第159話 強固な神殿騎士卿
「エルヴィン、どうして……」
小さく囁いた言葉だったのに、彼も聞き逃すことなく応えてくれる。
「どうしても、あなたに伝えたいと思ったのです。今、この時に」
何を?
という疑問を、フィルメラルナが口に出す前に、エルヴィンが手を引いた。
「戻りましょう。〈聖見の儀〉は無事に終わりました」
二人が背をむけると、民衆の声が大きくなった。
残念そうな声も混ざるが、皆手を振り喜びの声をあげている。
けれど、エルヴィンに繋がれた腕に注意が向いて、フィルメラルナは広場を気にすることができなかった。
露台から聖見の間に移動すると、神官によって扉がゆっくりと閉められていく。
と、その場は一息に静かになった。
「あの……」
まだ腕を離さないエルヴィンに、フィルメラルナは戸惑っていた。
頬が熱い。
聖見の間には、神殿の司祭や騎士などが控えていた。
儀式終了に伴い、皆そろりそろりと持ち場を移動していく。
「このまま、歩きながらで結構です。あなたを部屋へ送り届ける間、どうか聞いてください」
「はい……」
歩き出そうとした二人の前に、青い制服の騎士が現れた。
「失礼いたします。フィルメラルナ様をお部屋へお連れするのは、この私の務めです」
アルスランは臆することなく、神殿騎士卿エルヴィンに意見した。
「すまないが、下がってくれ」
「しかし――」
不安そうなフィルメラルナを、気遣ってくれているのだろう。
アルスランは食いさがろうとした。
「私は、フィルメラルナ様に話があるんだ」
語気を強くして、エルヴィンがそれを撥ねつける。
気迫に押されたのか、アルスランは押し黙り、フィルメラルナの肩もビクリと竦んだ。
「さぁ、行きましょう」
「は、はい」
少し強引とも取れる態度で、エルヴィンがその場を後にする。
その勢いに逆らわず、フィルメラルナも倣って歩き出した。
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