43時限目「天才対決【ロシェロ VS モカニ】」
モカニ・フランネル。
あの少女は、アカサが言うには……シャドウ・サークルの元メンバーだという。
「あの子が!?」
不良生徒の一人が声を上げる。
「シャドウ・サークルには女の子が四人いると話を聞いたことがあって、そのうちの一人は何者なのか全く情報を得られなかったけど……アレが“四人目”か!!」
いつの日か聞いたことがある。
サークル・シャドウは元々四人組だったみたいな話を不良生徒達から。そのうちの一人は方向性の違いによりサークルを抜けたという話も。
「いつの間にか抜けたって聞いたけど、それって」
「そう、見ての通り」
アカサは二人を止めることなく眺め続けている。
「仲悪いんですわ。あの二人」
見慣れている。呆れた表情はそれを意味しているようだった。
「その減らず口しか吐けない子供じみた顔を今日こそ粉微塵にしてやるぞ! ロシェロォオッ!!」
モカニがロッドを振り回すと、目の前で白い魔方陣が二つ展開される。
「『出撃命令! 尖兵部隊全軍、攻撃開始ィッ!!』」
指示、を出すかのような異質な詠唱。
それに合わせ、魔方陣から次々と“兵隊”が飛び出してくる。
全長20cmほどの人形。顔もついていなければ衣服もつけられていない。マネキンのような薄気味悪い人形が、フォークのようなパルチザンを片手に進軍する。
その数およそ百近く。
顔のない人形兵が一斉にロシェロ目掛けて走り出す。
「うわぁあっ! 気持ち悪ッーー!?」
虫の大群と比べるとまだマシかもしれないが、やはり顔も衣服も来ていないマネキン人形がこう大量に並ぶと身の毛がよだつ。モカニの魔術を始めてみた不良生徒の数名が叫んでしまう。
「あれがモカニ先輩の魔法……人形とかにエネルギーを送り込んで己の意思の赴くままに動かせる能力。転移魔術は魔導書によるものだけどさ」
あの人形はモカニの手作りだそうだ。
数百近くのオートマタ。モカニの人形兵団。
「やれやれ、有象無象めが。薙ぎ払ってくれる」
ロシェロは右手を広げる。
瞬間、少女の体に電流が走る。数百ボルト、数千ボルト、次第にその電流は数万近くの電圧にまで跳ね上がっていく。
「沈むがいいっ」
右手から放たれる電流。
人形兵たちは無造作に放たれる電流を浴びるとパルチザンを手放し爆散していく。数百近くはいた人形兵はあっという間に殲滅されていく。
「あれだけの数の人形の操作。そして、同時に魔導書による転移魔術の発動。あれだけの処理はそこらの一般ピーポーじゃ出来ないわけなのよ……あれだけの作戦指揮、たった一人で行えるのは相当頭が回らないと無理」
アカサは現状を眺めながら、冷静に解説する。
「モカニ先輩はもう一人の天才。ロシェロ先輩に並ぶくらいの、ね」
自他ともに認めるもう一人の天才。
あのロシェロ・ホワイツビリーに並ぶとされる“頭の回る女”。
「むむっ?」
ロシェロの姿勢が微かに傾いた。
感覚がある。足に何かが絡みつく感覚が。
「……相も変わらず、卑劣な作戦だ」
足元に視線を向けると、その正体がそこにいる。
先ほどの槍兵達の二倍以上の大きさのマネキン人形。
武器一つ持っていない人形がモカニの両足を掴み、そのまま体の自由を奪おうと這い上がってくる。いつの間にか、伏兵を真後ろから転移していたのだ。
「卑劣も何もあるものか。戦いにおいて、それは言い訳でしかないわね。気づかない方が悪い……『進軍再開』」
再び指示を送ると、前方の魔方陣から槍兵達が再び現れる。
まだストックが残っていたようだ。自由の奪われたロシェロに向かって、モカニの人形兵達の進軍が開始される。
「ならば、こちらは正々堂々と洒落こもう」
またも、ロシェロの体に電流が走る。
発砲した電流とはまた比べ物にならない電圧だ。
「ほら、離せ」
数十万ボルト近くの電流が体に纏わりつく。
ロシェロの体に張り付いていた人形達はその高圧電流に対し思わず手を引き離してしまう。というよりも、厚すぎる電流のバリアに体が追いやられているのだ。
引きはがされた二体の人形は電流を纏ったまま宙を浮いている。
「そして、往け。叛逆の時だ」
電流を纏った人形は体が無造作に動いている。手首足首の関節がメチャクチャな曲がり方を起こし、球体となって体が押し付けられていく。
一種のサンダーボールと化した人形はロシェロの思うがままに発砲される。味方であるはずの槍兵達を薙ぎ払い、人形の持ち主であるモカニの方へと突進だ。
「……卑劣ではないが、酷な事」
モカニは己のすぐ目の前に巨大な魔方陣を展開。
「マッドよね、相変わらず」
次に現れるのは、縦全長3メートル近く。横2メートル。かなり大柄で太っちょなマネキン人形が現れ、彼女の身を守るように大きく手を開いた。
二体のサンダーボールが受け止められる。
槍兵達を一瞬で粉々にした出力の電流だ。それを二つ。受け止められている地点で、その人形の耐久力は相当なものと思われる。
「その程度で防げると思っているのかね!」
だが、受け止め切れはしない。
人形のお腹にヒビが入り始めている。人形の身を打ち破り、その防御すらも突破しようとサンダーボールの暴走は止まらない。
砕け散る。
お腹から崩壊した人形。手首足首を飛び散らし、サンダーボールは真後ろにいるはずのモカニ目掛けて飛んで行った。
「……むむむっ」
___しかし、モカニはそこにいない。
人形の後ろに隠れている隙、何処かへ姿を消したようだ。
「何処へ隠れた」
「隠れてなんかいない」
声が聞こえるのは上から。
ロッドを片手に構えるモカニが真上からロシェロ目掛けて飛んでくる。スカートの中身が見えようと構いはしないように大胆に。
「人を小馬鹿にしすぎる癖と己惚れすぎる癖。お前の悪い癖だよ」
ロッドに手を伸ばすと、引き抜くような動作を取る。
鞘だ。ロッドは魔法を発動する為のアイテムであると同時、接近戦を行うための武器でもあった。魔法石が埋め込まれた反対の位置には、巨大な針が現れる。
「自分から射程圏内に来るとはな!」
傘を広げ、ロシェロは防御行動に入る。
いつの日かクロードの体験した電磁バリアだ。あらゆる術を分解し、そして近づき触れた者は感電する。究極のバリアである。
「……お前の自信は相変わらずだな」
傘越しにモカニが語り掛ける。
「何が言いたいのだ」
ロシェロも傘越しにその語りに答える。
「このロッドは新調したものでね。針には電気を通さないよう特別な鋼材をしようしている。私のマントも電気を通さないよう特別な衣類を用意した……これくらいの電磁バリアなら、容易く突破できる」
高出力の電流攻撃を行った後だ。帯電の隙も与える暇もなく、出力の低くなったこの瞬間をわざわざ狙って攻撃をしかけに来た。
モカニの言う通り、電磁バリアはいつにも増して出力が低い。
ロッドの針は次第にバリアを突き抜け、傘を少しずつ突き破っていく。
「私の勝ち。これで引き分けね。ロシェロ」
「くっ……!」
勝敗が決しようとしている。
誰もが、その勝負の行く末を夢中になって見守っていた。
「コラァーーーッ!! 許可もなく魔法で喧嘩をしている大馬鹿者はどこだぁアアー!!」
途端、叫び声。
教師の説教が迫っている。
「「……っ!!」」
モカニとロシェロ。互いに黙り込む。
モカニは針を引っ込め、ロシェロは傘を閉じ、電磁バリアを解除した。
気まずそうに距離を取る。体に付いた砂ぼこりを掃い、互いを見つめ合う。
「……今日は引き分けだ。うむ」
「負け惜しみを言うな。私が勝ってた」
「いやいや、トドメを刺せてないからセーフだよ、セーフ」
「その発言が負けを認めている事に気づかないのか、このチビが」
口喧嘩が始まった。子供っぽい口喧嘩が。
「……まぁいい。今日はこのくらいにする。さらばだっ!」
ロシェロは全速力でその場から立ち去っていく。
「そういう事にしといてやる……教員め。嫌なタイミング」
モカニも全速力で旧校舎の中へと逃げる。
「ま、待っておくれよ、モカニちゃん!」
髪の毛で扇子を持ちながら応援決め込んでいたエキーラもモカニを追いかけて旧校舎の中へと隠れていった。
「よーし、諸君」
アカサはその場でダッシュの準備。
「……特別講習、最悪の場合、退学を免れたくなかったら各自撤退……解散!!」
二人に合わせるよう、その場からアカサも逃げ出したではないか。
許可もなく魔法の打ち合いをする。その現場を見られたとなれば説教は確定。
事後の現場に居合わせて居れば、当然誤解もされる。
「逃げろぉおおおおっ!!」
ソルダの発狂と同時。
残りの男性陣一同も現場から全力疾走で撤退した。
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