74時限目「道具【モール・ジョーカー】」


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 アークに辿り着くと、最後のボディガードが立ちはだかる。


「ボディガード、キング・モールジョーカーと申します。依頼人の命により、貴方達を抹殺します。お覚悟を」


 爆破魔術発動の術式があるのはアークの艦首だ。そこへと続く一番の近道こそ、このキングと名乗る殺し屋が通せんぼをしている道である。


 ここ以外にも艦首へと続く道はある。だが、それは何処も遠回りで、ドリアに追いつくことは出来ない。何が何でも、この道を通らなくてはならない。


「……俺とお前、どっちかがあの殺し屋の相手をする。いいな?」

「了解です」


 一人の殺し屋が腕利きの魔法使い二人を同時に相手出来るはずがない。あの男はどちらかを一人でも足止めをするつもりでいる。

 クロードとカルーアは二人揃って構えている。どのみち後ろに引くつもりも、別のルートを使って艦首を目指す時間もない。キング・モールジョーカーとの戦闘は、避けられる道ではない。


 二人同時に飛び込む。

 キングと交戦に入る。二人の開戦の合図とともに、紫色の波動を籠らせた両腕をつき穿つ。


 

 “狙ったのは、カルーアの方だ”。


「いけッ!!」


 カルーアはキングの一撃を受け止める。

 同時、クロードはキングの隣を通り過ぎる。艦首を目指すドリアを止めるために、最後の護衛はカルーアに任せ、クロードは艦首を目指して走り出した。



「……やっぱり、俺の方を止めたか」

「現役のエージェントと、魔法使いとしては未成熟の学園生徒。私が相手をするのはもう限られていると思われますが?」

「言っとくが、あの坊主もなかなか手強いぜ?」


 カルーアはクロードを軽く見くびっているキングを嗤う。


「……それとも、あの坊や相手なら“止める手段なんて幾らでもある”って考えてるのかよ?」」


 クロードの方を通した。クロードはドリアに因縁がある。

 まだ……“隠している札”があるか、或いは“精神的に揺さぶれるチャンス”があるか。それを分かっていて、彼を通したというのか。


「人でなしがッ!!」


 カルーアとキングは互いに上着を脱ぎ捨てる。


「テメェらは人の心がねぇのかよ! 人殺しの道具どもがッ!!」


「……元より、魔法使いはそういうものだっただろう」


 キングは怒りを露わにするカルーアに冷たく諭す。


「人類は魔族に滅ぼされかけ、それ対抗するべく編み出したのが魔法だ。元より、魔法は抹殺の為に生み出された兵器だ」


「どうでもいいんだよ、テメェの御託は……! 私利私欲の為に、何もかもを壊すテメェらの行いが許せねぇって言ってるんだッ!!」


 エージェントとして、正義の味方としての立場の発言でもある。

 だが彼の怒りの本性は……魔法と言う存在を自分勝手な解釈で兵器と定義し、その理由で好き勝手に人殺しと破壊を繰り返す。その廃れ切った心への憎悪であった。



「なんで、あんなクソみたいな組織に魂を預けてやがる!!」


 人の心がないのか。

 カルーアは評議会に力を貸し、平気で人を殺し続けるその集団に問うのだ。まるで人形のように付き従うだけの道具のような連中に。



「単純だよ」

 キングは多くを語ろうとしない。

「生き残るために人類は魔法を生み出し、魔族を壊滅させた。ああ、全ては単純なことじゃないか」

 魔法という存在。

 あくまで兵器として、ただ語っているだけのように思えるその言葉。



「言っている意味が分からねぇぞ……このヤロウがァアアッ!!」


 故郷の仇。焼きはらわれた友たちの恨み。

 そして今も尚、その悪行を性懲りもなく実行しようとする悪魔の群れ。


 カルーアは拳を突き立て、最後のボディガードであるキングに勝負を挑んだ。



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 急いで証拠を抹消する。急いで全ての痕跡を消す。

 クロード・クロナードという魔法使いから全てを奪えればそれでいい。あの男から、希望の何もかもを奪い、絶望だけを残す。


「はっ。ゴミ共も最後には役立ってくれたかよ」


 全てはその一点の為。胸に残り続ける鬱憤を晴らすため、一生分の愉悦を得る為だけにドリアは奔走した。あらゆる手を使って、クロードをここまで追い込んできた。


「……あと少しだ」


 だが、そんな彼の人生に、ほんの一瞬の希望が見えようとしている。


「あと少しで、アイツはガラクタ同然だ」


 腹が立つ。無性に許せない。

 ドリアはその一心で走り続ける。温室育ちのドリアは運動神経も大して良いものではない。たった50m近くの距離を走るだけでも、咳き込むほど疲労を露わにする。


 しかし、ようやく艦首に到着する。

 

「……さぁ、バイバイだ」


 奥に仕掛けた魔術作動のスイッチ。最後の術式。

 それをすべて解除したその瞬間に……ディージー・タウンとその周辺は、火の海となって消えてなくなる。



「俺に恥をかかせたのが“お前”が悪いんだ……!!」


 ドリアは手を伸ばしながら進む。最後のスイッチへ近づいていく。


 術式の起動へ。この街の破壊へ。

 野望の成就が、ここに果たされようとしている。



「消えろッ……クズ共ッ!」

「クズはっ……!」


 だが、そのあと一歩。絶対に許しはしない。


「お前だろうがァアアーーッ!!」


 飛び掛かる。

 クロードは、走ったままの勢いで……ドリアに飛び掛かった。

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