58時限目「終業式【プロジェクト一直線】」
数日後、終業式はやってきた。
学園長の長すぎる話。当然、アクビや居眠りの生徒が続出する羽目になる。あとは夏休みでの注意や警告。夏休み中でも学園は空いているので好きに遊びへおいでとお知らせ。
二時間ほどの行事も終わり、生徒達は自由の身となる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「さぁ、諸君! 夏休みだ! 今日から私達は自由の身となったのだ!」
ロシェロのガレージハウス。夏休みとなってロシェロはいつも以上にテンションが高い。目をキラキラさせ、近くの小さな台に足を乗せポーズをとっている。
(……アンタはほぼ毎日が休日のようなもんだろうに)
アカサは心の奥底でそう思う。
参加が必要な授業以外はほぼ欠席。家で眠っては研究の繰り返しでほとんど教室には顔を出さない。授業に出る必要がないほどの天才であるロシェロはもしかしなくても、テストには合格していた。
これだけズボラでグータラな女の子がどうしてこうもハイスペックなのだろうか。そのステータスを少しでも分けてほしいものだと愚痴も吐きたくなる。
「これより私達のサークル活動はグローバルになる事だろう! 義務教育という鎖から解き放たれた私達は、プロジェクト・サティスファクションをより完成へと近づけるのである!」
夏休みも当然、サークル活動は前進的に行っていくとロシェロは宣言した。
遠征に遺跡探検。骨董品売り場訪問など、パーツ集めは行っていく。軌道の為に必要な魔法石などの収集もだ。
「しかし、この活動を妨害する輩も当然現れるだろう……屈するな。君達は私の優秀な助手達だ。そんな障害に負けることはない」
もしかしなくても、それはモカニの事を言っている。
モカニ側も当然、ロシェロのサークル活動が活発になることを予測しているだろう。向こう側も、何かしらの計画を立てているには違いない。
「最後に確認だが、諸君らは夏休みにそれといった用事はないのかね」
サークル活動に参加できるかどうか。念のためにロシェロが確認を入れる。
「魔物退治など、街からの仕事がなければ、いつでも参加は出来る」
ブルーナは緊急の仕事さえなければいつでも参加できると報告。
「まぁ、私も路上ライブさえさせてくれる時間があれば、いつでもフリーですよ~」
愛機のギターを弾く時間さえあれば、いつでも顔を出すとアカサも口にする。尤も、それ以外の時間は暇で退屈なので絶対に顔を出すようだが。
「はいはい~! 俺達ずっと暇でーす!!」
ソルダは勿論の事、舎弟達(補習を受けていない生徒のみ)もピースサインでアピールをする。いつでも野暮用と荷物持ちは引き受けると宣言した。
「僕は、」
参加はいつでもできる。クロードが告げようとした瞬間だった。
「……ん?」
突如、手荷物から“アーズレーター”を手に取る。
誰かから通話があったようだ。真ん中に飾られた魔法石が光り続けている。
「あ、すいません。ちょっと、出てきます」
通話の相手が画面に表示。それを確認するや否や、クロードは慌てて部屋を飛び出した。
「……むむむ?」
ロシェロは当然、誰からの電話なのかと気になっている。
彼女だけじゃない。
その場にいた全員が、いつもにはない焦りを見せていたクロードのリアクションに興味の反応を示していた。
“なので、コッソリついていく”。
見つからないように。慌てて外に出たクロードを追いかける。腐り始めている木製の階段であろうと、誰一人音が出ないように慎重になりながら、静かに入り口までついていく。
ドアをそーーっと開く。
アーズレーターを片手、誰かと通話をしているクロードの後姿が見える。
「うん、うんうん……え、それ、ホント……?」
クロードの声はかろうじて聞こえるが、通話相手の声は聞こえない。結構な位置に離れている。
聞こうとするために接近したいが、これ以上はレッドゾーンだ。踏みこめば間違いなくバレる。そんでもって、プライバシーの侵害だと風の魔術をぶっ放してくるに違いない。
なのでここは妥協する。ギリギリのラインでクロードを監視し続けた。
「え、明日!? ……うん、今のところは空いてるけど。いきなりすぎない?」
明日。
どうやら、クロードは明日、何か予定を入れたようである。
「わかった。待ってる。駅でいいよね?」
見た感じ、待ち合わせの約束をしているようである。
それを終えると、アーズレーターを切り、大きく両手を天に上げ始めた。
「撤退だ」
ロシェロは指示を送る。
全員急いで元の所定位置へと撤退を言い渡す。クロードが背後の気配に気づく前に、全員はストーカー紛いの行動を即座に終了。彼が戻ってきたころには、何気ない話で盛り上がっているという創られたシチュエーションを広げておくこととした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
後日。学園寮。
夏休み一日目。時刻は昼間手前の午前11時。
「よし」
クロードは私服姿で寮を出ていった。
「……こちらソルダ。ただいま、部屋を出ました。どうぞ」
アーズレーターをとある通信装置みたいに見立て、誰かに指示を送る。もしかしなくても、男子寮には許可を貰えるまでは足を踏み入れられない女性陣に対してだろう。
街へと向かうクロード。それに合わせ、ソルダ達も寮を出ると、別の場所で待機していた私服姿の女性陣。アカサ、ロシェロ、ブルーナの三人と合流する。
いつもと比べ、少しテンションが高いように見えるクロードの背中を追う。
無意識なのか分からないが、足が微かにステップを踏んでいるように見える。ルンルン気分だ。何かワクワクしているのは間違いない。
先日、通話を終えたクロードは部屋に戻ってくると、『この日は出られない』と今日この時間を提示した。
一体、彼があそこまでワクワクするイベントは何だというのだろうか。誰と待ち合わせをしているのだろうか。一同も何処かワクワクしながら、駅へと向かうクロードの背中を追う。
昼十二時。
駅前に到着したクロードは途中で購入した、紙パックのオレンジジュースを飲んでいる。ストローから口を離し、飲み終えた紙パックを近くのごみ箱に捨てていた。
彼が駅へ到着してから三十分近くが経過した。
「……そろそろ、列車が来る時間だな」
駅の時刻表を確認するロシェロ。もうじきしたら、列車がやってくるのだという。
……時刻表通り、列車がやってくる。
クロードは列車を確認すると、身なりを整え始めた。いつも身に着けているストールもズレていないかを、近くのガラス窓を鏡代わりに見立てて確認し、ふっと深呼吸をしている。
列車から、外からの客が数名街へ足を踏み入れる。
観光客を乗せた列車だったようだ。夏休みが始まり、遠くから家族連れで遊びにくる者もいれば、一人で立ち寄った旅人もいる。
クロードは、その観光客の群れの中、誰かを探している。
「おおっ! 見つけた見つけた!」
そして、群れの中から、手を小さく振りながら現れる。
「よぉ、クロード! 元気そうで、何より!」
長い髪を後ろで縛り纏めた、クロードと同い年くらいの少年。都会らしいファッションで飾った男が、愉快な笑みを浮かべながらクロードの元へ寄っていく。
「……お前こそ、元気そうでよかった」
クロードはいつもと変わらない静かな対応のまま、その客人を出迎える。
「全くよォ。久々の再会だってのに、ローテンションなこって。そのストール、相変わらず祖母ちゃんの真似っ子でクール演じてるのかよ?」
男は大笑いしながら、クロードの肩を掴んでくる。
「……お前のテンションが高いだけだよ」
図々しく距離を詰められているが、クロードは特に不快な顔は浮かべていない。
むしろ嬉しく思っている。その空気を懐かしむような、そんな表情だった。
「良かったよ。久々にお前の顔が見れて。よくやれてるか」
「まぁ、ボチボチ」
男二人、水入らずで会話が盛り上がっている。
「んじゃあよ、街の観光でもしながら話でもしようじゃねぇか」
これから、会話がてら街の観光へと回るようだ。
クロードもそれに賛同し、一歩前へと足を踏み出そうとした。
「……なぁ、その前に質問いいか?」
観光に入る前、男はふとクロードに問う。
「“さっきからお前についてきて、じっと見てるストーカーみたいな方々”は、お前のお友達?」
「____ッ!!!」
瞬間、クロードは顔を真っ赤にして振り返る。
クロードの視線の先には、全力疾走でその場から逃げ出そうとするアカサ達の後姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます