第17話 神妃の権力

 暫くして、侍女が食事の片付けをしに部屋へと入ってきた。


 その後ろに、くだんの男ヘンデル・メンデルも続いて入ってくる。



「食欲がないのも分かるけれどねぇ、神聖な祭壇で神妃が倒れでもしたら大騒ぎになるよ」



 やれやれ困った、こんな事態は初めてだ。


 口癖になってしまっているのか、ヘンデルは呟きながら大仰に肩を竦める。



「当たり前だ、食事など喉を通るわけがない」と反論したかったが、それも無意味に思えて黙っておく。



 ヘンデルに続き部屋を出て、建物内の回廊を歩きだす。


 目的地となる聖堂へ向かう途中で、儀式の流れを軽い調子で教授された。



 神官の指示に従って祭壇へあがり、平和への祈りを捧げるだけのようだが。


 名だたる貴族が集まっているとのことで、フィルメラルナに緊張が走った。


 急な儀式開催にも関わらず、すでに多くの参列者が揃っているらしい。



「本日集まっている方々はこの国の中心人物ばかりでね、皆イルマルガリータの失踪をご存知だ。そして、新しく見つかった君が急遽代理として神妃を務め、今回が初めての祈祷になるという状況も心得られている。だからねぇ、まぁ、気楽にね」



 どう気楽にいけというのか。


 重鎮中の重鎮の前で、おかしな行動など取ったりしたら、首が飛ぶのではないだろうか。



「安心したまえ。代理とはいえ今は君が神妃だ。君がどんな行動や失敗をしたところで、咎める者などいないんだから」



 町娘が抱く至極普通の不安が、顔に出ていたのだろう。


 ヘンデルはさらりと神妃の権力を口にした。



「それどころか――神妃はその者を極刑にだってできるんだよ」



 え。



「気に入らないのなら、神妃はこの私をも殺せる。本気で望めば、国王すら殺められるのだよ」


「そ、そんなことしませんよ!!」



 歩みを止めたフィルメラルナは、思わず叫んでいた。


 それはいったいどんな権利だというのか。



「単なる例えだよ。そんなにムキにならなくてもいいだろう」



 ヘンデルは目を細めて、なぜかフィルメラルナの頭を撫でた。


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