第八十二話 レインボー隊の能力は、思った以上に凄かった

 翌日、食堂にレインボー隊を連れて行き経緯を説明すると、みんなやはり呆れた視線をアリスとアランに送ったが、自分達に懐くレインボー隊を見ているうちに何だか可愛いような気がしてきてしまった。

「お、俺はブルーか。綺麗な色だな。俺の目と同じ色だ」

 ルイスの肩に乗っているのは隊員番号5番のブルーだ。

「俺はイエローだね~。よろしく」

 人差し指を差し出したカインの手を、隊員番号3番のイエローが両手で掴む。

「あら、私の所にはオレンジさんね。ミアの好きな色だわ。よろしく、オレンジさん」

 すると、隊員番号二番のオレンジは飛び跳ねてキャロラインの前で踊りだした。それを見てキャロラインは小さく笑っている。

「僕はいらない! ほんとにいらないって……うぅ、よろしく、グリーン……」

 最後まで拒否していたリアンの元には隊員番号4番のグリーンがとことこと歩いて行く。

「可愛いね、リー君」

「そう? じゃライラが面倒見てあげて。どうせずっと一緒に居るんだからそれでいいよね?」

 リアンの問いかけにグリーンはコクリと頷いて万歳している。どこかズレた喜び方をするものである。

「レッドは私の所に居てくれるの?」

 コクリ。レッドは頷いて片腕を上げた。

「ちゃんと好みがあるのが面白いな! それに学習するんだろう?」

「はい。どこまで学習するのかは分かりませんが、今の所簡単な言葉は理解しているようですね。知識欲も旺盛なようです」

「じゃあ寝る前に本でも読み聞かせてみようかしら」

 キャロラインの提案にオレンジは飛び跳ねた。その後、それぞれの従者がやってきてレインボー隊の話を聞き、それぞれの反応を見せたのは言うまでもない。

 仲間たちに連れ帰られたレインボー隊は、その後、それぞれの待遇を受ける事になる。そして性格が形成されていくのだが、それはもう少し先の話だ。

 ある日、オレンジがキャロラインとお揃いのドレスを着て食堂に現れた時には、それはもうアリスは感激した。

「か、可愛い! オレンジちゃん超可愛い! なんです? どうしたんです? これ!」

「それがね、この子はどうも私のドレスやアクセサリーに興味があるみたいで、それに気づいたミアがそれはもう嬉しそうに似たようなドレスを作り出してね……」

 苦笑いしたキャロラインに、オレンジは机の上で美しいカーテシーを披露してくれた。それを見て皆どよめく。

「凄い学習能力だね。もしかしてアリスより令嬢らしいんじゃない?」

 クスクス笑いながらそんな事を言うノアをキッと睨みつけて、アリスはレッドを抱きしめる。

「うちの子も何かすぐに絵を描こうとするんだけど。あんたさ、この子用の小さいペン作ってやってくんない?」

 そう言ったのはリアンだ。グリーンは絵を描くのが楽しいようで、自分よりも大きなペンを常に持っている。

「分かった。作ってみるよ」

 頷いたアリスを見てグリーンもリアンも同じタイミングで頷く。

「俺の所は最近剣術を覚えたんだ!」

 嬉しそうにそう言ったルイスはブルーをそっと机の上に下ろしてやると、ブルーは竹串を折って作った剣をトーマスお手製の腰に巻いたリボンに差していた。固定していないから動くとずり落ちるのだが、それを一生懸命持ち上げている様はカッコイイというよりも可愛い。

「ミアにブルーの衣装も頼みましょうか?」

 見かねたキャロラインの言葉に、ルイスよりもブルーが反応して頷いた。

「すまないが頼めるか? トーマスと俺ではこれが限界だったんだ」

「いいわよ。後で頼んでみましょう」

「うちはね~めちゃくちゃいい子。ちゃ~んとお手伝いしてくれるから、俺達大助かりだよ。ね? イエロー」

 そう言ってイエローの頭を撫でたカインは、それはもう楽しそうな顔をしている。

 元々生き物が大好きなカインである。この不思議な生き物ではない生き物を見た時も「命があろうがなかろうが、何かを感じるならそれはもう俺の中では生き物だ!」そう言い切った程である。

 ちなみに、オスカーもやはり同じ考えのようで、カインとオスカーで毎日どちらが連れ歩くかの喧嘩になるらしい。今日はきっとカインが勝ったのだろう。

「う、うちは実験の、お、お手伝いをし、してくれます」

 そこまで言ったアランのフードが脱げた。肩に居たパープルがそっとアランのフードを取ってボサボサになった髪を整えてやっている。アランはそんなパープルにお礼を言って話を続けた。

「この子達は、どうも他の子達と感覚を共有することができるようです」

「どういう事?」

 尋ねたリアンにアランが続ける。

「つまり、レッドが学んだ事をパープルも出来るようになる、という事です。応用すれば、離れていても我々は情報を共有することが出来るようになるかもしれません」

「え⁉」

「まあ、話せないのでジェスチャーのようになるのでしょうけど」

 そう言ってアランはパープルに何かをヒソヒソと伝えた。すると、パープルはコクリと頷いてその場に蹲る。すると、他の者達も蹲って突然それぞれの主人の元に向かった。そして一生懸命何かを伝えようとしてくる。

「何を言ってるのかしら?」

 キャロラインがオレンジに言うと、オレンジは一生懸命自分のドレスの花を指さしている。

「花?」

 コクコクと頷くオレンジは満足げに胸を張った。

 一方グリーンは得意の絵を描いていた。それは拙くはあるが、何となく花に見える。

「上手になったじゃん。花でしょ?」

 コクリ。

 さらに驚いたのは、グリーンが絵で伝えた事で、レッドとブルーまでもが絵を描こうとしたのだ。教えてもいないのに!

「こんな具合に、それぞれが学んだ事を彼らは共有しているようなんです。元は一つの頭脳です。何も不思議な事ではありません」

「じゃあ単純に言葉と文字を教えれば、僕達は手紙よりも早くお互いに情報を伝えられるという事?」

「そうなりますね」

「それは……凄いな」

 ルイスはゴクリと息を飲んだ。この世界では離れた場所にいる相手に何かを伝える術はまだ手紙しかない。

「問題は、どれだけ離れても使えるのかどうかって事だよね」

 カインが言うと、ノアがメモにイラストを描きながら話だした。

「脳は元は一つって言ったよね?」

「ええ、言いました」

「だったら、どこまで離れても使えるんじゃないかな。例えば、ここに一つの脳があったとして、ここに皆の学んだ事をどんどん入れて行く。この脳の場所は目には見えない所で全部繋がってるんだとしたら、どこに居ても情報を引き出せるはず」

「クラウド!」

「うん?」

 突然叫んだアリスにノアが首を傾げた。

「琴子時代の産物だよ。琴子時代はインターネットっていう電波を使ったもので、全世界と繋がる事が出来たの。それで、クラウドっていうサービスを利用すれば、保存しておいた情報とかを離れた所からでも見れるっていうのがあったんだけど、それみたいな事⁉」

 目を輝かせたアリスにノアは頷いた。

「そう。この子達が共有した情報は、例え世界の裏側に居ても一瞬で伝える事が出来るって事」

「凄い! レインボー隊はインターネットなんだ!」

 一人興奮して喜ぶアリスに、皆は不思議な顔をしているが、これがどれだけ凄い事か伝えられない自分の語彙力が悔しい。

 しかし最初は消えたら可哀相から始まったレインボー隊だが、思わぬ能力を持っていた事が分かってアリスは喜んだ。何か役割があるというのはとても大切な事だと、アリスは分かっているからだ。

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