第102話 ご安心を
エルヴィンは、柔和な表情で問う。
彼はフィルメラルナを連れ歩いているようでいて、見事に進む方向は、彼女の意図に合わせてくれていた。
誘導しているのは、あくまでフィルメラルナ。
出店や人で活気溢れる街中で、巧みに障害物を避け、自然な姿勢で随伴するエルヴィン。
そこには何一つ、不自然と思わせる空気はなかった。
「ええ。向かうべき方向は分かってる……みたい」
無意識であるため、曖昧な答えしか返せない。
けれど、初めての城下だというのに、ゆっくりだが確かに迷いなく歩いている。
まるで見えない糸に導かれるように、フィルメラルナには行くべき場所が感じられていた。
それから幾つかの角を曲がり、城下の主要な道を数本入った寂しい場所へと移動していった。
道行く人や壁に凭れかかる人間も、表通りの明るい雰囲気とは違い、どこか後ろ暗い人相の者たちが多くなってきた。
だんだん心細くなってきたフィルメラルナは、共に歩く神殿騎士卿の姿を、もう一度ちらりと見た。
彼が一緒で良かった。
こんな場所にひとりきりで来たならば、どんな災禍に巻き込まれても不思議ではない。
しかも、もし悪意ある人間に出会ってしまった場合、逃げようにも……初めて来た場所で、すでに帰る道が分からなくなっている。
「大丈夫ですよ、私が一緒ですから、ご安心を」
すべての不安を引き取って、エルヴィンが請け負った。
表通りとは違う人間層が、フィルメラルナの不安を煽り、もはや完全に帰路が分からなくなっていた。
そのどちらについても、彼は心配ないと言ってくれる。
自分の身勝手な行動だというのに、付き合ってくれる彼の優しさを感じていた。
神殿の規則を、誰よりも重んじなければならない立場であるのだろうに。
と、また一際狭い路地へと進んだところで、ふいに目的地に到着した。
汚れた小道にはゴミが散らかり、捨て置かれた古い家財が積まれたあたりには、埃が溜まっている。
陽の光が当たらない壁には青い黴が生えており、衛生的にもよろしくない印象を受けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます