34時限目「ふとした謎【ホワイツビリー家】
「さぁ、行くぞ諸君! 魔法石を搔き集めるのだーッ!」
山奥の洞窟。たいまつを片手に先導するのはロシェロ・ホワイツビリー。
それについて来るのは雄たけびを上げる不良生徒達とソルダ・フロータス。その姿、完全に遺跡荒らしである。
ロシェロが言うに、今日回収するのは、洞窟の奥の奥。人の手が届かない奥地で眠っている“濃密な魔素”を秘めた魔法石を回収したいとのことらしい。
それも可能な限り大量に。不良生徒達は荷台を三台ほど用意し、荷物係を受け持っている。野暮用に使われてはいるが、男達はリーダーであるソルダに従い、ロシェロの言いなりに付き合っている。
「……一つ気になったんですけど」
ロシェロの軍勢の一足後ろ。少し離れた場所から後方の安全を確保するクロードとアカサとブルーナの三人。クロードは首をかしげながら口を開く。
「ロシェロ先輩の家族って……一体何者なんですか」
「というと?」
アカサはよく質問の意図が掴めなかったので再度聞く。
「最高評議会からの強引な横取りを回避したり、本来だったら学生なんかが許可を貰えるはずもない魔法石回収や立ち入り禁止区域の侵入を許可されてたり……少し気になっちゃって」
本来、役所やギルド掲示板に張り出されている仕事以外での魔物退治、魔法石回収、関係者以外立ち入り区域への入場など……学生なんかに許してもらえる案件ではない。
教師も役所も、相手がロシェロであることを知ると、その許可を割と簡単に承諾してしまう。両親の手助けもあると口にはしているが、その両親とはいったい何者なのか。
思春期を迎える前より、学園で教わるはずの勉学・講習内容は全て頭に入れている。そんな少女の親が一体何者なのか、気になるモノではある。
「彼女の両親は、いずれも“王都魔法学会”でも上の立場に属する人間だ」
王都魔法学会。それは、この世界の中心都である“王都”に属する、世界最大の研究機関。
「母親に関しては、魔法学会の会長の娘だと聞く。父親の方も、レポートと冒険記録をまとめたエッセイ本で有名人……簡単な話、いずれも有名人というわけだ」
この世界の魔法研究に大きく貢献した人物達、というわけである。
「……貴族がどうとか話を聞きました。ロシェロ先輩も結局はそういう立場の人間なのかな、と」
「いや、違うな」
元貴族であるブルーナがそれを否定する。
「確かにロシェロが属するホワイツビリー家は魔法研究において多大な功績を残してはいるが、そこらの貴族のように裕福というわけでもない。有名人だからと言って、金持ちとは限らない」
「ほら、クロードの家だって、エージェントとかいるわけだけど、実家は何処にでもある様な酒場なわけじゃん? アンタと一緒じゃないかな?」
実際、クロードの実家も周りと比べて金持ちというわけでもない。
今は母親と結婚したためにエージェントから身を引いて酒場を経営しているわけだが、婚約する前も大して裕福ではなかったとクロードは父親から聞いている。
「最高評議会は王都学会の人間よりも上の立場の人間だが……流石に学会を束ねる者達の口添えもあれば、多少の猶予は与えてはくれる。ロシェロのレポートは複数人から評価を得ていた実績もあった……一方的に否定する形を取れば、市民の疑心を孕み、老人たちの立場も少しは危うくなる」
前方で盛り上がるロシェロ達を前に、ブルーナはふっと息を吐く。
「まぁ、両親の立場がどうであれ、ここまであっさりと許可を承諾してもらえるのも、ロシェロが結果を残しているからこそ出来る事だ。家族の手を借りているとは口にするが、結局は彼女の実績なんだよ」
結果を残した人間。そして場合によっては未来を約束されているかもしれない人間。有能な人間であると評価されているからこそ、こうして、自由を許されているのである。
……“貴族が嫌い”。
彼女の言う貴族や権力というのは“ごく一部の特定の組織”に向けられているのだろう。今回の件でそれがハッキリと分かった。
「さぁ諸君! 早速、魔法石の回収に当たるのだ!」
片手をあげてロシェロが咆哮を上げると、それに続いて不良生徒達も咆哮を上げる。
最早、ソルダ一同はすっかりロシェロ・ホワイツビリーの作業員兼使い走りにされている……それくらい、相手に媚びるのがうまいのだろう。この連中は。
「結果、か」
不良生徒達が奮闘する中、ブルーナとアカサもその作業に混じろうと去っていた矢先、ただ一人孤独にクロードが呟く。
「……僕も、何かしらの結果を残していたら」
一歩ずつ、彼女らの元へとクロードは向かう。
「“皆を傷つけず”に済んだのかな……?」
己の姿を……皮肉そうに嗤いながら。
「クロード?」
洞窟内。男達の叫びがエコーとなって響いている。あまりの騒がしさに洞窟内のコウモリも何処かへ逃げ出すほどの叫び声。
そんな中、アカサだけがただ一人。
……クロードの独り言に、気が付いているようだった。
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