帰還

『排熱開始。再使用可能まで180秒。179、178、177……』


 ここから魔王までの間にあるすべてのものを薙ぎ払った武装が、無機質な声と共に排熱を開始する。


「…えっと、どうしてこうなったかだっけ?」


 魔王軍が撤退を開始したのを確認すると、先ほど話しかけてきた騎士らしき少女に語り掛ける。


「ぁ……………………」


 しかし少女は、今目の前で起きた出来事が衝撃的過ぎて未だに放心状態であった。


「おーい。ゼルフ、来てあげたわよ」


 と、そこへ俺の言いつけ通り、攻撃を確認したイリスがやってくる。放心状態だった少女はイリスの姿を見て意識が現実へと、一気に引き戻される。


「女神さまっ⁉」

「ん?あなたは…どこかで会ったことがありましたか?」

「い、いえ!以前、私が一方的にお見掛けしただけですので…」

「あー、ちょっといいか?」


 イリスと少女との会話にゼルフが割り込むと、イリスは怪訝けげんそうな顔をする。


「そんな顔するなって。それより、イリスをここに呼んだ理由を教えていなかったな」

「お前!女神さまを呼び捨てにするとは…」

「あー、うるさいうるさい。いちいち話の腰を折るな、小娘。それにこれは、お前の仲間を助けるためにやっているんだぞ」


 そして、周囲で倒れている負傷した騎士たちを指し示しながら、説明を始める。


「イリスをここに呼んだ理由。それは―――戦場となった場所全体を包み込むような、大規模回復術式を発動するためだ」

「は?そんなのできるわけないじゃない」

「いや、できる。イリスは魔力のことに関しては考慮しなくていいからな。そこは俺が何とかする」

「これだけの人たちを癒すのに、どれだけの魔力が必要か理解しているの?」

「ああ、だいたいはな。その上で魔力に関して心配はいらないと言っている。さあ、こうやって話している時間がもったいない。そろそろ始めるぞ」

「…わかったわ」


 イリスの準備が整ったのを確認すると、先ほど使用した武装を銃口を上にして空へ掲げる。

 そして再度、自分の中の魔力炉心を稼働させ魔力の生成を開始する。溢れだす魔力は、輝きを放ちながら武装の持ち手へと吸収される。ここまでの過程は先に魔王へ放った一撃を打ち出すものと同じ。異なるのは、ここでつむぐ詠唱。


咲け、我が蓮の花ブルーム・マイ・ロータス

『システムコマンド:ロータスの入力を確認。魔力拡散モードへ移行』


 そしてロータスは花開く。詠唱に従い、掲げられた武装の銃身が外側へ開き、魔力の花が咲く。そこから周囲に光輝く魔力が拡散される。


「イリス!行けるか?」

「この魔力量なら…。やってみるわ!」


 そういうと、イリスは詠唱を始める。


「女神イリスはここにあり。我が神域をここに開放する。あまねく者を包み込み、傷つきし者を癒したまえ。女神の聖域サンクチュアリ・オブ・イリス


 あたりに漂う魔力を取り込み、癒しの聖域を展開する。聖域は広がり続け、戦場になった場所をすべて、癒しの力で包み込んだ。


「凄い…!こんなに魔力を消費しても何ともないなんて…!」

「だから言っただろ?魔力の量は気にしなくていいって。だけど、残念ながらここで終わりだ」


 そういうと俺はロータスの発動を停止する。それにより、魔力の供給が途絶えたイリスの聖域サンクチュアリも霧散した。


「ちょっと!どうして止めちゃうのよ!」

「悪いが時間切れだ。そろそろ向こうとの通信が復帰するからな。ということで、ここであったことは全部イリスの手柄だ」

「え、なんで⁉」


 俺の発言に、イリスは驚いて声を上げる。そして、ここで楠神くすかみとの通信が復帰した。


『こちら楠神。状況を報告してください』

「了解。標的の一時的な撤退を確認。また、本来の目的であった長田おさだおさむの現実世界への帰還は達成済みであるため、自分の帰還を申請します」

『申請を受理します。異世界潜行をこちらから遠隔発動します。発動は30秒後です』


 流れるような速さで俺の帰還が決定する。それに異を捉えたのがイリスだ。


「ちょっと待ってよ!この状況、私だけでどう処理しろって言うのよ!」

「そんなの簡単だよ。全部女神さまがやったことにすればいいんだ。魔王を追い払ったのもイリス、騎士たちを癒したのもイリス。ここで起きたことはすべて君がやったことにすればいい。ちょうどそこに目撃者もいることだしな」


 そう言って俺は、騎士の少女の方を見る。


「…私、ですか?」

「そうだ、君だ」

「…それなら何とかなるかも」


 この案にイリスが賛同し始める。それに結界の崩壊を発生させ、結果的に魔王を呼び込んだイリスには、何かしら人々を納得させる要素が必要だったため、この話は願ってもないものだった。

 そして、俺の体を異世界潜行の光が包み込み始める。


「時間だな。では、最後に俺から一言。—絶対に、二度と召喚の魔術を使うな」

「…分かりました」

「よろしい。じゃあ、もう二度と会うことはないだろうけど元気でな」


 その言葉を最後に、俺の体は元の世界へと転移した。


―——————

あとがき

 今回で0章は終わり、次回からいよいよ1章が始まります。ゼルフは一度元の世界へ帰ったわけですが、もちろん今後もイリスたちは登場します!次回以降もよろしくお願いします。


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