第四百九十八話 アリス自慢の最強チーム
何かを思い出すかのように宙を見つめるノアの肩に、アリスがポンと手をおいてきて、いつもの様にニカっと笑う。
「兄さま、大丈夫だよ! 絶対に私達は負けない! だってね、こんな最強チーム、あっちには絶対無いもん!」
そう言って両腕を広げたアリスを見て、ノアは笑った。
「そうだね。負ける気がしないね」
「うん!」
そう言ってアリスはノアにいつものように抱き着いた。そんなアリスを抱き留めてノアは仲間たちを見回して言う。
「じゃ、続きしよっか! もうすぐダニエル達も来るし」
「レスター達もやってくるぞ」
「それまでにもう少し進めておきたいわね」
キャロラインの言葉に全員が頷いて昼食を取り終えそれぞれの作業に戻る。
そこにレスター達がやってきた。レスターはカライスを始めとするエントマハンターとエントマハンターにずっとくっついて旅していた妖精達の一団を連れてきてくれた。
「俺達も手伝う」
カライスが言うと、後ろから沢山の声が上がる。
「おぉぉぉ! よぉぉし、皆、やるぞーーー!」
そんなレスター達を見てアリスが嬉しそうに拳を振り上げて叫ぶと、基本的にノリのいい妖精達がそれに続いて腕を振り上げる。
「おいおい、何だか随分楽しそうだなぁ?」
「ダニエル! いつ来たの?」
背後から聞きなれた声が聞こえてリアンが振り返ると、そこにはダニエルとフランが腕を振り上げて叫ぶアリスを見て苦笑いしている。
「今だぜ。女子達はクラーク家に預けてきたよ。あいつらを巻き込む訳にはいけねーからな」
「そだね。うちもライラ達はこの戦いには参加させないつもりだよ」
「ああ。ライラの雷も強いけど、戦える程じゃねーよな」
「うん。でもまぁ、戦えても参加させないよ」
リアンが言うと、ダニエルはそれを聞いて口の端を上げた。
「ふぅん? いいんじゃね?」
「その顔、すっごくムカつくんだけど」
「まぁまぁ。俺達も、絶対に勝って帰ろうな」
ニヤニヤ顔を止めて真顔に戻ったダニエルに、リアンも真顔で頷く。
その頃、ルーデリアの城の会議室にはルーデリアとフォルスの役員たちが集まっていた。ここに呼ばれなかった者は何かしらキャスパーと繋がりがあった者達で、未だ監視下に居る連中である。
「シャルル大公、そちらはどれぐらい出せる?」
ルカの張りのある声にシャルルは首だけで頷いて見せた。
「騎士は五百が限界でした。ただ、魔導士を集めれば七百程度ですね」
「魔導士か。よくかき集めたな」
感心したようなルカにシャルルは困ったように微笑む。
「もう最終的には私が直接頭を下げに行きました。ただ、何せ力のある魔導士は年齢的な関係であまり力にはなれないかもしれません」
「それはうちもですね。いくら元騎士団と言っても皆鈍っているんですよ、流石に」
腕を組んで言うロビンに、シャルルに付いて来たイライジャが、分かる、と同じように頷いている。
「騎士学校の生徒にも触れを出したんだろう? ルカ」
ヘンリーが言うと、ルカは神妙な顔をして頷いた。
「ああ、一応な。本当は……行かせたくなどないがな……」
将来有望な未来の騎士達を行かせたくなどない。
けれど、あちらの数がどんどん増していると聞けば、この判断も致し方ない。
「アリスは一人で千人倒すんだ! なんて息巻いてましたが……流石にそれは無茶でしょうし」
シャルルの言葉にそれまで真剣な顔をして手元の資料を見ていたヘンリーが噴き出した。
「いや、彼女ならあるいは出来そうだがな。三百ぐらいは余裕なんじゃないか?」
冗談めいて言ったヘンリーに、会議に参加していたステラが軽く睨んできたのでヘンリーは慌てて咳払いをして言った。
「悪い、冗談だ。シュタの教会から見つかった武器は主に槍や剣だと言っていたな?」
「そうです。ただ、それがドラゴンの歯や爪や鱗で出来ているんですよ。それが厄介ですね。こちらの武器とは比較にならない程堅いです」
「あ、それなんですが、ドワーフ達がこんな物を作ってくれまして」
そう言ってシャルルが取り出したのは一本のナイフだった。机の上に置かれたナイフは真新しく、顔が映りそうなほど輝いている。
「これは? 見た所、普通のナイフだが」
「ええ。では、これを切ってみてください」
そう言ってシャルルは続いて机の上にドラゴンの皮膚で出来た硬い布を取り出した。
ドラゴンの皮膚は歯や骨と同じで大変硬く、剣で切りつけても破れない為、昔は鎧の下に着用していたと文献に書いてあった。
そんなものがこんな果物ナイフで切れる訳がない。そう思いつつ、ルカがそっとドラゴンの皮にナイフを押し当てて引くと、あれほど硬いはずのドラゴンの皮が、まるで紙のように切れてしまったではないか。
「こ、これは……一体……」
ルカはそのナイフを隣のロビンに渡して驚きに目を見開くと、シャルルは真顔で頷いた。
「ドワーフは我々人間では真似出来ない鉱石の加工の仕方をするのですが、人数が揃えられないのでせめて武器を、と思い彼らに相談したんです。ドラゴンの歯や爪よりも硬くて丈夫な武器を作る事は可能かどうか、と。彼らもまた女王の行いに憤っているので喜んで手を貸してくれました。そして、出来上がったのがこれです。試しに大型の物も一つ作ってもらい、ドラゴンの剣と強度を確かめましたが、硬さは圧倒的でした。ただ、研ぎにくいのと錆びやすいのが難点なんですが、戦争中の間ぐらいは十分耐えられるかと」
シャルルがそこまで言うと、ルカが椅子から勢いよく立ち上がりツカツカと無言でシャルルに近寄って来た。そんなルカの行動に思わずビクついたシャルルだったが、次の瞬間ルカに強く抱きしめられてしまう。
「でかした! シャルル大公! 我々は数では圧倒的に不利だ。最早知恵を使うしかない。だが! 一番の問題だった所をクリアできそうだ! これは量産は出来るのか? 妖精達だけに任せてしまうには申し訳ないのだが……」
「出来ます、というか、もうやっています。ルーデリアの騎士の分も含めて、今量産中ですが、出来ればイフェスティオなどでも作っていただけると助かります。流石にドワーフ達だけでは全員分を作るのは厳しいようで、今回に限りこの武器の加工方法を人間に教えると言っていました」
シャルルが言うと、ルカはチラリとロビンを見た。
「大丈夫です。イフェスティオとフルッタの領主達は喜んで手を貸してくれるでしょう。妖精王に頼んで、ドワーフ達をあちらに連れて行ってもらいましょう」
「助かります。では、私から頼んでおきます。恐らくもうあまり時間はありません。急ぎましょう」
「そうだな! 他に何か新しい情報は?」
ルカが言うと、それまで黙っていたクラーク家のアベルが口を開いた。
「うちのアレックスがオピリアの中和剤を作る事に成功しました。今までは腕輪しかオピリアの対抗策はありませんでしたが、アランが妖精の粉を大量に頂いたとかで、それを使って画期的なオピリア中和剤が出来たのです。向こうの兵士の中にはアレックスのように望まずオピリアに侵されている者も居るようだと聞いています。なので、戦争が始まったらすぐにドンさんにお願いをしてこの薬を敵側に撒いてもらうのはどうでしょう?」
少しでも犠牲者を減らしたいアベルが言うと、イライジャも腕を組んで頷いた。
戦力を減らすという意味でも、無理やり連れて来られる犠牲者を減らすとという意味でも、その考えは素晴らしい。
「それはいいな。しかしよくそんな物が出来たな! それは即効性があるのか?」
「ええ。これに関しては、分けてくださった妖精王とアランに使えと言ってくれたシエラさんにお礼を言わなければ。そうですよね? シャルル大公」
「! はい、いえ、ありがとうございます」
シエラを褒められて嬉しいシャルルが顔を赤くして頷くと、アベルは嬉しそうに頷く。
そんなアベルの胸ポケットにはちゃっかりアリスのカップリング厨会員カードが入っているのは内緒だ。
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