちろんそこに参加予定である。


 あの日、キャロラインの寝込みを襲おうとした犯人を捕まえたのは、チームキャロラインだったのだから。


 だが、ミアはチームキャロラインからではなく、個人的に功績を称えられる事になった。その事についてチームキャロラインは、何の異存もない。むしろミアが功績を称えられなかったら、王の元に直談判に行っていたかもしれない。


 全ての着付けが終わってすっかり綺麗になったミアを見て、チームキャロラインの一番若いメイドが、羨ましそうにため息を漏らして言った。


「はぁ~あ、ミアさん、これが終わったら結婚かぁ~。いいなぁ~」

「⁉ し、しないわ! まだよ! アリス様が卒業してからって……はっ!」


 そこまで言ってミアは慌てて両手で口を抑えたが、もう遅い。


 ふと周りを見ると、アリスとライラとチームキャロラインの皆が顔を見合わせてニヤニヤしている。


「へぇ~そうなんですね~! ていうか、ほんっきで羨ましい! どうやったらあんなカッコイイ人と出会えるの⁉」

「あんた、騎士の彼氏はどうしたの」

「別れた! だってね、あいつ浮気してたのよ⁉」


 若いメイドが叫ぶと、その場に居た皆が、あー……と残念な顔をする。


「まぁ、騎士はモテるからねぇ」

「絶対、絶対あいつよりいい男見つけてみせるんだから!」

「はいはい。それ、半年前にも聞いたわよ」


 一年に二回はこんな事を言う彼女だが、その前にまず貢ぎ癖を止めなさい! と一番年長のメイドに叱られてシュンとしている。


「大丈夫だよ! ちゃんと見つかる、最高の相手! ね? ライラ、ミアさん!」

「そうです! 必ず相性ピッタリの人が見つかります!」

「私もそう……思います。最初は苦手な相手でも、気付けば……なんて事も……ありますし……」


 そう言って耳まで真っ赤にしたミアを見て、皆がまたニヤニヤする。


 そこにノックの音がして皆で振り返ると、そこに立っていたのは真っ白なドレスを着たキャロラインだった。それはもう、後光が差しているのではないかと思う程美しい。


「キャ、キャロライン様……う、美しすぎる……」

「聖女様……こんな姿をしていらしたのね……」


 アリスとライラがポツリと言うと、その場に居た全員が入って来たキャロラインを見てそっと手を合わせた。


「拝むの止めてちょうだい! あなた達もとても可愛らしいわ! ビックリした! ところで、そろそろ準備は出来たの? もうすぐ始まるわよ?」

「はい! チームキャロラインの皆は?」

「私達は仕事があるので褒賞の授与の後はここで待機です。見たかった……パレード、死ぬほど見たかったっ!」


 悔しそうに唇を噛みしめるメイド達を見て、キャロラインがそっと何かをメイド達に渡した。それは、アランの宝珠だ。


「アランがね、戦争の時に使った宝珠に、今日のパレードを映しましょうって。全ての領地で見られるようにするそうよ」

「アラン様! さすが!」

「ね。私も大賛成だわ。マリオさんからさっき連絡があったのよ。三日前にはしゃぎすぎて足の骨を折ってしまって、今日は来られないって。話しているうちに泣き出しちゃって、やっぱり這ってでも行く! とか言い出したからアランに相談したら、あの宝珠に映してくれるって事になったの」

「でもそれだとアラン様、また映れないんじゃ……」


 ミアがポツリと言うと、キャロラインはにこやかに首を振った。


「いいえ。今回宝珠に直接映してくれるのは妖精王なの! 妖精王はあまり派手に姿を見せる事が出来ないから、宝珠を映す係としてパレードの馬車に乗り込むそうよ」


 それでも絶対に目立つと思うのだが、そう言ってキャロラインが苦笑いを浮かべると、アリスもライラもミアもチームキャロラインもおかしそうに肩を揺らした。


 楽しい時間はすぐに過ぎる。


 皆で笑っていると、いつまで経っても姿を現さないアリス達をホープキンスが呼びに来て、皆が待つ城のホールに移動した。


 そこにはすっかり準備を整えた仲間たちがズラリと並んでいる。


 こんな風に全員が正装をしているのを見るのは初めてではないだろうか!


 そこにはちゃんとシャルもオリジナルアリスも居て、何だか泣きそうだ。


「はわぁぁ! ちょ、ちょっとキャロライン様、ルイス様の隣に行ってください! で、ライラはリー君の隣に行って! ミアさんはキリの横ね! ふぉぉぉぉぉ! 眼福!」

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