第44話 紙切れ(エルヴィン)

「それに、ハプスギェル塔の鍵を開けたとなっちゃ、もう神妃の交代は決定的だな。しかし、なぜこんな夜中だったんだ。許可無く神妃の部屋に乱入した奴のせいか?」



 それはそうだろうが、とエルヴィンは手のひらを広げた。


 フィルメラルナの指から受け取ってきた紙切れだ。



「おまえ、これをどう思う?」



 ひらっとグレイセスへ向けて放る。


 そんな受け渡しに慣れているように、サッと片手で受け取ると、グレイセスは裏と表に目を通し、眉間に思いきり皺を寄せた。



「なんだこれ?」


「そうか、おまえには読めないか」



「って、真っ白だろ。くしゃくしゃだし。それとも神殿騎士卿であるエルヴィン、おまえには読めるってのか?」



 いや……とエルヴィンは首を振った。


 自分もグレイセスと同じだ、単なる白い紙にしか見えない。



 ただ――。



「この紙を握り締めていた彼女は、〈再生の塔〉と口にしたんだ」


「おいおいおいおい、そりゃないな。その呼び名は遠い昔に封印されたはずだ。そりゃぁ歴史棟の奴らや、古くからの貴族や王族なら知る者も多少いようが、この間まで単なる町娘だったようなお嬢ちゃんが口にできる名称じゃない」



 呆れたように両手を掲げ、グレイセスもどさりと反対側のディヴァンに腰を下ろす。



「で――エルヴィン、おまえはどう考えているんだ?」


「たったおひとり、イルマルガリータ様だけは、あの塔をいつも〈再生の塔〉と呼ばれていた」



「へ? あの狂った神妃様が?」


「そうだ。おそらくは、この紙面に何らかのメッセージが書かれていたのだろう。私たちには見えないが、神妃だけには読める聖なる文字で」



 グレイセスはもう一度紙を確認する。


 やはり何も見えなかったようで、お手上げとばかりにエルヴィンへと突き返した。


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