第三百九十五話 師匠との再会(スマホ越し)
「後でちょっとゆっくりお話しようか、二人とも。ね?」
「……」
「……」
ノアの言葉に二人はビクリと肩を揺らし、無言で首を横に振っている。
「ま、まぁとりあえず、そろそろ話し合いを始めようか」
静まり返った部屋の中でカインが手を叩いて空気を変えた。それにホッとしたようにシャルルとシエラがようやくこちらを向いたが、そんな二人にカインは言う。
「あ、お前らは後で説教な」
「……はい」
「……覚悟してます」
シュンと二人が項垂れたのを合図に、妖精王も交えて前代未聞の会議が始まったのだった。
「会議の前に、僕達の師匠も会議に参加してもらっても構いませんか?」
ノアはそう言ってスマホを取り出して机の真ん中に置いた。
「師匠? 誰だ、それは」
「バセット領に居た外から来た人です。彼が僕とアリスとキリの師匠だったんです。彼は数年前にフェアリーサークルを使ってまた外の世界に帰ってしまっていたんですが、今回そんな彼にスマホを渡す事に成功しました。これで外の世界の様子を知る事が出来ます」
「おお! そうか! しかしどうやって彼にスマホを届ける事が出来たのだ?」
不思議そうに首を傾げたルカに、ノアはシレっと妖精王を見た。
「妖精王に手を貸していただきました。ね? 妖精王」
「ん? あ、ああ、そうだ。我がその師匠とやらの元へスマホを送ったのだ」
ノアの、いいから頷け、という圧に堪えかねて妖精王が言うと、感心したようにルカ達が頷く。
「今回は向こうに居る妖精奪還の為に彼の力を借りようと思っています。この会議に参加してもらっても構いませんか?」
「もちろんだ!」
ルカの返事を待ってノアがスマホを操作すると、しばらくコール音が鳴って、若い青年がスマホの画面に映し出された。
青年はノアを見て一瞬キョトンとしていたが、次の瞬間には笑み崩れて叫んだ。
『ノア! ノアか! 随分男前になって! キリは? アリスは⁉』
「久しぶり、師匠。師匠は随分、何て言うか……若返ったね」
『ははは! そうだろう⁉ 今ならアリスについて行けるかもな! ……いや、それは無理かな……はは』
何かを思い出したのか師匠のエリスは苦笑いを浮かべ、目には涙が光っている。
「師匠、お久しぶりです。ご無沙汰しています」
『キリー! お前、妖しさが増してるぞ!』
「……どうも。師匠は相変わらずのようで安心しました」
薄く笑ったキリは、そう言いながらも懐かしさで胸が一杯になった。何だかんだ言いながら、キリもエリスが大好きだった。何だか感慨深くて頷くキリを押しのけて、アリスがスマホを覗き込んで満面の笑みを浮かべる。
「ししょーーーーー!」
『アリスーーーー! お前はなんっにも変わらねぇな! 嘘だろ⁉ どっこも成長してないじゃないか! お前だけ時止まってんのか⁉』
「酷い! 成長してる!」
『どこがだよ! 言ってみろ! はぁ……懐かしい。元気そうだな、皆……良かった』
そう言って涙を拭ったエリスにアリスもグスンと鼻をすする。
師弟の久しぶりの感動の再会だ。ルイスとキャロラインは涙を拭い、ルカ達もうんうん頷いているが、いつまでもスマホを離さないアリスからスマホを奪い取ったノアが言った。
「ところで師匠、そっちって今どうなってるの? 妖精たちはどこかに集められたりしてるの?」
いつも通りのマイペースなノアに流石のエリスも涙を引っ込めて半眼になる。
『お前は成長してもノアだな、ほんと。そうだな、俺達の仲間が助けた妖精たちは秘密の場所に隠れてる。ただ、ほとんどが羽をもがれて妖精界に戻れないんだ。どうにかしてやれないか?』
「あ、うん。ちょっと待ってね。妖精王、だそうなんですが、とりあえず今保護されてる妖精達だけでもまずは連れ戻せませんか?」
「出来るとも。一か所に集めてくれればまとめてこちら側に連れて来る事が出来る」
妖精王はスマホを覗き込んで、画面の中の精悍な顔をした青年に画面越しに言った。
「勇者エリス、そなたの活躍も聞いている。沢山の妖精達がそなたに助けられた。我からも感謝を伝えておこう。我が同胞を救ってくれて感謝している。ありがとう」
『え……誰……ですか?』
「我が名は妖精王の名を継ぐもの。妖精達の集まっている場所を教えてくれ。すぐにこちらへ連れてくる」
『よ、妖精王⁉ あ、えっと、こんな汚い恰好ですみません。ここはレヴィウス城跡地の地下です。ここに助け出した羽を盗られた妖精達が集まっています。どうか皆をそちらに戻してやってください』
「分かった。すぐに実行する」
そう言って妖精王はその場から離れて部屋の隅に移動すると、空中に魔法陣を描き出した。それを真剣な顔で見ているのはアランとシャルルだ。二人は魔法を司る者として、やはり妖精王の使う魔法が気になるらしい。
「あんな魔法陣、初めてみました」
「僕もです。それにあの強大な力……流石妖精王ですね……」
感嘆の声を漏らした二人は息を飲んで妖精王を見つめている。
やがて魔法陣が七色に光だした。そこに手を入れ妖精王が呪文を唱えると、一瞬で魔法陣は砕け散り、辺りには金色の粉が舞う。
「エリス、皆をこちらに連れてきた。本当に済まなかったな。ありがとう」
『いいえ! 彼らは俺達と一緒にずっと戦ってくれていたんです。羽を盗られて飛ぶための魔力を失っても、ずっと俺達と共に戦い続けてくれた仲間たちです。彼らに俺からの感謝もお伝えしていただけると助かります。……はは、まさかこんな形で別れるなんて思ってなかったから、ろくに挨拶も出来なくて……すみません』
そう言って涙ぐんだエリスに、アリスが言った。
「師匠、大丈夫だよ! 妖精界にもね、スマホを近いうち販売するからまたすぐ皆に会えるよ! 全部終わったら皆に電話してあげてね!」
『……スマホってこれの事か? お前が考えたのか?』
「そだよ!」
『あー……やっぱ相変わらずなんだな。でもこれは助かる。ありがとな』
「うん!」
「それで、今回保護されたのはほんの一部なんだよね?」
『ああ、そうだ。まだまだ奴隷商は無くならない。それから、妖精王が居るんならちょうどいい。そっちの世界に干渉しようとしてる奴らがいるんだ。俺達が戦ってるのとは別だが、そっちの奴らも妖精達を使って何かしようとしてる』
そう言ってエリスは忌々し気に顔を歪めた。それを聞いたノアが頷き視線を走らせる。
「それってさ、もしかしてアメリア?」
『! 何で知ってるんだ⁉ どこかで会ったのか⁉ あいつは危険だぞ、ノア! 絶対に近寄るなよ!』
「あー……何から話したらいいのかな。あのね、僕、アリスの本当の兄じゃないんだよ。この話はまた後日詳しく話すけど、僕は元々そっちから来た人間みたいなんだよね。で、アメリアの事も知ってたみたいなんだ」
ノアの言葉にエリスが何か言いかけようとして口を噤み、ふと思い出したように青ざめて話し出した。
『……なぁノア、俺な、今レヴィウス城の跡地に居るんだけどな?』
「うん」
『ここにな、家族の肖像画があるんだが……そこにどう見ても今のお前にそっくりの奴がいるんだよ……なぁ、これ、お前……か?』
「うん。多分ね」
『……そうか。何かこの肖像画だけはやけに既視感があるなと思ってたんだが、そうか……うん、何か色んな事に納得した。で、話戻すけど、まずはレヴィウスの現状を話すべきか?』
「そうだね。それを聞かせてくれる?」
ノアの言葉にエリスは頷いて話し出した。
『まずレヴィウスの事、お前達どこまで知ってる?』
「王と王妃が亡くなってレヴィウスが内戦起こした辺りまでかな」
『結構初期だな。そうか。俺がルーデリアを出てこっちに戻ってきた時にはもう、王政は無くなってた。ラルフが形だけは王政を継いだんだが、すぐに教会の連中に引きずりおろされて、王政が無くなったんだ。今は教会の連中がやりたい放題してる。お前達が倒してくれたあの奴隷商な、結構デカいとこのだったんだ。ありがとな。それで、俺の敵っていうのはその教会の総本山なんだが、お前達の追ってるアメリアはまた別で動いてるんだ』
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