第125話 真実への扉
確かに、事前情報はあった方が良い。
エルヴィンも苦手とするヘンデルへ、訊いてみる必要がありそうだった。
「でも、ヘンデルに知られたら、彼はわたしたちがリクヴィルへ行くのを止めるんじゃないかしら」
「確かに可能性は高いかと。しかし彼は歴史棟の主ですから、真実を知る探究心に駆られるでしょう。いえ、それ以上に、先日まで神妃であられたイルマルガリータ様の生涯を記録する義務がありますから、理解を示してくださるかもしれませんよ」
意外なことに。
エルヴィンはヘンデル・メンデルという人物と、脈々と受け継がれてきた彼の家督や思考、習性について詳しいようだった。
「でも、ダメ」
ミランダは、ヘンデルへの相談はするなと忠告したのだ。
「では、リクヴィルの事件についてだけ説明を求めてみましょう。あなたがイルマルガリータ様の故郷に関して、興味を持たれていると伝えてみます」
「そうね、勘の良さそうな人だから危険だけど。万一阻止されたら困るから、慎重に訊かないと」
石橋は叩いて渡らねば。
本当は、もう一人の王子について調べたかったのだけれど、それどころではなくなってしまった。
フィルメラルナはそう零して、ふっと小さく溜息を落とす。
「それにしても奇妙なことです。以前、あなたの部屋にあの二人が現れてから、随分と時間が経っていますが……。今になって、まさかミランダ王女とこのような形で関わることになろうとは、先刻まで私には一欠片の予想もつきませんでした」
「それは、わたしも同じ」
誰が予想できたであろうか。
まさに神のみぞ知る、この運命。
「確か、あれはわたしが父さんに会って、部屋に籠もっていたときで……?」
王宮から神殿へと続く回廊を歩いていた足を、フィルメラルナはピタリと止めた。
不意に思い出した。
先ほどミランダは言ったのだ。
あの時、ユリウス王子と賭けをしていたのだと。
一体、何を賭けたのだろうか?
勝者は何を得て、敗者は何を捧げたというのだろう?
フィルメラルナが疑問を抱いたその瞬間。
強烈な稲妻が空を縦に割り、あたりを閃光で明るく照らした。
続く雷鳴は、鋭く轟き――地表を小刻みに揺らしていく。
それは、まるで。
真実への扉に鍵を差し込み、ゆっくりと確実に押し開いていく――予兆のようだった。
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