第二章 祈祷の儀

第9話 唯一神リアゾ

 数千年前――。



 まだ、人が少数民族としてのみ存在し、常に小競り合いを繰り返していた原始の頃。


 争いの絶えない世界にあって、人々は絶望に瀕していた。



 小さな虫たちでさえ、獰猛な動物たちでさえ、同族で協力しあい、繁栄しようと心を合わせられるというのに。



 なぜ人間は信頼しあえず、常に疑心暗鬼で互いを滅ぼそうと躍起になるのか。


 なぜ神に与えられた英知を活かし、お互いを認め合うことができないのだろうか。



 心から平和を望む人々の祈りを聞いた唯一神リアゾは、自身の分身として、一人の少女をこの世に遣わした。


 それが〈神妃しんき〉と呼ばれる聖女の存在だった。



 神はその少女を何より重んじ守護せよと、各地に散らばる全ての民族に強いた。


 種族という垣根さえ超えた、共通の使命を与えることにより、人の心から他者を貶めようとする邪な感情を拭い去ったのだ。



 結果、人間同士の争いは起きにくくなり、世は制定されていった。




 神の妃として生まれた、只一人の美しい少女。


 彼女の額には、小さな蔦の聖印アイヴィが刻まれていた。



 人と人とを繋ぐ、聖なる蔦の絆。


 いにしえの願いが、具現化された形状なのだと伝えられている。



 その植物を模った印こそが、神が選んだ絶対的存在の証であり、どのような出自であろうと、聖痕を戴いた少女は、神王国ロードスの王宮に併立するリアゾ大神殿へと丁重に引き取られた。



 神妃が亡くなると、その後数ヶ月のうちに次の神妃が生まれる。


 神王国は、その赤子が一歳の誕生日を迎える前に必ず見つけ出し、新しい神妃として神殿に迎え保護する必要があった。



 そして王族と神殿により〈神殿騎士卿〉と呼ばれる特別な立場の騎士が選定され、神妃と共に神への祈りを捧げなくてはならなかった。



 つまり、世界において、神妃は誰よりも愛され守護されるべき存在であるため、選ばれた神殿騎士卿は彼女と婚約・結婚の儀を執り行い、生涯を彼女に捧げるべきと定められていたのだ。


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