第43話 何かが切り替わった ◇オフライン◇
予想に反していたのか、あまり動揺しない俺に困惑している様子だった。
「おい、まだ答えてもらってないぞ? 名雪さんにこんな事してどうするつもりだ? まさか俺にマウント取る為に人質を取ったとか言わないよな?」
「う、うるせえっ……!」
京也は怒鳴った。
図星だった。
今まで下に見ていた奴にしてやられてばっかりで、我慢がならなくなったんだろうな。綾野さんにも気があったようだし。
でも、これじゃあ小物感が丸出しだぞ。
「これ立派な拉致監禁だぞ? 真っ当な学校生活を送る気があるならリスクが高すぎる行為だって、すぐに気付くと思うんだがな?」
「へっ、そんなもん、どうとでもなるんだよ」
京也はクスリと笑った。
「親族のフリをして電話を入れるだけで学校はそれ以上、詮索してこない。家庭の問題にそこまで突っ込んだことは出来ないからな。お前一人が何を訴えたところで、怠慢な教師は適当なことを言って知らぬ存ぜぬを通すだけさ。面倒事に巻き込まれたからって一銭にもなりゃしないんだからな。それにアイツは凄く扱いやすいぜ?」
彼は言いながら小窓の奥に見える名雪さんに目を向けた。
「アイツは少し痛め付けるだけで従順な犬になるんだからな」
「やはり名雪さんがしゃべらなくなった切っ掛けはお前か」
京也は目を細めた。
「誰がそんな事を?」
「誰でもいいだろ」
そこで彼は下卑た笑いを見せた。
「そうさ、俺さ。俺はアイツみたいなしみったれた奴を見るとムカムカしてくるんだ。そういう時は痛めつけるのが一番。苦痛に歪む顔を見るだけでスーッと気分が爽快になるんだから」
勉強も運動もそこそこ出来る癖に何が不満だというのだろうか?
ただ自分より弱い者を嬲って優越感に浸るというよりも、その行為自体に快楽を覚えているようにも見える。
しかし、名雪さんは京也にそこまでされて、よく学校に通い続けられたな。
そこも彼に強要されていたのか?
高校まで一緒とか地獄だろ。
にしても名雪さんにこれ以上、負担は強いられない。
そろそろ、返してもらおうか。
動き出そうとした矢先だった。
「だが、テメェは駄目だ!」
「?」
京也が壁に備え付けられていたレバーのようなものを引いたのだ。
その直後、分厚い鉄扉が俺の目の前を遮断した。
入ってきた方の小さな扉も内側からは開かない構造になっている。
どうやら俺が今まで立っていた部屋はかつて冷凍庫として使用していた場所らしく、俺はその中に閉じ込められたのだ。
だがここは廃墟。電源が生きている訳でもないので、冷気が出る様子は無かった。
ただの分厚い壁の牢といった感じか。
小窓を覗くと向こう側で京也が、してやったりといった顔をしていた。
「いいざまだな。そこでゆっくりと見学しているがいい。これから始まる楽しいショーをな!」
彼はそう言うと、項垂れている名雪さんのもとへと近付く。
「俺はこういう小便臭い女には興味が無いんだが、桐島! お前が泣いて苦しむ姿が見たいからわざわざ舞台を作ってやったんだ。仕方なくやってやるから、見とけ!」
京也は名雪さんの胸ぐらを掴むと、そのまま服を引き裂いた。
彼女の白い肌と下着が露わになる。
「……っあ!?」
これには名雪さんも声を漏らした。
縛られている手で必死に胸元を隠そうとする。
「なんだよ、いっちょ前に恥ずかしがってんのか? テメェはそれほどの女じゃねえだろうがよ! おらぁっ!」
「ううっ……!!」
彼女の腹に蹴りが入る。
その光景を目にした途端、俺の中で何かが切り替わったような気がした。
今まで、なんで俺だけゲームのステータスがリアルと同期したのだろうと疑問に思っていたが……。
もしかしたら、こういう時の為に存在していたのかもしれないな。
俺が右手をかざすと、呟く。
「ウインドカッター」
スパンッ
直後、分厚い鉄扉が羊羹のように真っ二つに斬れて転がった。
倉庫内に激しい残響が轟く。
この有様に京也は口を半開きにしたまま固まっていた。
「おっ……おお……お前……今……何をやったんだ!?」
彼が狼狽えるのも無理は無い。閉めた筈の扉が真っ二つで、閉じ込めた筈の俺がそこに立っていたのだから。
そんな彼に向かって俺は一言告げる。
「お前、やり過ぎちまったな?」
「……」
京也は引き攣った表情を見せる。
その傍で名雪さんは、突然現れた俺のことを呆然と見つめていた。
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