第28話 左腕刑事は御曹司の右腕を探る


「刑事さん……一体どういったご用件ですか?」


 第四購買部にある靴店で、箱から出した靴を陳列していた炎乱馬は怪訝そうに俺たちを見つめた。


「実は白銀旭さんに関する情報を集めてまして、お兄さんから当時キャッチャーをされていたチームメイトの方の話を聞かせて頂きました。それで、白銀さんとその方について他のチームメイトからもお話を伺いたいのです」


「チームメイトのことを健が?……ううん、まいったな」


 兄よりも頭一つ大きい乱馬は困ったように唸ると、記憶を弄るように宙を見た。


「キャッチャーでしょ?あいつのことは俺もよく知らないんですよ。旭と何か話しこんでるのは見たことがありますけど……」


「なるほど、では『ファイヤーボール』と言う言葉に聞き覚えは?」


 リードが『ファイヤーボール』の話題を出すと、乱馬は「それは……」と言って一瞬、戸惑うように目線を泳がせた。


「聞いたことがある……ような気がしますが、何かは知りません。特注のボールのことですかね?」


 健と同様の反応だったが、嘘をついているようには見えなかった。


「あの、それよりちょっと気になったんですが後ろの刑事さん、ひょっとして寒風寺零君じゃないですか?」


 乱馬に探るような目を向けられ、俺は戸惑いつつ「ええと……そうです」と返した。


「中学時代、対戦したことがあるけどあのストレートは打てなかった。まさか刑事になってるとは思わなかったな」


「そういえばそんなことがありましたかね。……野球をやめて刑事になった原因はこれですよ」


 俺は自嘲気味に言うと『黄金の左腕』を見せた。


「なるほど……事故に遭ったって話は聞いたけど、まさか腕を切断していたとは……」


「まあ、スポーツに事故はつきものです。それに、この腕はなかなか優れものでしてね」


 俺が笑いながら手を指を握ったり開いたりすると、乱馬は「はあ」と感動とも同情ともつかない声を漏らした。


「わかりました、では最後に、あなたたち兄弟以外に、白銀旭について何か知っていそうな方をご存じありませんか?」


「そうですね……鵜久井雛うぐいすうっていうマネージャーの子がいて、チームの中では旭の秘書とも呼ばれてたんだけど、俺たちが進学してチームが世代交代した後も旭の秘書を続けてるっていう噂があるな。その子なら多分、旭のことに詳しいと思います」


「白銀旭の秘書……」


「居場所まではちょっとわかりませんけどね。……あっ、いらっしゃいませ。……すみません、仕事なんでこの辺で」


 乱馬はそう言って軽く頭を下げと、入り口の方に去っていった。


「……どう思います?今の話」


「白銀旭に近い人物の名前を二人も聞けた。収穫だよ」


 リードはそう言うと「ちょっと買い物をして行くから、先に署に戻っていてくれないか」と言った。俺はリードの坊主頭を見送りながら、チームメイトが漏らしたという「ファイヤーボールが来る」という言葉の意味について考えを巡らせ始めた。

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