第118話 ミランダの頼み

「そう、あの時。実はね、わたくしとユリウスは、ちょっとした賭けをしていたの。噂通り、部屋にいるのがイルマルガリータとは違う女なのか。もしそうならば、新しい神妃の額に聖痕があるのかって」



 確かに。


 かつて会った王子と王女は、フィルメラルナの姿を見て、それらしき反応を示していたと記憶する。



「もちろんわたくしは、新しい神妃が来ている方に賭けたのよ。おバカなユリウスは、噂は嘘だと言い張ったわ。イルマルガリータは失踪などしていないとね。そうして見事、わたくしはユリウスに勝ったわけ。あなたのお陰ね、お礼を言わなくちゃ」



 ふふふ、とミランダはまた怪しく笑う。


 長い指で砂糖菓子の一つを摘み、口の中へと放り込んだ。




 これは非公開なんだけど、と断ってから。



「あのあと、ユリウスは著しく体調を崩してしまって……今も伏せっているのよ」



 賭けに負けたのがよほど堪えたみたい、困った王子だこと、とミランダは口端をじわりと持ち上げる。


 だからユリウスは、フィルメラルナの神妃お披露目にも現れず、今回の謁見要望にも応えられなかった。


 けれど大事な神妃との対面なのだから、代わりにミランダが請け負ったのだと。



「でもね、それだって、わたくしの想定通りだったわけ」


「え……」



 どういうことかと問おうとしたフィルメラルナを、ミランダが身を乗り出して遮る。



「ねぇ、どうしてもあなたに頼みたいことがあるのよ。だけど承諾してもらうには、一つ大きな秘密を明かす必要があると、わたくしは考えているの」


「わたしに、頼み……?」



 一体、彼女が自分に何を?


 皆目見当がつかない。



「ええ、そうよ。新しい神妃であるあなたにしか頼めないわ」



 ごくり。


 無意識に自分の喉が鳴るのを、フィルメラルナは耳の奥で感じた。



「まずは、そうね。見て欲しいものがあるわ。こちらへ来て」



 何か抗えられない力にでも、引かれるかのように。


 ディヴァンから立ち上がったミランダの側へと、フィルメラルナは歩み寄った。


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