過去の確執 後編

「俺は過去に何があったか、十分に理解しているつもりです。そのうえで、あなたに何かを求めてはいない。だから花蓮。いまはそのことを抜きにして、話し合うべきだ」


 花蓮は少し顔をしかめ、言う。


「この男は『魔術災害』が起こった際、ろくな対応をしなかった。そんな男が未だ席を辞していないとは、私はどうかと思うよ」


 俺がわざわざ明言を避けていた言葉。『魔術災害』。それをなんでもないかのように出してくる花蓮には、頭が痛くなる。

 俺は話を進めるため、その言葉を無視した。


「とりあえず、これをどうぞ」


 俺は入れて生きたコーヒーを差し出す。


「ありがとう、いただくよ」


 拓海はそういったものの、口はつけない。


「とにかくだ。その件を抜きにしても協力は不要だ。いや、むしろ邪魔だ」


 相変わらず花蓮の口調は厳しい。

 拓海の連れの男を見てみろ、凄い顔をしてるぞ。


「……分かった。今回はそちらに任せる」


 ようやく拓海が折れた。とても話し合いと呼べるようなものではなかったが、決着はついた。


「ただ……、協力が必要な時はいつでも言ってくれ」


 そういって拓海は席を立った。連れの男はその横で慌ててコーヒーを飲む。


「ごちそうさまでした!」


 律義な奴だと思いながら、俺はその背中を見送った。


「ああそう」


 花蓮はこの部屋を去ろうとする二人の背中に告げた。


「せめてもの罪滅ぼしのつもりなのかもしれないが、魔術孤児を引き取っていたそうだね。やらない善よりやる偽善という言葉もあるし、君のそういうところ、私は好きだよ」


 拓海は振り向かず、そのまま部屋から出ていった。



 二人のいなくなった部屋で、俺は花蓮に尋ねる。


「拓海さんが引き取った魔術孤児。それって、霜門うみのことだろう?」


「なんだ、知っていたのか。先の異世界転移に巻き込まれた少女、彼女はあの男の養子だ」


 俺はこの世界に帰還後、召喚に巻き込まれた四人の少年少女の素性について調べていたので、そのことは既に知っていた。そして、それ以上のことも。


「そして自衛隊の陸海空、そのどれにも属さない特殊部隊。霜門拓海を隊長とする、特別魔導大隊所属している」


 だから海は異世界へ転移した際、ある程度の戦闘力を有していた。


「俺の知ることのできる情報では、そこが限界だった。どうしてまだ高校生である海がそんな立場にあるのかや、大隊内での詳細な立場は分からなかった」


 俺の話を聞いて花蓮は、立ち上がり所長席に移動する。そして、ホログラムのパネルを起動し俺に向けた。


「この研究所としての権限を使って調べたならすでに分かっていると思うが、私たちの権限で得られる情報はそこが限界だ」


 だが、と花蓮は続ける。


「海が拓海のもとに引き取られた経緯を詳しく知ることができれば、そこから何か分かるかもしれない。

 魔術災害発生当時、拓海は特別魔導大隊に所属していた。ある程度の地位についていたはずだ。が、何もできなかった。おそらく海を引き取ったことは、彼なりの罪滅ぼしの意味もあるのだろう」


 なるほど。だから花蓮は彼らの帰り際、あんな発言をしたのか。


「決めつけは良くないな」


「ああ、確かに勘違いかもしれない。だが、彼の行動は周囲にそう思われても仕方のないものだ。

 そして何より、もしそうだった場合、巻き込まれる魔術孤児たちが不憫でならないよ」


「まったくだ」


 今の言葉は、魔術孤児としての俺の言葉だったのか。それとも海のことを思う俺のの言葉だったのか、よくわからなかった。


「それに、彼らのことは関係ない。お前は、お前のやるべきことを忘れるなよ。ゼルフ」


 この言葉は、花蓮なりの優しさだ。悩んで、思考を停止してしまった俺を正しい方向へ導いてくれる。

 だから俺は、その言葉に従う。これまでも、これからも。


「ああ、忘れやしないさ。いまは、俺はこの場所を守るだけだ」


 そして最後には魔術孤児を救う。終わりも、正解も見えないこの願いを胸に、俺は花蓮にそう言った。

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