第四百九十話 優秀なAMINAS

「結局お前のした事って、過去を変えて当時のアリスちゃんとシャルルを蘇らせたって事?」

「まぁ、ざっくりと言えば」

「そんで、ついでに元居た場所でその植物状態って奴になっちゃったから、魂だけこっちに来ちゃったって……そういう事?」

「まぁ、簡単に言えば」

「……どんだけだよ」


 確かにこの世界ではドロシーのような白魔法を使う者も居るし、妖精王のように既に去ってしまった魂を呼び戻す事も出来るほどの力を持つ者も居る。


 でも、どちらもそれなりの対価が必要だし、死んだ者は生き返らない。安易に生き返らせてはいけないという想いから、そんな事はあまり誰も考えない。


 ところがどうだ! この男ときたら!


「全然簡単じゃなくない⁉ 滅茶苦茶ややこしいよ! 倫理観どうなってんの⁉ あんたが一番、カップリング厨だよ! ……でも……ありがと」


 リアンは思わず立ち上がって叫んだが、最後の一言だけはポツリと呟いて頭を下げた。リアンだって夢に見なかった訳じゃない。リトとエデルとリアンの三人で食事をしたり話をしたりする事を。些細な事でいい。一度だけでいい。エデルと話してみたかった。そう思った事も一度や二度ではない。


 頭を下げたリアンを見て、ノアは笑った。


「あはは、かもね。ちなみに過去に行ったのは支倉乃亜の思考を積んだシャルだからね。そうそう変な事にならないように、厳しく監視してると思うな。自分達の行いが変な風に今に出たら困るでしょ?」

「それはそうだが……しかし、シャルとアリスは宮廷魔導士とキャロラインのメイドだったのだろう? 何かすればすぐに話題になってしまうだろう?」

「そうはならないよ。だって、二人は多分、そのまま身を隠しただろうからね。当時、アリスもシャルルも亡くなってしまった。それが生まれ変わりましたー! って急に出てくるのは変でしょ? だって、アリスの遺体はもう無い訳だし」

「それは……そうだな」

「だから二人はどこかでひっそりと幸せに暮らしました。めでたしめでたし、が一番綺麗で後に影響しない終わり方なんだよ」


 それを踏まえてシャルはあのストーリーを付け加えたのだ。そして、子孫を見に来るというエピソードまで入れたのはもちろん、アメリアに対抗する為なのだろう。


「はぁぁ……で、結局ノアは何で暗闇怖いの?」

「え? 急だね」

「あ、それは俺もずっと気になってました。思い出したからには、理由も分かったのでは?」


 真顔で聞いてくるキリに、ノアもまた神妙な顔をして頷いた。


「交通事故に遭ったって話したでしょ? それから目覚めるまでの間、僕は真っ暗な闇の中に居たんだよ。あれはもしかしたら夢だったのかもしれないけど、気持ち的には完全な闇の中からのスタートで、記憶は無いわ、その後も碌な事は起こらないわで、僕の中で闇=怖い、悪い事が起こるって自分でジンクスを作っちゃったんだろうな、って」

「そう、思い込んだという事かしら?」

「そういう事。だから未だに真っ暗にすると震えるほど怖いよ。昔ほどじゃ……ないけど」


 ノアはそう言ってチラリとアリスを見た。


 たまに深夜に明かりが消えてしまう事があっても、今はもう飛び跳ねて起きたり叫んだりはしない。


 何故なら、大抵アリスの大きな寝言が隣の部屋から聞こえてくるからだ。いつでも元気なアリスは、寝ている時でさえ元気で、毎晩のように笑ったり叫んだりしている。


 バセット領に居た時はアリスとの部屋は隣では無かったから流石に聞こえなかったが、学園の寮では本当によく聞こえるのだ。だから最近では暗闇で目を覚ましても、結局笑ってしまえるまでになっている。


「アリスの側に居たら、きっと克服できるんじゃないかな」


 そう言ってノアはアリスを抱き寄せて頭をグリグリと撫でた。


「それでお話は終わりなのですか? ノア様」

「うん。僕からはね。何せ倒れた後はそのままこっちに来ちゃったからね。後は全部シャルが対処してくれてたんだよ。AMINASの中で」

「シャル……か。ずっと敵だと思ってて何か、申し訳なかったな」

「いや、それは仕方ないよ。僕自身もそう思ってたんだから。ていうか、そう仕向けた感じがするけどね、自分から」

「まぁ、それは本人に追々聞けばいい。この時代に来るんだろう?」

「そのはずだけどね。いつやって来るのかまでは僕にも分からないよ」

「あの……今まで話を聞いていてずっと疑問だった事があるんですけど、いいですか?」


 遠慮がちに手を挙げたアランにノアが頷くと、アランは何かを確かめるように話し出した。


「女王の存在って、結局ゲームとどういう関係だったんですか? 彼女は外の人間で、キャラクターでもなければ、敵役にも設定されていなかったんですよね? それなのに、どうしてこんなにも密接にストーリーに絡んできたんでしょう?」


 ノアの話を聞けば聞くほど不思議だった。女王とゲームは全く関係ないはずだ。それなのに、女王のした事でオピリアは流行りだした。それを逆手にとって上手くいった事もある。


 けれど、ノアは一言も女王には触れなかった。これは一体どういう事なのだろう?


「それこそが、AMINASがした事なんだよ。こればかりは余計な事してくれたなって僕も思ってるんだけど、AMINASって言うのは、それ自体が人工知能の塊みたいなモノなんだ。自分で考え、常に最善の道を選び取ってゴールに導こうとする。実際、レスター王子が幽閉されていたのも女王がしでかした事だったし、シャルルが大公になれたのだって、辿れば女王がした事だよね? AMINASは女王という異分子がこの世界で起こそうとしている事を利用してメインストーリーに繋げたかったんだ。それを止めようとしたのがシャルなんだよ。下手に女王が暴走したら、せっかくここまでストーリー通りに進んでるのに破綻してしまう。だからきりの良い所でシャルは女王達をこの島から追い出そうとしてた。ところが皆も知っての通り、ゲーム機には最終決戦の後に女王との戦争までもが組み込まれてしまっていた。だからシャルは焦ったんだ。もう何をやっても女王の存在はストーリーの一部として認識されている事に気付いたから。それはつまり、必ずこの戦争は起こるって事と同義だからね」

「でも、強制力は無くなったんだろ? 今から回避する事はできない……な」

「それは無理だな。ここまで来ちゃったら、もう何をやってもあっちもこっちも止まらないって。でもこうも考えられるな。AMINASはあくまでも最善の道を選んでた。てことは、この時点で女王を片づけておかないといけなかったのかもしれない。だからこそ、無理やりストーリーに捻じ込んで、島の人間に女王は敵だって認識させたのかもな」

「それはそうかもしれませんね。外の世界で起こっている戦争がひと段落ついてから事を起こされたら、こちらは本気で勝てなかったかもしれません。そういう意味では、AMINASはやっぱり最善の道を選んだ、とも言えます。一早くそれに気付いた訳ですから、かなり優秀だと思いますよ、AMINASは」


 シャルルが言うと、カインとオリバーが頷いた。そんな三人にノアが笑う。


「そんな風にとってくれたら僕も嬉しいよ。AMINASも僕の大事な子供みたいなものだから」


 やっとほっこりした空気になったところに、ふとユーゴが口を開いた。


「ところで話は変わるんすけどぉ、島の強制力が無くなったんすよねぇ?」


 そんなユーゴに隣のルーイが驚いたような顔をしている。

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