55時限目「真の目的【粉砂の遺跡】(その2)」
「……てなわけで、舎弟の奴らは全員部屋で熟睡中だよ」
「見た目のわりにタフなのあまりいないですよねぇ。ソルダ先輩のところ」
ロシェロが作り上げた遺跡探検グッズ・遺跡探検君28号を利用しつつ、未開拓の遺跡を一歩ずつ慎重に進んでいく。
ランプは以後、予備も考えて四つ保持すること。ランプによる明かりと遺跡探検君のソナーにより発見された罠は一個ずつ慎重に解除していく。
脳を撃ち抜くボウガン。落とし穴。落石などなど、侵入者を殺しにかかってくる古典的なトラップは幾らでもある。各自、引っかからないよう距離を詰める。
「……それにしても、水着姿のまま遺跡に入って大丈夫なんでしょうか」
トラップに備えて完全防具にするはずが、現在はさっきの水着姿のまま。こんな軽装で入り込んでも大丈夫なのだろうかとクロードは思う。
「罠に引っかからなければ問題ない。こんな蒸し暑い遺跡の中をいつもの格好で行くのは拷問が過ぎる」
ロシェロの言う通り、遺跡の中は異様に蒸し暑い。
水着姿でもなければ汗で制服が濡れる。水分補給のために氷を大量に入れた水筒も用意している。そちらのほう面での準備は万端だ。
「……」
一人、ブルーナがロシェロを見つめ続けている。
「なんだね、アイオナス君。君も水着姿でウロつくのは不安かね」
「いや、別に」
ロシェロに視線を感づかれた。質問にはいつも通りの冷ややかな返事だけをするブルーナ。
視線を戻すロシェロ。しかし、それに対し、ブルーナはまたも視線を戻す。
言いたいことがあるのだろうか。しかし、ブルーナは一向にそれを言おうとしない。いつにも増してロシェロを見つめ続ける彼女の姿が気になってしまう。
「……?」
気のせいだろうか、とクロードは思う。
保護者も同様の不安な視線ではなく……“別の不安”を視線に浮かべているように見えるのは。
(ここなら、誰もいない。目撃者はゼロだ)
シャドウサークルに面白半分でついてきたというマティーニ。
(隙を見て、クロード・クロナードに痛い目を見てもらう絶好の機会だ……!)
ここは未開の地。隙を見て攻撃をできるチャンスは幾らでもある。
どんな攻撃と嫌がらせを仕掛けてやろうか。天然物の罠が多いこの地で、マティーニは策をめぐらせていた。
「なぁ! まさか、未開の地のトラップがこんな安いモノばかりじゃないだろうな? 実は奥へ進むと、遺跡全体が爆発する仕掛けだったりとか、」
「あるわけないだろう。そんな物騒なことを楽しそうに語らないでくれ」
ゴォー・リャンは本当にスリル目当てだけでついてきたようである。
自分諸共ぶっ飛ぶようなトラップだけは勘弁願いたい。一人だけ温度差の違うゴォー・リャンの存在にマティーニは調子を狂わされそうだった。
「……そういえば、前から気になっていたんですが」
長く続く通路の中、クロードがロシェロに話しかける。
「遺跡探検をする理由って何なんです?」
ゴリアテの起動に必要である天然モノの魔法石は遺跡に限らなくともよい。魔物や野生動物から採取する素材に関しても、遺跡のみに生息している生き物なんて存在しない故にこちらも限らなくてよい。
「……もしや、古代人のミイラを探しているとか」
古代人のミイラ、なんてものはよく発見される。
ミイラも魔法石と同様に独特の魔力が込められている事がある。今も尚、発掘されたミイラは燃料として利用されたりなど、一種の動力源として扱われている。
遺跡のみに限定する形で発見できるものとなれば、古代人のミイラくらいしか思いつかない。
「ふむ。残念だが、ゴリアテは何故か、古代人のミイラの魔力では動かないのだよ」
だが、クロードの推測は違っていた。
どうやら古代人のミイラを動力源にして動かすことは叶わないらしい。
「……君はあのゴリアテの姿を見れば、気づくかもしれないが」
ロシェロが答え合わせを始める。
「アレはまだ、完全な姿ではないのだよ……だから、幾ら動力源を用意しても、完全な起動には至らない」
上半身だけの巨兵・ゴリアテ。
ロシェロの搔き集めたデータによれば、古代人の兵器であったという巨兵は“人間のように五体満足の人型をした兵器”がほとんどだった。
未完成品。ロシェロはそう語る。
「……あの巨兵のパーツが、こういう遺跡で見つかることが多いのだよ」
ロシェロが遺跡に立ち入る理由は、ゴリアテのパーツ探しが理由のようだ。
「既に発見された遺跡でも、そのパーツが発掘されていることが確認できた。先に発見されたパーツは評議会の根回しで学会に売り飛ばされているらしいがね」
発見されたパーツは秘密裏に王都へ運ばれているという。
「……完全な姿にならなくとも、元の姿に近づけば近づくほど、起動が確実なものになっていく。ここはまだ発見されていない遺跡……パーツの横取りはさせんよ」
遺跡の存在を誰にも知らせず、パーツを秘密裏に回収する。クロード達はその手伝いをさせられていたというワケである。
「そういうわけだ! さぁ、諸君、私に続いて、」
片手をあげ、気持ちも気合も入れなおそうとした___
「……!」
“その瞬間の事だった。
「そこかっ!!」
ロシェロが叫ぶ。
しかし、それはパーツらしきものを発見した喜びの声でもない。
ロシェロの“電撃を帯びた人差し指”。伸ばされた指には攻撃の意思。豆粒ほどの大きさにしても数千ボルトの電気ショック。
ロシェロは突然、まだ明かりの照らされていない暗闇へと電流を放ったのである。
「……挨拶もなしに電撃を放つ馬鹿がいる?」
暗闇の中、電流の放たれた方向から人影が現れる。
「ロシェロ」
マントに水着姿の少女。
そして、その前方には……“電流を受け止めた人形”の姿。丸焦げになりながらも、主人の盾となり続けている浮遊人形兵。
「“敵に対して攻撃をすることの何が悪いのかね”。先手必勝だよ」
突然の攻撃に対し、ロシェロは何の悪びれもせずに、その人影に話しかける。
ロシェロがここまで露骨に敵意を向ける人物なんて“一人しか思い当たらない”。
「モカニ、先輩……?」
モカニ・フランネルだ。
誰よりも先、遺跡に足を運んでいたモカニの存在に、クロードは目を点にする。
「ここはまだ未開拓の遺跡。学生身分が迂闊に足を運んでいい場所じゃないよ」
「そのセリフ、そのまま返させてもらうぞ」
ロシェロは即座に反撃をする。
「何故、貴様がここにいる」
「お偉いさんに仕事を任されてさ。ウチの学園の生徒が危ない事をしようとしているから、止めに行ってくれと……こんな野暮用、私らしくないっての」
呆れた声でモカニは答える。
「お偉いさんって、それは、」
「フン、こんな場所にそのような破廉恥な姿で出歩くとは、舐め腐っているにも程があるな」
モカニの言う人物の事を尋ねようとした矢先、相変わらずの毒舌攻撃が飛び交い始める。
((それをアンタが言うのか。アンタが))
ついさっきまで、合理的がどうとか言っていた本人が完全否定。これにはクロードとブルーナも呆れるしかなかった。
「……私達に引き返せ、と?」
「それ以外に何かある?」
火花が、飛び散り始める。
ロシェロとモカニ。どのような場所だろうと一切構わず喧嘩を始める天才二人……この遺跡もまた、一つの戦場となろうとしている。
「ま、待ってくださいって! 落ち着きましょうよ!」
ボロが出まくっている遺跡。こんなところで戦闘が始まったら“マズい”。
遺跡が崩れ、全員が纏めて生き埋めだなんて、ありそうだから困ったものだ。ソルダはその最悪の展開を避けるためにも、両手をあげて騒ぎ始める。
「皆仲良く行きましょうって! ラブアントピースの精神で、」
___カチッ。
一歩、ソルダが歩き出すと“音”が鳴る。
「……カチッ?」
不意に聞こえた音に、アカサは首をかしげる。
「……んっ?」
瞬間___
「「「「「……!?」」」」」
その場にいた全員の視界が”真っ暗“になる。
「あれ、これって……」
“ふわりと空を飛んでいるような気分”。
水着だなんて薄着の姿だから、“真下”から感じる風圧をダイレクトに感じる。
“落ちている”。
今、その場にいた数名が……“落とし穴”で遺跡の真下に落ちている。
「まぁた、この展開かよぉおおおッ!?」
誰もいなくなった遺跡の通路。穴に落ちたクロードの叫びがこだました。
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