第四百二十九話 蒼の騎士団のメンバー

「なに⁉ それは本当か、レスター!」

「はい! 本物の太陽ほどの力はないそうですが、それでも少しでも力になれるのなら、と」

「そうか! それはありがたい話だ! 皆、聞いたか? これで残りの小麦はどうにかなるかもしれない!」


 レスターの手を両手で掴んだルイスは、嬉しそうに部屋を見渡した。今日は久しぶりに全員がルイスの部屋に集まっている。


 嬉しそうなルイスを見てカインもにこやかに頷いた。


「ああ、多分大丈夫だろ。フィルに太陽の妖精について聞いたけど、確かに本物程ではないにしても、作物を育てる為に必要な栄養素をまんべんなく撒く事は出来るって言ってたよ」

「でもさ、セレアルだけじゃ困るんじゃない? グランとかどうすんの? ミニ王子」


 リアンの言葉にレスターがにこやかに言った。


「大丈夫です。日替わりでセレアル、グラン、フォルスを回ると言ってました。ただ、何せ太陽が二つ昇る事になるので、その日はとても暑くなるかもしれないそうですが」

「そんなものどうとでもなる! これで小麦はもう大丈夫だな! ありがとう、レスター!」

「いえ、とんでもない! あ!」


 レスターは笑顔で言って何かを思い出したかのように時計を見てハッとした。そんなレスターに仲間たちは皆首を傾げている。


「どうした?」

「いえ、今日はこの後クラスメイトの部屋にお泊りに行くんです。男子会というのをするそうなので、僕はそろそろこれで失礼します!」

「お、おお。そうか、楽しそうだな。分かった。それじゃあまた何かあったら教えてくれ、レスター」

「はい! それでは失礼します!」


 そう言ってレスターとヴァイスは意気揚々とルイスの部屋を出て行ってしまった。


「楽しそうだねぇ~。レスター王子はちゃんと青春してるみたいで安心したよぉ~」

「本当だな。最初の頃に比べるとまるで別人だ……そうだ、王子、蒼の騎士団のメンバーが決定しました。既に彼らにはループやゲームの事以外を伝えてあります。いつでも出動出来ますので、必要な時に出動命令を出してください」

「そうか! いよいよ始動か! それで、どんな奴らなんだ?」


 身を乗り出したルイスを見てリアンが笑う。


「王子、めちゃくちゃ乗り気じゃん。良かったね、集まって。ちゃんと人徳あったじゃん」

「ひ、一言多いな、リー君は」


 引きつったルイスを見てリアンが笑うと、ルーイが騎士団のリストをルイスに手渡した。それを見てギョッとするルイス。


「こ、これは……よく皆頷いたな……」

「ええ、頑張りました」


 そう言って胸を反らしたルーイの手腕をルイスは素直に称えた。リストに載っていた名前はどれもこれも、ルカがどれだけ頼み込んでも頷かなかった者達だ。


 年齢も家系も性別ですらバラバラだが、実力は王の騎士団にも劣らない精鋭ぞろいだ。


 ただ一つだけ難点がある。


「なぁこれ……まとまるのか……?」

「いやぁ~そこなんですよねぇ~。俺達もそこは今も心配なんですよぉ~。何せ皆ほら、我が強いでしょぉ~?」

「……」


 困ったように笑うユーゴとルーイを見てオリバーが首を傾げた。


「そんな癖強い人ばっかなんすか?」

「癖なんてもんじゃないぞ。見るか? きっとお前達もどこかで名前ぐらいは聞いた事あると思うぞ」


 そう言ってルイスは机の上にリストを置いた。それを皆で覗き込んで顔を歪める。


「……ルイス、頑張ってください」

「これはまた厄介な……よくぞここまでこんなのばっかに声かけたな」

「誰? ねぇねぇ兄さま、これ誰?」

「アリスは知らなくていいよ。簡単に言うと、あっちこっちでしょっちゅう英雄気取りで暴れてる人達だよ」

「へぇ~! 面白そう!」

「ノア言い方! まぁだが、外れてはいないな。ただ彼らの言い分も分かるんだ。彼らは皆、平民の味方なんだ。民をないがしろにして贅沢の限りを尽くすような貴族に対しては厳しいというだけで」

「そっか! 何だ、良い人たちじゃん!」


 そう言ってアリスは、アハハと笑うが、本当はそんな生易しい者達ではない。この面々に目をつけられた領主は、必ず近いうちに没落すると言われるほどなのだ。


「でもこいつら仲間に入れられるのは大きいよ。何せ今までは謀反予備軍だった訳なんだから。それを制御できるのは有難い」


 カインの言葉にルーイが頷いた。


「そうなんです。彼らにはそれぞれ支持者も多い。この混乱に乗じて内乱でも引き起こされたら敵いません。だからあえて、こちらに引き込む事にしました」


 そう言ってルーイはリストを仕舞って大きな息を吐いて初めて顔合わせをした時の事を思い出した。


 何せ皆が皆それぞれの場所で英雄である。てっきり牽制のし合いでも始まるかと思ったが、そんな事は全然なく、それどころか互いの情報交換などを始めていた。


 そしてどこそこを粛清すべきだ、などと言い始めた辺りで慌ててルーイは今回の話を持ち出した次第である。


「しかしよく説得できたな」

「はい。それはキャロライン様のおかげです」

「キャロの?」

「ええ。聖女の話は今や島の全てに流れています。もちろん彼らの元にも。そして彼らは聖女に一目置いています。そこでこれは聖女からの依頼だと言ったんです。やりたい事の方向性は同じな訳ですから、団結した方がチマチマ正していくよりもいい。その為にはあなた達の力が必要だと聖女が言っている、と。立場的に聖女は騎士団は持てないが、それならばルイス王子の騎士団の枠に入って支えて欲しいのだと言うと、割とすんなり皆言う事を聞きました」

「てかぁ、半分ぐらい脅しだったんですけどぉ~。何せあっちは一般市民な訳だからぁ、粛清する為に色んな違反も犯してるんですよぉ。それに目を瞑ってやるから入れ、みたいなぁ」


 アリスのようにテヘペロをするユーゴの頭をルーイは軽く殴ると、わざとらしく咳払いをする。


「まぁ、経緯はどうであれ、とにかくこれで蒼の騎士団は全員揃いました」

「そ、そうか……ありがとう、二人とも。まぁ、近いうち俺も挨拶しに行こう。俺は騎士団は部下というよりも友人だと思っている。共に戦う仲間だ。彼らにもそれは伝えておいてくれるか?」

「はい。お伝えしておきます」


 ルーイはルイスの言葉に胸に手を当てて頷いた。


 きっと、彼らも今のルイスを見たら喜んで力を貸してくれるに違いない。


 ユーゴの言う通り、確かに多少は脅しはしたが、最終的に入団を決めたのは彼らである。最後の決め手になったのは聖女キャロラインの力が大きいが、どうやらルイスの評判もあったようだった。ルカの騎士団ではないのなら手を貸してやると言われたのだから、ルイスの事はそこそこ評価しているのだろう。


 ルイスの事を未だに疎ましく思っている貴族も居るが、最近はその数がグンと減った。ルカとステラの手腕により、それらの貴族たちが軒並み潰され始めたからだ。あの二人は本当に過保護である。


「ありがとな、ルーイ、ユーゴ。やっぱり、お前達に任せて良かった」


 そう言って眩しいほどの笑顔を浮かべるルイスに、ルーイもユーゴも笑顔を浮かべる。


「よし! 小麦と騎士団はこれで安泰だな。後は洪水か……最近オルゾ地方から何か連絡はあるか? あそこは雨期が終わっただろう?」


 確かオルゾ地方は何故か5月から6月にかけて雨が異様に多いと聞く。多い年は二週間はほぼ毎日雨が降るのだそうだ。

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