56時限目「サークルの謎【ライバルの二人】(前編)」


 数名が落とし穴に落ちてから数分後、クロード達は早期の対処により帰還。


 その数分後には、ブルーナ達も戻ってきた。

 それほど、広くない遺跡だったようである。密室からの脱出後も、さほど時間がかかることもなく戻ってくることが出来たようだ。




 その後は遺跡の探索を中断し、打撲や骨折などの負傷をした数名を治療するため、海へ戻ることに。ビーチの医療施設へと向かうことになった。




 ___それから、数時間後。夜22時。


「それじゃあ、今日はゆっくりくつろいでくれたまえ!」


 ロックウォーカー家が用意した客船。プール付きの甲板に集う面々。用意された特設ステージではジュースの入ったグラスを片手に乾杯の音頭を上げるジーンの姿。


 優勝チームであるシャドウサークルの面々は一斉に乾杯。用意されたディナーショーを楽しむことにする。


「ちょ、うまっ……なにこれ、こんな美味いモノがこの世にあったのかよ……!」


 アカサは用意されたメニューを次々と皿へ放り込んでは口の中に突っ込んでいく。優勝賞品、その自由はチームに与えられているとはいえ、このような場所で礼儀もクソもない欲望垂れ流しの食べ方には女性らしい品性もない。


「ソルダさん! これ美味すぎますよ!」

「くぅー!! 俺達、全問不正解だったのに、招待して貰えるなんて嬉しすぎるゼッ……!」


 アカサを取り囲むようにメニューを次々と頬張るのは、ソルダの舎弟達である。

 彼らの言う通り、舎弟チームは最初の●×クイズの地点で全問不正解の堂々最下位で脱落だったのである。それにもかかわらず、こんな高級メニューにありつけられることに感動を覚えている。


「良かったのかよジーン。俺のツレまで」

「彼らもシャドウサークルの優秀な助手達なのだろう? 仲間外れはかわいそうだからね」


 シャドウサークルの面々を元より誘うつもりだった。ジーンの発言からして、クイズ関係なしに彼らをこの客船に招待するつもりだったようだ。


 ここ最近の彼女達の活動が、意外にも街に貢献していたという事実。迷惑集団のようなイメージしかなかったサークルではあったが、意外な形で評価されていた。


喧嘩集団というイメージしかなかったソルダ達もまた、そのサークルの一員。彼等の頑張りが評価されて、このような結果に転がった。不良一同は、喜びのあまり感動せざるをえなかった。


「それに……私のチームの面々もいるしね」


 ジーンの目線の先。


 そこには、ジーンのチームであったマティーニ達の姿もあった。

 用意されたシャンパンを瓶で飲み干すエキーラ。アカサ同様に沢山のメニューを分け皿に入れつつも礼儀よくいただいているマティーニ。食事を終えたら一戦やるかどうかと、辺りに喧嘩を吹きまくっているゴォー・リャン。


 ……この風景、最早ホームパーティのようなものだ。

 少し早めの学園祭。ジーンの友人たちによる身内のディナーショーである。



 今日は船で一泊すると告げられている。寮暮らしの面々は勿論、実家暮らしのメンツも既に家族から許可を得ている。全員の体力が尽きるまで、この豪華なパーティータイムを楽しむことにする。



「はっはっは。若い者は元気が良くていいな」

 パーティの片隅。グラスを手に呑気な笑いを浮かべるロシェロの姿がある。

「いや、先輩も僕と一年しか違わないじゃないですか」

 まるで老婆のようなセリフを吐くロシェロに呆れながらクロードが返す。


「いやぁ、そうでもないよ。最近、日がたつごとに体は眠気で重くなるし、身長も縮むしで色々と……」

「寝てばかりいないで運動してください」


 それは間違いなく私生活が原因だとクロードは告げた。

 身長が伸びない。どんどん体力が減っていく。それは偏りすぎた食生活に睡眠ばかりの毎日のせいに決まっている。少しでも改良していけばマシになるものを。


「そういえば、モカニ先輩は、」

「やれやれ。美少女が前にいるのに他の女の話かね。クロナード君」

「アンタは僕の彼女か何かですか」


 まるで嫉妬深いガールフレンドのような言い分。何より自分で美少女と言い張るそのナルシストぶり。冗談だと分かってはいるが、それを平気で口に出来る肝の深さを凄いとも思えてしまう。


「あれくらいの骨折なら、ロックウォーカー家の医療技術をもってすればあっという間だよ。もうピンピンしてるし、何なら散歩にも行ってたようだ」


 どうやら、モカニの傷はもう心配しなくてもいいようだ。

 クロードは何処かホッとする。魔術を利用した医療技術、その高性能さには感服するものがある。


「……全く、一か月くらいベッド生活でも良かったというのに。お見舞いで挑発を続けるのが楽しみだったんだぞ。こちとら」

「クズか、アンタは」

「ハッハッハ、冗談だ」


 本当に冗談なのかどうか。クロードはまたも呆れ返る。


「では、私はこれにて失礼しよう。今日は動き回ったから疲れて疲れて……ふぁああ」


 グラスをクロードに渡す。“なおしておいてくれ”という遠回しな命令だろう。グラスを渡したロシェロは大きなアクビを人前でかます。


「眠いんですか?」

「あぁ。もう限界だ。フカフカのベッドが恋しいぞ……」


 微かにだが目にクマがある。

 あれだけ眠っているというのに今もなお睡眠不足。贅沢な身体だと本来なら思うだろう。


「……大丈夫ですか?」


 ふと、クロードは問う。

 ___何故かはわからない。不意な心配だったのだろうか。


「ああ、大丈夫だとも?」


 ロシェロは首をかしげなら、返答する。


「……どうした、急に?」

「い、いえ、何も」


 クロードも戸惑いなら言葉を返す。

 眠気も限界なのか、大きく口を開きながらロシェロは部屋へと戻っていく。


「……本当に、大丈夫、なのか?」


 それに対し、ただただクロードも首をかしげながら見送るばかりだった。


「そういえば」

 パーティ会場に一度戻り、クロードはグラスを戻す。


「モカニ先輩がいないな……」


 ジーンが言うに、チームメンバー全員……今日関わった学園の身内は船に招待していると言っていた。

 だとすれば、モカニもこの船の何処かにいるはずである。クロードは会場を離れ、船のあちこちを探し回ってみる。


 離れた場所、すなわち裏側だ。裏側のバルコニーへクロードは足を踏み入れる。



「あっ」


 すると、見慣れた後姿を見つける。

 どのような場所であろうと。制服姿であろうと水着姿であろうとマントを羽織る……間違いなくモカニである。


「……ああ、クロード君か」


 モカニも気が付いたのか、グラス片手のまま振り返る。


「いいんですか? 顔出さなくて」

「ああいうゴチャゴチャしたのは得意じゃない。悪く言えばコミュ障ってやつよ」


 わざわざ悪く言わなくてもいいのに。クロードは心の中で微かにそう思う。


「君こそいいの? それとも、私と同じ口?」

「あはははは……」


 慣れはしたが、相変わらず空気に戸惑いを覚えるのは相変わらずだと自覚している。気まずい表情で笑顔だけ返した。


「……私に用事がある、って顔ね」


 モカニは振り返る。





「ロシェロ先輩の事です」


 疑問。を遠回しにすることもなく真っ向から伝える。



「昔はすごく仲が良いって聞きました。唯一の友達だったって言い張るくらいに……仲違いをしている割には、互いを心配してるというか……心の底から、嫌っているようには見えなかったというか……」


 遺跡での出来事。

 ロシェロとモカニ。喧嘩をしている最中でも、二人は緊急事態時には手を組んだ。怪我をしていても嘲笑おうとはしなかった。むしろ心配していた。


 心の底から嫌悪しているようには見えなかった。二人の間に、微かな友情を感じた。


「どうして、喧嘩をしているのかなって、思ったというか……」

「言ったところで」


 モカニは含み笑いをしながら返事をする。



「君達は信用しない。尤も、聞いたところで解決できるわけがないわ」


 

 呆れているのか。それとも、無駄なことだと笑っているのか。

 このタイミング。不自然な表情に不穏な空気が渦巻く。



「……言えないんですか?」

「そういうわけじゃないけど」


 一歩ずつ、クロードの正面へモカニが近づく。


「君は、」

 そして告げる。





「ロシェロが“悪魔の研究者”になろうとしているのだとしたら、どうする?」

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