第83話 大歓声
「広場には、かなり多くの国民が集まっています。混乱が予想されるため、警備も通常より厳しくする必要がありましたので」
到着が遅れた事情をエルヴィンが説明した。
〈聖見の儀〉が行われるサン=アイヴィ広場には、相当な数の人々が集まっているらしい。
「そうかい。まぁ、こんなことは初めてなんだから仕方がないねぇ。イルマルガリータの信奉者も多い。前神妃を忘れられない者は、良い顔をしないだろう。ぜひとも、露台に出る彼女の傍で支えてやってくれたまえ」
「いえ……本日は新神妃のお披露目。私のような者の出番はありませんので」
「ふぅん。やはり今回も、君は民衆の前には出ないつもりなのかい? エルヴィンくんのような美しい神殿騎士卿が露台で神妃の手をとったならば、民衆は歓喜して、この異常な事態も意外と簡単に受け入れるんじゃないかと期待していたのだがね、残念だ」
「今回は神妃交代という史上初の〈聖見の儀〉となります。各国も注目しておりますし……。それに、気になる動きもありますので、私は警備の方に注力するまでです」
「神殿騎士卿ともあろう君の仕事とは思えんがね。仕方がない。彼女には護衛騎士を呼んでおこう」
やれやれと決まり文句を垂れ、ヘンデルはエルヴィンへの説得を諦めたとばかりに、両肩を竦めてみせた。
「さぁ、フィルメラルナ様。どうぞ皆の前にお姿を」
ヘンデルとのピリリとした空気を、エルヴィンは切って捨てた。
戸惑うフィルメラルナの腕を取り、露台へと続く扉の前へと誘う。
「少しの間で結構です。民衆へ一通り視線を投げられましたら、すぐにお戻りを」
躊躇うフィルメラルナの背を、エルヴィンがそっと押す。
同時に、金銀細工で飾られた荘厳な硝子の扉が、少しずつ開かれていく。
と、大歓声がフィルメラルナの耳朶を打った。
――圧倒される。
まったく隙間なく詰め込まれた人の集合体に。
その質量に。
幾千、幾万の対の目が自分を見ている。
フィルメラルナ、ただひとりの姿を。
――その額を。
大歓声の中、幾つかの声が大きく響く。
露台近くにいる人間から、波紋のように広がっていく。
「聖痕だ!」
「おお、なんてことなの!」
「イルマルガリータ様の御崩御は本当だったのね。おいたわしい」
嘆くようにして、
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