第四百六十二話 世話焼きでお節介が大好きな親子
アーロの言葉にアリスも腕を組んで頷いている。
「キャスパーかぁ~……あいつ、本当にウザいよね。私も嫌い。だってね! オリバーがあいつのせいで人殺しさせられそうになってたんだよ! もう次見つけたらグチャグチャのギトギトにしてやるんだから! そんで丸めてポイだよ!」
そう言って拳を握りしめたアリスを見て、青ざめた騎士達が慌てて駆け寄って来た。
「ア、アリス様。落ち着いて、はい、これクルミです! その怒りをこれにぶつけてください!」
「なんだ、お前達。何をそんなに怯えて――っ⁉」
あまりにも慌てる騎士達を見てアーロが不審に思っていると、目の前でクルミを渡されたアリスがそのクルミを一瞬で握りつぶした。
「お、お前、そ、その力……ま、魔法……か?」
「え? これ? ううん魔法じゃないよ。何かね、すんごい力あるんだぁ、私! テヘ!」
「アーロ、あまりアリス様に近寄るなよ。握手でもしようもんなら骨を砕かれるぞ!」
「そうだ! アリス様に足をツイストされて二週間動けなかった奴を俺は知ってる」
「クマも倒しちまうからな、このご令嬢は……これは親切心で言ってるんだ。近づくなよ、それ以上」
「ちょっと皆酷くない⁉ こんなの誰でも出来るよ!」
すかさずテヘペロをしながらクルミを片手で割って行くアリスを見て、アーロはゴクリと息を飲んだ。そして次の瞬間、大声で笑い出す。
「はは……嘘だろ……は……ははははははは! これはいい! いいぞ、アリス。あいつらを出し抜けるかもしれないぞ!」
「?」
首を傾げたアリスに、アーロは牢から手を伸ばしてきてアリスの肩を掴んだ。
「いいか、よく聞け。あいつらが今狙ってるのは、お前とお妃候補の命だ。あいつらは王子とレヴィウスの第四王子の妻の座を狙っている」
それを聞いてアリスはコクリと頷いた。やっぱりノアとカインが言っていた通りだ。
「だが、お前達の情報はあちらはほとんど持っていない。ましてや、お前にそんな力があるなんて誰も知らないんだ。小娘を殺す事ぐらい訳ないと思っている。お前はとにかくその力を隠し通せ。それは必ずお前の切り札になる。いいな?」
「分かった。ねぇ、戦争になったら、アーロさんも一緒に戦ってくれる?」
「もちろんだ。キャスパーは俺が必ず仕留めてやる」
不安そうなアリスにアーロが頷くと、アリスはそれを聞いてニカッと笑う。
こんな笑い方までエリザベスにそっくりで、アーロは懐かしさに顔を歪めた。
「アーロさんは、リズさんが好きなの?」
「ああ。リサには内緒だぞ。あいつは、まだジョンが忘れられないだろうから」
「……ずっと待ってるの? リズさんがジョンさんの事忘れるの」
「……そうだな」
どうせ今までも待っていたのだ。今までと同じ。そう思えば別にどうという事もない。
ところが、アーロの答えを聞くなり、アリスが立ち上がって拳を握りしめた。それと同時にアリスが持っていたクルミが粉々に砕け落ちる。
「ダメだよ! 言っとくけどね! リズさんがジョンさんの事忘れる日なんて一生来ないよ! アーロさんは押して押して押しまくらなきゃダメ! それに、リズさんの息子さんが結婚しちゃったら、リズさん一人ぼっちになっちゃうよ! 一人で寂しくジョンさんとの思い出だけを胸にリズさんが年取ってもいいの⁉」
「良くは……ないな」
確かにそれは一理ある。
しかし、何故初対面のアリスにこんな助言を貰っているのか、イマイチよく分からないアーロである。
目をしばたたかせるアーロに、アリスはスッとポケットから一枚のカードを取り出してきてアーロに渡した。
「それ、あげる。私が会長なの」
「……カップリング厨会員カード……なんだ、これは」
「素敵なカップリングが大好きな人達が持つカードだよ。そのカード持ってもっとカップリングの事勉強して! アーロさんは押しが足りないよ! 兄さまとかキリぐらいガツガツいかないと、どっかから出て来た別の人にヒョイって持ってかれるんだからね! 待ってるだけじゃ愛は伝わらないよ!」
「……そ、そうか。分かった……勉強するとしよう」
アリスのあまりの勢いにアーロはよく分からない会員カードをそっと胸ポケットに仕舞い込んだ。
エリザベスには生焼けのパンを、その娘のアリスにはカップリング厨会員カードを貰ったアーロは、おかしそうに肩を揺らす。やはり血は争えない。この親子は外見も中身もそっくりのようで、世話焼きな上におせっかいが大好きだ。
「アリス、少し頼まれてくれるか? お前の仲間たちを呼んで来てくれ」
「いいよ! これからはちゃんと押してね! 引いちゃ駄目だよ! じゃ、ちょっと呼んでくる! 行くぞ、皆! ついてこーい!」
「わわ! アリス様ーーーーー!」
数人の騎士達が慌ててアリスの後についていくが、到底アリスには追い付けない。残った騎士達がそんなアリス達を見つめて大きなため息を落とす。
「はぁぁ」
「大変だな、お前達も」
「分かってくれるか⁉ そうなんだよ! 俺達は一生アリス様には頭が上がらん……そのカードだって、俺達も持ってるんだぜ」
そう言って騎士の一人が会員カードを取りだして見せると、後ろに居た騎士達もそっとカードを取り出す。
「城にやってきたら絶対に会員番号叫ばされるんだ……なかなか地獄だぞ」
「大変なんだな……本当に」
慰めるようなアーロの言葉に、騎士達は無言で頷いた。いつか、自分も会員番号を叫ばされる日が来るのだろうか。
「あの人は色んな意味で規格外だよ。あれはもう、人間という枠組みを卒業してると思うんだ」
城の騎士達にこんな事を言われるなんて、一体どれほどのパワーなのか。アーロは項垂れる騎士達に苦笑いしながら、アリス達が戻って来るのを待った。
アリスが戻って来たかと思ったら、今度は仲間たちもアーロに呼び出された。牢は狭いという理由で、従者たちは部屋でお留守番だ。
「はじめまして、アーロさん」
「ああ。はじめまして。君がノアか」
「ええ。馬鹿で愚鈍なノア・レヴィウスです」
そう言ってノアはにっこり笑うと、アーロは肩を竦めて見せた。
「とてもそうは見えんがな。エミリーは一体誰と勘違いしてたんだ?」
エミリーが持ち帰った情報は、ノアが記憶を失っている、という事と、訳の分からない話ばかりをする勉強がちょっと出来るだけのバカな王子だという事だったが、目の前に居るノアはとてもそうとは思えない。
「ノアがバカだなんてありえない。俺はコイツほど腹黒い男は他には知らん」
「あと、アリスちゃん命でね」
そう言って笑うのはルイスとカインだ。
「先入観って怖いねって話でしょ。ていうか、変態は元々レヴィウスではそういう風に振舞ってたみたいだしね。エミリーさんと女王がそう思い込んでても無理ないと思う」
「っすね。この男、本気で悪魔っすからね」
そんな事を言ってノアに白い目を向けるリアンとオリバーにノアが鼻で笑った。
「まぁそれはどうでもいいよ。呼び出してもらってちょうど良かったです。僕達もあなたには聞きたい事が沢山あるんで」
「そうだった! お前達、フェアリーサークル作る為にどんだけの妖精の羽取ったんだよ⁉」
憤慨するカインに、アーロは視線をそっと伏せた。
「それは……すまない。俺には止められなかった。そもそも俺が女王の傘下に入った時には、既に妖精達の羽は大量に取られた後だったんだ。俺は羽を失った妖精達を少しずつ外の勇者に預けていた」
「師匠の事⁉ アーロさん、師匠とも面識あるの⁉」
「師匠? 俺が言ってるのは勇者エリスの事だが」
「うん! その人、私達の師匠なの! 戦い方とか色んな事教えてくれたんだよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます