第一章

幼き日の記憶

 俺は、日々を生きるのに精いっぱいだった。その日食べるものを探し、何とか飢えを凌ぐ。


 魔力が発見され、世界中の経済は混乱に陥った。何せ今までにない新たなエネルギー源が得られるかもしれないのだ。

 今までの経済は一変し、そのあおりを受けて、多くの企業が倒産した。

 その結果、現代日本における路上生活者は急増。スラムが出現するのも秒読みというような状況だった。


 そんな場所で暮らす俺たちみたいな子供は、親の顔すら知らないなんてことはざらだった。

 かく言う俺もその一人だ。ゴミをあさり、意地汚くも明日へと食いつなぐ。

 生きていれば道は開ける。そう自分に言い聞かせ、日々を過ごす。


 今日も今日とて、そんな惰性で一日が消化される、そう思っていた。

―—あの出会いがあるまでは。


  ◇


 俺は食べ物を求め、普段からよく来るスポットへ来ていた。

 ガサゴソとゴミの山を漁っていると、背後から強烈な光が放たれ、少し遅れてドサっという何かが地面に落ちる音が聞こえた。

 振り返ると、そこには血まみれで倒れる女の姿があった。

 はじめは、食べ物を取りに来たよそ者なのでは、と思い警戒していたがすぐにそうでないと気付く。


「おい、あんた!大丈夫か⁉」


 慌てて駆け寄ってみると、女は息も絶え絶えな瀕死ひんしの状態だった。

 血に濡れて分かりにくいが、よく見ると女は俺たちとは違い、上等な衣服を身に着けてるのが分かった。

 女は近くに寄った俺に気づくと、ゆっくりとこちらを向き話しかけてきた。


「…そこの君……1つお願いを聞いてくれるかしら?」


 俺の返答も待たずに、女は言葉を続ける。


「……守ってほしいものがあるの。」


 いかにも高そうな服を身に着けた、明らかに俺たちとは住む世界の異なる女が、血まみれで倒れている。

 そんなどう考えても面倒ごとの気配しかないこの状況。普通なら女になるべく関わらない方がよいのだろう。

 だが、考えに反して俺の口は開く。


「…何を、守って欲しいんだ?」


 女は俺が話に応じたのを見ると、少し嬉しそうな顔をした。


「……守って欲しいもの、それはね――――」


  ◇


『ピピピピピピ……』


 目覚まし時計の放つけたたましい音に、まどろむ意識が徐々に覚醒へと引き上げられる。

 目覚まし時計を止め、布団から出る。

 現在の時刻は4時。普段ならまだ寝ている時間だが、今朝はやるべきことがある。

 何か夢を見ていた気がするが、そんなこと考えている時間はないと、すぐに思考を切り替える。

 顔を洗い、寝癖を整え、その他もろもろの準備を終えると、コートを手に取り家を出る。


「いってきます。」


 15分ほど歩き続けると、目的地である巨大なビルが見えてきた。

 ビルの名前は――舞浜研究所本部。

 異世界潜行の技術を開発した舞浜花蓮かれんを代表とする団体の、最も重要な建物だ。

 俺はその舞浜花蓮に朝早くから呼び出しを受けていた。

 まだ時刻は5時前なので、ビルの正面エントランスは閉まっている。なので、ビルの裏の職員用の入り口から建物に入る。

 エレベーターに乗り、目的の部屋を目指す。

 やがてエレベーターは最上階にたどり着く。

 俺が呼び出しを受けたのは所長室。

 そこで秘匿性の高い報告書を書き上げ、そのまま提出せよ、とのことだった。

 所長室は最上階の最奥に存在する。少し歩くと、やっと目的の部屋が見えてきた。

 ノックをし部屋に入ると、花蓮は机に突っ伏して眠っていた。

 起こすのも悪いと思い、先にそばにあった端末で報告書を書き上げる。


 しばらくの間、俺がキーボードを叩く音と、花蓮の寝息だけが部屋に響く。

 やがて、音は1つになった。


「……ん、ゼルフか?」

「ああ、起こしちゃったか?悪いな。」

「いや、自分からこの時間に呼び出したんだ。むしろ眠ってしまっていてすまなかったな。」


 少しの会話のあと、ゼルフは報告書を書き上げる作業に戻った。

 


 


 

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