第四百七十五話 ライラの親友はお猿さん ※気になる所で終わっています。苦手な方は478話の更新をお待ちください。
「行きます! 私達も皆さんについていきます!」
「そうです! 戦う事は出来ないけれど、最後までちゃんと見届けたいんです! ましてやアリスがこんな状態なのに、放っておけないわ!」
ライラが大好きなアリスは、こんな腑抜けた笑い方をしない。笑う時ですら豪快で、そんなアリスが大好きなのだ。
「ライラ、危ないからここに居て? 私だったら大丈夫だから」
そう言ってニコっと笑ったアリスを見て、ライラが抱き着いた。
「違う! アリスはニコ! じゃなくて、ニカ! って笑うんだよ! 思い出して! アリス! お猿さんのアリスに戻って!」
「……いや、お猿さんには戻らなくていいんじゃ……」
思わず呟いたオリバーに、リアンがゆっくりと首を振る。
「そっとしといてやって、モブ。ライラの親友はお猿さんなんだ」
「……そっすか」
オリバーはそんなアリスを見てこっそりスマホでメッセージを打った。相手はドロシーだ。
これからシャルルと戦う事になるという事を、オリバーはドロシーに伝えたのだ。相手がシャルルなだけに、どうなるか分からない。もしかしたら最後になるかもしれない。
負ける気は無いが、一応ちゃんと覚悟もしているオリバーである。
「アリスがこんな状態じゃどうなるか分からないけど、皆、そろそろ移動しよう」
「そうですね。僕がアリスさんの分をカバーします」
立ち上がったアランは、チビアリスに貰ったお守りを握りしめて自らフードを取って黒い雲を睨みつけた。何度、この日を待ち望んだ事か。ここまでようやくこじつけたのだ。今更失敗は許されない。
「そうね。アランの言う通りだわ。私達はそれぞれに力を出し切りましょう。いつまでもアリスにばかり頼っていられないわ。今こそ、悪役令嬢の力を見せてあげる」
戦いにおいてはずっとアリスに頼りっぱなしだった。アリスは強い。破壊神アマリリスになったらもっと強い。
けれど、ずっとそれに頼ってばかりいるのでは、元悪役令嬢の名が廃る。何よりも、キャロラインにとってもアリスはもう大親友だ。家族なのだ。アリスばかりに命を賭けさせる訳にはいかない。
「そうだな。行こう! シャルルを倒し、俺達は未来を勝ち取るぞ!」
「そだね。ライラの為にもアリスをさっさとお猿さんに戻さなきゃ」
「行くぞ、オスカー! 今日は思う存分暴れていいからな」
「分かった。遠慮はしない」
カインの言葉にオスカーが拳を握りしめた。それに続いて騎士達もトーマスも頷く。
「ノア様、行きましょう」
「うん。それじゃあ皆、妖精手帳勿体ないから手を繋ごうか」
ノアが両手を差し出すと、片方をアリスが、そしてもう片方をキリが掴んだ。それを見て仲間たちが次々と輪になってしっかり手を繋ぐ。
「それじゃあ、移動するぞ」
ルイスが輪になった仲間たちを見渡して妖精手帳に『王都 広場』と書き込む。
「ルイス、手を」
「ああ」
キャロラインに言われて手帳をポケットに仕舞ったルイスは、しっかりとキャロラインの手を握った――。
王都の広場に移動すると、そこにはいつもの華やかさはこれっぽっちも無かった。不気味なぐらいシンとしていて、まるで嵐でも来ているかのように強い風が吹き荒れている。
「ライラ、ミアさん戦場の結界の外に居て。アリスの話だと、あの教会は戦地にならないから、あの辺から見てて。絶対に近寄ってきちゃダメだよ」
何か間違えてライラとミアが戦闘要員として含まれてしまっては困る。リアンの言葉にライラとミアは頷いた。
「分かったわ! リー君達も気をつけてね」
「分かってる。あ、そうだライラ。全部終わったら、ライラが行きたがってたお菓子のお店行こ」
「うん!」
唐突なリアンからの言葉にライラは頬を染めて頷いた。
ミアはキャロラインとキリに自分で作ったお守りを手渡して祈るように手を組み合わせて言った。
「お嬢様、キリさん、どうかお気をつけて」
「ええ。あなたもちゃんと隠れているのよ」
「はい!」
「ミアさん、これが終わったら俺の話、聞いてくれますか?」
「……え?」
「!」
キリの意図が分かったキャロラインはすぐさまその場から笑みを噛み殺しながら立ち去る。
これは何が何でもシャルルを倒してノーマルエンドに進めなければ!
キャロラインは胸ポケットに入っているカップリング厨カードを撫でながら気合いを入れなおす。
ふと振り返ると、キリが驚くミアを抱きしめてその頬にキスをしていた。
「キリも片付いちゃったかぁ~」
こんな時でも呑気なノアの言葉に、カインとルイスが噴き出した。
「お前も頑張れ!」
「そうだよ。後くっついてないのお前らだけだよ」
「これ以上何をどう頑張るのさ。はぁ~……いつになったら僕の気持ちはアリスに通じるのかなぁ」
一体あと何年ぐらいアリスを追いかければいいのだ。体感的にはもうレヴィウスの時も含めたら数十年は追いかけている気分である。
「皆さん! こちらにいらしたんですね!」
「レスター!」
「ここで戦うのか?」
「アーロさん!」
広場でシャルルが現れるのを待っていると、レスターとアーロがこちらに向かって走ってくるのが見えた。
ルイスはレスターに駆け寄ってレスターを抱きしめ、よく来てくれたと褒めている。そんな中、ノアはレスターと共にやってきたアーロに近寄り、いつもの様に笑った。
「来てくれてありがとう、アーロさん」
「……来なければリサがどうなるか分からないしな」
あれだけ脅しをかけられたのだ。来ない訳にはいかないし、この尋常じゃない空の色は間違いなくこれから不穏な事が始まる前触れだ。
「揃った……」
駆けつけてきたアーロとレスターを見て、アリスがポツリと呟いた。
その途端、あの音が聞こえて来る。
カチリ。
スイッチの音を聞いたアリスは周りを見渡した。すると、皆にも聞こえたのだろう。アリスと同じような顔をして仲間たちの顔を見渡している。
それと同時に風が強くなり、どこからともなく聞いた事もない生き物の咆哮が聞こえてきた。
声の主を確認しようと仲間たちが一斉に西の空を見ると、ドンがシャルルを乗せてこちらに飛んでくるのが見える。
そんなドンを見てカインとオスカーが何かに気づいたように同時に叫んだ。
「気をつけろ! ドンも正気を失くしてる!」
ドンの胸にいつもかかっているお気に入りのネームプレートがない。シャルルに外されたか自ら外したのかは分からないが、金色の目がいつものドンの目ではない。
カインとオスカーの声を聞いてノアが舌打ちをした。
アリスに続いてドンまでもか! ファルシオンを構えたノアに続き、仲間たちが次々に武器を構え、戦闘態勢に入る。
「さあ、焼き尽くしてしまえ! こんな世界など、滅べばいい!」
シャルルがドンの上から叫んだ。それが戦闘の合図だったかのようにドンが広場に向かって火を噴いた。
火はあっという間に民家に燃え広がり、辺りは一瞬で火に囲まれる。
「……本気だね」
「っすね」
完全に我を忘れているシャルルに、ポツリとリアンが言う。
仲間たちはゴクリと息を飲んだ。ドンの火が止まったかと思うと、今度はあちこちに雷が落ち始めた。それを見てアランが叫ぶ。
「まずはシャルルをドンから引きずりおろします!」
いつまでもドンの背中に居られるのではこちらの分が悪い。アランは詠唱を始めた。ありったけの魔力を使い切る覚悟で。
そんなアランの中にズルリとトーマスの魔法が流れ込んできた。
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