73時限目「陰謀打破【マジシャンズ・ホープ】(中編)」


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「一つ気になったんですが」


 箱舟アークへと向かう最中。走りながらクロードが問う。


「ん?」

「評議会って政府のトップという事もあって、潜入捜査はかなりのリスクがあったと思うんです」


 評議会には嫌な噂こそあれど、真実であるとは限らなかった。

 仮に真実であったとしても、その事実を圧力で抹消する連中だ。政府のトップである組織の内部に潜入し、情報を集めるというのは危険な行為であったと思う。


 カルーア、そしてその部下の数名の決死の潜入調査により、ドリアと評議会の裏を掴むことに成功した。


「妹がお世話になってると聞いてます……ここまでしてくれたのも、妹のためですか?」


 カルーアは非常に面倒見が強く、軽そうな雰囲気に見えながら正義感の強い男だと聞かされている。こうして懸命に活動してくれたのも、部下であるノアールを想っての事だったのだろうか。


「それもある」


 カルーアはそれを否定しなかった。


「……だがそれ以上に、俺も評議会に用があったんだ」

「といいますと」


 評議会にリスクを冒してまで潜入したのは他にも理由があるという。しかもそれは、カルーア本人の私用だ。


「俺は元々、王都の出身じゃないんだ。王都から少し離れた田舎村の出身でさ……俺が幼い頃に村は滅んだんだ。“この街と似たような理由でさ”」

「……ッ!!」


 クロードは思わず言葉を飲み込む。


「評議会は研究用の私有地を増やすために、あってもなくても同じだっていう理由で、俺達の村を燃やしたのさ。住民諸共な……俺と家族は村の外にいたから無事だったけど、学校も友達も、全員焼き尽くされた。火事の原因は、魔物のせいと大ホラ吹いてな」


 住民の主張こそ幾つもあった。だが、評議会はその発言を圧力で揉み消した。


そして誰かが下手な発言をするようなら、その発言者を裏で断殺した。気が付けば村の事について話す者はいなくなり、真実は闇の中に放り込まれたという。


「俺達は王都に移り込んで、村の住民であることを隠して生活を続けた……だけど、俺はどうしても許せなかった。世界を左右する研究組織が、政府のトップだからと好き勝手やりまくる、その傲慢が」


 何をしてもいいのか。否、そんなわけがない。

 評議会のメンバー全員が私利私欲で動いているとは限らない。中には本当に、世界の未来を考えて研究範囲を広げようとしている輩もいるだろう。


 だが、だからといって、傲慢のままに人の命を奪っていいはずがない。世界の未来を考える組織が人の未来を奪うだなんて間違っている。


 それが、カルーアの主張だった。


「だから、俺は王都学園で成績を残し、エージェントになれたんだ。そこでノアールとも知りあい、奴らを追い続けた……そして、今、評議会の闇の一端を掴むことが出来た」


 同じく、評議会の連中に人生を狂わされたノアール。彼女の協力もあり、ついにここまで追い詰めた。ノアールの追いかける相手は評議会のメンバーではない人物であるが、関係者であることには違いない。

 

 この一件を片付けることが出来れば、今後評議会の裏について、王都側が表明してくれるかもしれない。以前のように沢山の命が奪われずに済む。


「まぁ、要は復讐さ。ヒーローらしくないカッコ悪い理由だよ」

「……それを言ったら、僕だって同じです」


 クロードは彼を皮下しなかった。皮下するのではなく、自身も同じであると告げた。


「いいや、お前は違うだろ。お前はただ、大切なものを護るために戦ってるんだ。胸を張れ」

「……だったら、カルーアさんも同じですね。世界の為に、こうして体を張って戦って……れっきとした、ヒーローです」

「はははっ!」


 アークの入り口が見えてきた。いつもは係員などが改札にいるのだが、現在は評議会によって占領されているため姿を見せていない。待っているのは、評議会に雇われた見張りの警備員数名だ。


「君はああ言えばこう言う奴だってノアールから聞いたよ。最初に会った頃は大人しいイメージだったから、まさかと思ったけどさ……その通りだな」


 警備員をなぎ倒し、アークの内部へ。


 先へ進む。

 まだドリア達が来ていないかもしれないのなら都合が良い。先回りをし、爆弾を起動させるためのスイッチを解除する。そうすれば、この村から危機が去るというわけだ。



「……ッ! クロード、止まれ!」


 だが、そう都合よくはいかないようだ。



「___申し訳ございませんが」


 通路の先に、スーツ姿の男が一人。

 帽子をとると、髪の毛をワックスでオールバックにまとめた几帳面な男。他二人のボディガードと違って、とても几帳面で紳士的な対応の男が一人。



「ここから先には行かせません」


 仕事を全うする。

 最後の番人が、二人の前に立ちはだかった。


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 人間相手。模擬戦こそしたことはあれど、本気の殺生とまでは行ったことはなかった。


 ブルーナは不意に毒を吸い、窮地に追いやられた。


 ___しかし、白馬の王子様というのは現れるものだ。


「……ジーン」

 胸を押さえ、地に足をつけながらもブルーナは見上げる。

「起きた、ようだな」

 相棒の目覚め。恩人の復活にブルーナは思わず笑みを零す。



「すまなかったね。数日も君に仕事を押し付けて」


 振り返ってすぐの再会の言葉は謝罪だった。

 ブルーナにはいろいろなことを気負いさせてしまった。上司的立場でもある彼は頭を下げていた。



「あらあら、随分とお目覚めが早い事ね。いいのかしら? あれだけ忙しかったんだから、もう少し眠っても良かったのよ?」


 クインザは笑いながら指先を向ける。

 

「貴方は永遠にお休みを頂いてなさいな!!」


 紫色のウイルス弾。

 

 “以前と違い、気を失わせる程度では済まさない”。

 あたればアカサと同様に数時間で死に至る。目覚めてすぐのジーンを再び眠りにつかせる。


 最早遠慮もない。殺意の籠ったエネルギー弾が、ジーンの背中目掛けて飛んできた。

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