69時限目「増援【シスター・フレンド】」


 三対一、これならば勝機はあるかもしれない。

 マティーニ、ソルダ、そして戦いの匂いを嗅ぎつけたゴォー・リャン。学園の問題児三人衆による猛反撃が今___


「___なんだよ、その程度かよガキ共」

「くぅううう……!!!」



 “始まっていなかった”。



「はぁ、はぁ……ッ!」

 戦闘においてはスペシャリストであるゴォー・リャンは荒い息を吐いている。

「「そんな、馬鹿なァ……!!」」

 残り二人。苦戦する彼の姿を前に、膝を脚につけるばかりだ。


「トロすぎるぜ? そんなんで俺が捕まえられるかよ?」

 

 相手は“想像以上のスピード”を保持していた。

 ジャングルの中を猿のように軽快に移動し、相手を翻弄する。数多くの優等生狩りを行ってきたゴォー・リャンの実戦経験は数えきれないとされている。だが、相手はそれ以上の“経験”がある。


 評議会の裏で暗躍。それだけのトップシークレットの座で活動する連中だ。学生程度のキャリアではどうにもならない。



「まぁ、幾ら三対一と言っても」

 鼻をほじりくり回しながらサジャックはゴォー・リャンの真後ろを見る。

「残りが役立たずじゃ、意味ないよなぁ~?」

 小馬鹿にするような笑みを浮かべるサジャックの視線の先。



「はぁー、はぁー……ッ!!! ちきしょぉおお……」

「ぜぇー、ぜぇーーーッ……!! 言われてるぞ、ソルダ君」

「お前もじゃい!!」

 

 今にも死にそうな表情を浮かべたソルダとマティーニの二人。


 そうだ、三対一というアドバンテージを利用すれば、幾らスピードや戦闘経験に差があろうとも、打破する可能性はある……かもしれなかった。



「ソ、ソルダ君。キミさ、どうして魔法を撃たずに逃げ回っているワケ……?」

「バカヤロー……俺の魔術は炎なんだぜ……んなもん、森で放ってみろ。あっという間に火の海だろうが……そういうお前も、逃げ回ってばかりだろうに……!」

「隙を探してるんだよ……! ゴォー・リャン君が体を張って囮を買っているんだ。だから、しっかりと様子を見て、」

「いや、買ってないだろ。アレ、たぶん。好き勝手暴れてるだけだぞ」

「僕の能力はいざという時の切り札だとも。一撃必殺だ! 何があっても外すわけには、」



 こんなにも長い口喧嘩。そして足を引っ張り合う。

 三対一という大きなアドバンテージがあるのにも関わらず苦戦している理由……それはもしかしなくても、この二人が役に立っていないという事実が多い。



(だろうよ。あの不良のガキ。見た目の割には変に律儀な野郎だ。撃てるわけがねぇ)


 山火事を避けるためソルダは炎を撃たない。おびき寄せる場所を完全に間違えたというわけだ。しかし、この周辺で伏兵を忍ばせるに丁度いい場所はココしかない。仕方ないと言えばここまでだが。


(……市長のガキ。あっちはビビッてやがるぜ)


 一番の問題はマティーニの方だ。彼は戦闘慣れしていない。それゆえに単純にビビっている。


「お前も災難だな。こんな役立たずに言いくるめられて囮に使われてよ」

 殺す相手が愉快かつ不憫に思えたこともあるだろうか。サジャックはただ一人で戦闘に参加しているゴォー・リャンを笑い続けていた。


「……何を言ってやがるんだ?」

 しかし、ゴォー・リャンは苛立たない。

「“俺は強い奴と戦えるからここに来たんだぜ”? アイツラのことなんぞ、知った事かよ」

 元より、何も気にしていない。

 彼にとって、強者との戦いという地点で損得も何も考えていない。むしろ得、その地点でご褒美が貰えているようなものだとゴォー・リャンは笑う。



「そらァッ! とっとと、続きを始めようぜぇえッ!!」


 ゴォー・リャンはカギヅメを立てて、再び飛び込んでくる。



「死にたがりがッ!」

 サジャックもまた愉快に思えた。そんなに死にたければ、あっさり死ねばいい、と。


 ……楽しそうに振舞っているが、体の限界が近いことが伺える。戦力に差があるのもゴォー・リャンは分かり切っているが、その圧倒的な差をも娯楽として楽しんでいる。


 楽しいまま死ねるのなら本能だろう。サジャックは再び、両腕に紫色の魔力を集結させ、それを真正面から飛び込んでくるゴォー・リャンに放とうとした。



「……ッ!?」


 しかし、エネルギーの集結。最早、相手に対して警戒する必要もないと気を抜いてリラックスをしている最中。一瞬、目の前の三人から意識を外した瞬間の事だった。



「おいおい___」



 “気配”を感じる。

 




「もう一人、いやがったか!?」


 “真後ろから別の殺意を感じ取った”。

 サジャックは攻撃を中断し、即座にその場から撤退する。



「……っ!」

 標的を失い、虚空に飛び込むゴォー・リャン。

「____。」

 その瞬間、一つの人影とすれ違う。

 小柄。大きなポニーテールが尻尾のように荒れ狂う。エージェントの制服に身を包む少女がゴォー・リャンとすれ違う。


 急停止。

 二人は、真上に逃げたサジャックへと視線を向ける。



「き、君はっ……!」

 ソルダは声を上げる。

 知っている。ソルダは突如現れた“援軍”の事を知っている。


「はっ。ここにいるってことは何かしら嗅ぎつけたかよ」

 サジャックは二人を見下ろしながら、舌打ちをする。


「“エージェントのガキ”」


 子供がそれほど嫌いなのか。或いは、目の前の子供達が“特別嫌い”なのか。今までと違って数倍不機嫌な表情で見下ろしている。




「……サジャック。そして、それを含めた殺し屋同盟……“モールジョーカー・ファミリー”」


 エージェントの証をかざし、少女は告げる。



「お前達を、拘束する」


 援軍のその正体は____

 王都のエージェントが一人、ノアール・クロナードであった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 公園で、アカサの緊急治療が行われる。

 騎士装束の青年はアカサの肌を晒すと、そっと、魔力の籠った両腕を彼女の胸元へと近づける。



「……カルーアさん、どうしてここに?」

 目を逸らし、邪魔が入らぬよう見張りをしているクロードがカルーアへ問う。

 あまりにも突然の登場だった故に驚いている。この場所、このタイミングで現れた理由を知りたかった。


「捕まえに来たんだよ。極悪人達をな……だがその前に、ちょっとだけ世話になった後輩達に恩を返さないとな」


 親指を突き立て、カルーアは告げる。

 “味方”である、と。


「……もしかして、あのアーズレーターの映像は」

「ああ、俺達が死に物狂いで評議会を探ってようやく手に入れたモノさ……回収された映像、そしてコッソリ撮られていた映像。ありとあらゆる手を使って集めた証拠品だよ」


 学園でのあの瞬間をヒッソリと撮影している者がいたのだ。しかし、その映像は圧力によって回収されてしまったようだが。


 だが、その傲慢をよしとしない連中も複数いたようである。彼の悪事を収めた証拠映像を隠し持っている連中もその組織の中にいたのだ。


 __カルーアは捕らえに来たのだ。

 評議会。この世界の未来の為と都合の良い理由をつけて、己の愉悦のみで多くの命を奪おうとする、鬼畜生以下の最低最悪の人間を。


「……妹も頑張ってたんだぜ。兄貴のお前を助けるためにな」

「ノアールが、」



 危機に晒してまで証拠品を集めたエージェント達。更なる質問を重ねようとしたその瞬間のことだった。




「__________ァァァッッ!?!?」


 “言葉とは思えないような悲鳴”が聞こえてくる。


「!!」


 その悲鳴、絶叫は……“アカサ”のものだった。

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