第三百三十六話 全てはアリスの為に
「ノア、手伝って」
「もちろん」
ノアは抱きしめていたアリスをキリに預け、カインと共に壇上に上がった。
壇上から見下ろすと、そこにはルーデリアの代表とも言われる高位貴族たちがズラリと並んでいる。この人達を味方に出来れば、今まで以上に動きやすくなる。そう踏んだノアは話し出した。
「オピリアが最初に発見されたのは、オリバーのお母さんの努めていた工場でした。ご存知の通り、管理者はキャスパー伯爵。ですが、恐らくそのずっと前からオピリアは国内に少しずつ持ち込まれていたのだと思います。調べた所、工場が出来るよりもずっと前、レスター王子が軟禁された時から恐らくオピリアは使われていたのだろう、と。一番最初の被害者は、おそらくロンド様です。レスターに話を聞いた所、不思議な事に彼は、いえ、彼らは一度も継母の顔を見ていないと言うのです」
「それは本当ですか? ロンド様は何も覚えていないと言っていましたが。しかし、自分の妻ですよ? そんな事がある訳が……いや、でも魔法を使えば可能か……」
「俺達はレスターに聞いたんだ。ロンド様はまだ記憶も曖昧だろうし、今、毎日ロンド様と話が出来るのはレスターだけだから。案の定、普段の会話の中でちぐはぐな事を言い出したってレスターから聞いてる。その話を聞く限り、親父の言う通り恐らくレスターの継母は魔法を使ってセレアルに潜り込み、ロンド様の後妻という立場に落ち着いた。そして多分レスターには、その魔法が効かなかったから、幽閉したんだと思う」
腕を組んで言ったカインにロビンは深く頷き、ルカが首を傾げた。
「どうしてレスターには効かないんだ? そもそもどんな魔法をかけたというんだ?」
「フィルが言ったんですよ、レスターを見て。この子は妖精に近い、と。妖精に忘却、魅了、洗脳系の魔法は効かない。つまり、この三つのどれかを継母はロンド様にかけたと推測できるんです。そしてこの継母ですが、あの覆面を使って自らを女王と呼んでいる事までは分かっています。兄貴曰く、ルーデリアの者でもフォルスの者でもないという。ではどこから来たのか……ノア」
「はっきりとした証拠はありませんが、恐らく海を超えた大陸から来ています。何らかの手段を使って」
この言葉に皆がギョっとした。
「親父達に聞きたいんだ。先祖でも誰でもいい。大陸に行ったって人間はいる?」
カインの言葉に皆が黙り込んだ。答えはノーだからだ。文献に載っているから存在を知っているだけで、実際に行った事はない。それどころか、何故か普段はその存在すら忘れている。
そんな皆の反応を見てノアが頷いて話し出した。
「少し面白い話をしましょう。このルーデリアとフォルス、そしてグランから外には、今、自由に出られなくなっているんです。もちろん、向こうからも来れないんです。その原因は分かりません。それに女王が関与しているのかどうかすらも。ただ言えるのは、外との交易はチャップマン商会が熱かった悪魔の水事件の時が最後です。そうだよね? リー君、カイン」
「ああ。ここ最近の港から出る船を全部洗ってみたんだけど、どれも行き先はフォルスだった。生憎昔のはもう記録も残ってなかったけど、直近はどこもフォルスとの行き来しかない」
「うちもだよ。あれから僕も調べたんだ。随分古い交易記録だったから探すのに手間取ったけど、あの悪魔の水を仕入れたのが最後だったよ。外と交易したのは。他のどこの商会の記録も無いんだよ、それ以降は。それでね、その最後の相手っていうのが、東の大国レヴィウスなんだ」
それを聞いてルカとロビン、そしてヘンリーがギョッとした顔をしている。
「レヴィ……ウス、だと? あの……東の?」
「そうです。ですが、あそこは今、もう大国では無いはずです。というか、外の世界は混乱を極めている。その混乱に乗じて目を付けられたのがここ、ルーデリアとフォルスとグランなのではないかと僕達は思っています」
「ど、どういう事だ⁉ それは一体どこからの情報なんだ!」
そんな話は一切聞いていない。それなのに、どうしてこの子達だけがそんな事を知っているのか。本来ならそんな重要な情報は全て国に入る筈だ。それなのに、何故?
ヘンリーの言葉にロビンもルカも頷いた。何かがおかしい。この子達は何故こんな事を知っているのだ?
そんな大人たちの反応にノアが静かに頷いた。
「僕が、レヴィウスの第四王子だったかもしれないから、です」
「……は?」
「え?」
「なに?」
突然のノアの宣言に三人どころか、皆がポカンとした。カインなど隣で青ざめてノアの腕を掴んでくる。
「お、お前、それ言ったら!」
「いいんだよ、言ったでしょ? もう僕はどんな手でも使う。アリスを泣かせる輩は許せない」
「いや、お前こんな時までアリスちゃんの為かよ……」
どんだけだよ、と言いそうになるのを堪えつつ、カインはこの先をどうノアが収めるつもりなのか見守る事にした。下手したらキャロラインの言う通り詐欺罪にあたる。何せ王家すらも騙していたのだから。
案の定、ルカは眉を吊り上げてノアを睨みつけた。それでもノアは一切怯まない。
「とはいえ、残念ながら僕にはその時の記憶がありません。幼い時にバセット家に保護されて、それからはずっとバセット家の長男だと思い込んでいました。けれどつい最近、違うルートから僕の正体を知る人とうっかり出会ってしまいまして」
「それは誰だ! そいつも仲間なのか⁉ そいつを連れて来い! これは詐欺罪だぞ!」
「父さん! ノアは俺の親友です! 頭ごなしにそんな言い方は止めてください!」
怒鳴るルカを遮ったのはルイスだ。その顔は真っ赤で怒りに震えている。B級おが屑もそろそろ卒業かもしれない。
「ルイス! 親友だろうが何だろうが、反逆罪だぞ!」
そんなルカの声にルイスは珍しく怒鳴った。
「ノアが居なければ! ここはもうとっくに女王とオピリアに支配されていたでしょう! ノアが居たから、ここまで来れたんです! その功績を無かった事にするつもりですか⁉ ノアを捕まえるというのなら、それを知っても黙っていた俺も捕まえるべきだし、そうなっとたしたら俺は喜んでノアと一緒に処刑台に上がります!」
「……ルイス、そこまではしなくていいよ……」
重いよ、それは。ノアはそんな言葉を飲み込んで、いつもの様ににっこりと笑ってルカを見た。
「王はこの世界を守るのと、僕を今断罪するのとどちらを優先するつもりですか?」
「……そ、それは」
「今はそれどころではないはずです。だから僕は出自を明かした。情報を渡せと言うから、それに正直に従っただけです。僕がレヴィウスの第四王子だという事が分かったのもつい最近の話で、僕自身もそれを知らなかった。ただバセット家の子では無かったという事実は、僕にとってはとてもショックでした。そんなショックを受けてる中、まだどこかでそんな事が信じられない上に確証も無いのに意気揚々と、僕は実はレヴィウスの第四王子だったんです! まる! なんて言えるとでも?」
「……」
「言えませんよ。はっきりとした証明がある訳でもないのに。もしもそれすら違ったら、それこそ反逆罪です。だから僕は母を探していました。母は家を出る前、バセット家に魔法をかけた。僕が、バセット家の長男である、と思い込ませる、アリスと同じ魔法を。彼女に聞けば何か分かるかもしれない。それがはっきりするまで、僕は自分の出自を伝えるべきではないと思ったんです。僕の判断は間違っていますか?」
いつもの笑顔でそこまで言い切ったノアをアリスが泣きそうな顔で見上げてくる。そんなアリスに泣きそうな視線を向けたノアに、アリスは堪らなくなって壇上に上がってきて、ノアの腕を抱きしめる。
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