第77話 イルマルガリータの首

「君は正しい。そして、真実を知るための一歩を踏み出したのだよ」



 歴史を司る目録士。


 彼にとって、真実こそが記すべき内容であるが故か、意味深な言い回しをして称賛した。



「まずは良い報告を。グザビエ・ブランは先日釈放されたよ」


「それは……」



「イルマルガリータ様殺害の嫌疑から、彼は無関係だと分かったからです」



 釈放の理由をエルヴィンが告げた。



「以前、私は君にイルマルガリータの髪を見せた。覚えているかい?」



 覚えている。


 この神殿へ来て間もない頃に、送られてきたものだったはずだ。


 ヘンデルはそのことを指しているのだろう。



「あの時はまだ、彼女の死亡を誰も確信できなかった。あれだけの物証では、憶測だけしか叶わない。けれどね……あの日、君がひとり重罪人用の牢獄に行った日、彼女の死が確定したんだ」



 火急の用と伝えにきた部下と共に、歴史棟へ戻ったヘンデルが見たものは。


 目録士長「ヘンデル・メンデル」宛に届けられた荷物。



 その中にあったのは――。



「歴史棟のこの私が決して見間違うことなどない、イルマルガリータの首だったのだよ。先日、塞ぎこんでいる君の部屋に押し入ったあとかな。なぜかユリウス王子とミランダ王女まで棟に押しかけてきてね、正直困ったけれど。まぁ、彼らも王族の端くれ、隠すことはしなかったが」



 王子と王女は悲鳴をあげ、錯乱した状態で王宮へ逃げ帰った。


 その後は、恐怖に駆られてしまったのか、二人とも大人しくなりを潜めているという。



 イルマルガリータの頭部が送られてきた際も、グザビエ・ブランは牢獄にいたのだ。


 だから、無罪が確定し釈放された。



 衝撃こそあれ。


 今のフィルメラルナは、すんなりとその言葉と意味を受け入れることができた。



 本当は……頭のどこかにあったのだ。


 彼女はもうこの世にいないと。



 生きていると思いたかっただけで、彼女の命が尽きていることを、神妃としての勘かなんなのか、潜在的に理解していた。



「そういうことだから。近々、正式な神妃として君を公表することになるだろう」



 イルマルガリータ崩御の知らせと共に。


 そうでなければ、世界が混乱に陥ってしまうだろう。


 だから、新しい神妃の存在をも伝え、穏便に世代交代を果たすのだ。



「それと、同時にね……」



 ちらりとヘンデルは、エルヴィンの姿へと視線を送る。



「予告していたとおり、神殿騎士卿エルヴィン・サンテスくんが君の婚約者となる。これもできれば、神妃交代と一緒に公表したいんだけどね……」



 まあ、あとはエルヴィンくんと話してくれ。


 そう残して、ヘンデル・メンデルは部屋を出て行った。


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