36時限目「部品探し【スクラップ・タウン】(前編)」
週末。学園休校日。
「……凄いな」
ディージー・タウンから離れていく列車。次第に風景が緑一面の平原へと変わっていく。窓から入ってくる風を浴び、クロードは一言。
「ここまで、曲が聞こえてくる」
「まぁ、歌ってなんぼの街だしね~」
週末の二日間は平日と違って、昼間から歌が聞こえてくる。休みという事もあって、聞いてくれる人が沢山いるという算段なのだろう。
「……」
すっと、窓から目を離し、隣の席に座るアカサへとクロードは目を通す。
休み、という事もあって私服姿だ。
黒いジャケットに黒のキャミソール。ところどころに穴の開いたダメージジーンズを身に纏う。
「おいおい、見惚れてるのかい~? ジロジロ見ちゃってさ~?」
片手を頭、そして、もう片方を腰に置いて、それっぽいセクシーポーズを取っている。
実際、アカサ・スカーレッダはスタイルが良い。顔も良い。本人もそれを自覚しているのだろうか。
「……いいんじゃないっすか?」
“黙っていれば美人”のアカサに向かって、クロードは心底どうでもよさそうな表情を浮かべていた。
「社交辞令にしても0点だぜ、それ」
無関心にも程がある感想でした。アカサは不機嫌通り越して、むしろ清々しい気分だった。
……シャドウ・サークルの今日の活動。それは隣町まで買い物、だ。
列車の第一車両の右列のほとんどをそのグループが支配している。何せ、今日もまた人手が多い事だ。有能な可愛い荷物係として、ソルダ率いる不良生徒共が座席でトランプを楽しんだり、エロ本を読んでいたりしている。
風景だけ見ると、完全に修学旅行のそれである。
「しかし、随分な大荷物を運んだけどよぉ」
私服姿のソルダ。
ジーパンに何やらダサいロゴの入ったTシャツ姿だ。
「本当に、これ全部魔法石なのかよ?」
ソルダの隣の座席には“大量のリュックサック”が山のように積んである。
「らしいよ。確認したけど、全部魔法石だった……ゴリラには使わな、」
「ゴリアテ」
クロードが即座に訂正。
「そうそう。ゴリアテには使わない魔法石なんだって。どうせ使わないなら売って資金にした方がいいってことになって、隣町に行くって事。高く売れるんだって」
ゴリアテに使用する部品の購入も当然あるのだが、同時に“いらない部品”の処理という名目もある。ソルダ達が運ばされたソレは、ゴリアテには使用しない魔法石、だそうだ。
「魔法石だったら何でもいいってわけじゃないんだな」
「ああ、そうだ」
ソルダの後ろの座席から、ロシェロがピョコンと顔を出す。
「この列車も飛行船も、燃料として使用する魔法石は何でもいいというわけじゃない。魔素の少ないものを使用すると一瞬で塵になってしまうのだよ。それがゴリアテの場合は馬鹿みたいに魔素を必要としているんだ。ちょっと多いくらいじゃ、一瞬で灰になってしまう」
この世界、魔力と同等の存在である魔素の込められた魔法石は燃料代わりに使われることが多い。列車も飛行船も、相応の数の魔法石を投下し、運用しているのだ。
「ここに詰められているのは使い物にならないとわかった魔法石。君達が集めた魔法石ではないから安心してくれたまえ」
どうやら、カメの甲羅から生えた一部の魔法石、のようだ。
どことなく、不良生徒達が浮かべていた不安を悟ったのか、ロシェロはそれだけ言い残して顔を引っ込める。
「向こうに着いたら何班かに分かれるみたいです」
「ん? 物売りに行って買い物行くだけなら、集団でいいんじゃないのか?」
「これだけのものを一気に一つの店で売ろうとすると、警戒されるかもしれません。変に安くされても困るので、それぞれ別のお店で売っていこうって」
これだけの数。お店によっては警戒するし、それだけの額を出すのを渋る危険性が高い。
そのため、それぞれ班に分かれ、それぞれの店で魔法石を売りに行く。その方が時間もかからないし、効率がいい。
「なるほどな! 俺たちに任せてくれよっ! 大船に乗ったつもりで頼れってね!」
((良いように使われてるだけのような気がするけどね))
哀れなのか嬉しい事なのか。クロードとアカサは胸を張るソルダの姿を見て何処か虚しい表情を浮かべていた。
「……おっ、と」
ソルダの後ろの座席。再び腰を着けたロシェロは一瞬、転寝をしてしまう。
「眠気か。昨日は寝たのか?」
ロシェロの対面に座るブルーナ。
「ああ、いつもより二時間早くに寝たのだが……やれやれ、居心地が良いと、安寧を求めてしまうな」
「着くまで眠っていていい。着いたら起こす」
「すまない、アイオナス君」
ブルーナの言葉に甘えて、ロシェロは目を閉じる。
数秒も経たないうち、寝息をたて始めた。鼻から大きな鼻提灯が飛び出しているように見える。そんな気持ちの良い表情で眠ってしまった。
「……」
じっくりとブルーナは視線を向ける。
間抜けな寝顔を晒すロシェロでも、何気ない日常会話に花を咲かせているアカサ達でも、それぞれ各所盛り上がっている男子グループでもなく。
「じーーーーっ……」
そこからかなり離れた席。一番後ろの座席で、とある男子を睨みつけている“ポッチャリ系貴族”の思春期少年。
「ふっ」
ブルーナはその姿を確認するや否や、鼻で笑った後に視線を逸らした。
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