第16話 俺、アイリを狙うも返り討ちに合う⑹
部屋の扉が開いた!
落ち着いた温和な声がアイリと俺の間に響く。
「清ちゃん。大丈夫? アイリさんの手に落ちたら残念なのできてみたけれど。私と一緒に帰りましょう」
俺とアイリの密事を目の前にして微塵の動揺もない、家に帰った時出迎えてくれるような感じの彩音ちゃんが現れた!
「あー! 清一郎の姉、彩音! っていうか、どうしてこの場面でここに来るのよ!」
アイリが驚いて叫んだが、まさにその通り!
なんでここで彩音ちゃん?!
駆け付けてくれたのは助かったんだが、どうして俺とアイリの交錯がわかったのかは謎だらけではある。ひょっとして、俺たちの後をずっとつけていたとか?
いや、あの落ち着いた俺とアイリの下校風景に、他人の気配はなかったことを思い返す。
「玄関の鍵も部屋の鍵も開いてたわ。不用心よ」
ふふっとマイルドに微笑む彩音ちゃんに対して、アイリは「チッ」と舌打ちする。
「見ていたようなセリフで大事な場面で登場とか、ありえない!」
「いえ、『観て』いたので」
「ってゆーか、この際だからはっきり言うけれど、あなたいつも肝心な場面で図ったように邪魔しに来る感じで、昔から気に入らないったらありゃしないんだけど。清一郎の部屋でゲームしていていい雰囲気になるとわざとらしくお茶もってくるとか。私と清一郎が大人の階段を昇るの、邪魔するんじゃなくて祝福するのが出来た実姉なんじゃないの」
「それはそうなんだけれど……。清ちゃんの彼女欲しいという気持ちはとてもよくわかってるつもりなのだけど」
「なら邪魔しないで手伝うくらいの甲斐性があってもいいんじゃない? 言っちゃあなんだけど、私と清一郎ってお似合いだと思うし。そこんとこ、どうなの?」
「確かにアイリさんは見目もよくて人気もあって、その上でそれを鼻にかけない大器さんではあるわ。清ちゃんとの相性もとても良いかと」
「ならこのまま清一郎を置いて帰りなさいよ。私と清一郎はこのまま地下の秘密の部屋に直行するから。私も年頃の女の子で、自分の欲望には忠実な性格だから、色々と禁欲生活みたいなの我慢の限界なの」
「ちょっと待て。二人だけで会話進めないでくれよ。俺の立場とか存在とか都合とか気持ちはどうなってんの! 俺、蚊帳の外じゃん!」
「アイリさんの言うことも一理あるんだけれど。でも私も女性で人間だから、『私の秘密の気持ち』を第一に考えるわ」
「だから俺! 俺の気持ちが第一だって!」
「清ちゃん」
「え……?」
「今日のところはアイリさんをお断りして一緒に帰りましょう」
「いや、彩音ちゃんがそう言ってくれるのなら大助かりなんだが」
「チッ」
アイリが舌打ちを返してきた。
「仕方ないわね。今日のところはお開きにしてあげる。でも清一郎は女の私にここまで恥ずかしい事させたんだから男としてきちんと責任はとってもらうわよ」
「アイリ、お前、恥ずかしかったんだ?」
「恥ずかしいわよ! 獲物を目の前にして欲望のままに暴走してただけ。ちょっと冷静になったら……」
「なったら……?」
「私のこと、ちゃんと女の子として見てくれるかどうかとか、私が清一郎にもう顔向けできないかもとか、色々な事を考えて頭ぐちゃぐちゃになってきて、って言わせないでよ!」
両手に拳を握ってこちらを「きぃー」と凝視してくるアイリ。その顔は熱したヤカンの様に上気していた。
俺はそんなアイリを後に残して、母親に手を引かれる子供の様に彩音ちゃんに手を引かれて部屋を出る。
久しぶりに訪れたアイリの邸宅を後にしたのであった。
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