33時限目「大バカ者【ソルダと愉快な仲間達】」


 サークル活動二日目。今日もクロードは放課後にガレージハウスへと向かう。

 一階のガレージには、荷台に積まれた“宝石亀の甲羅”が放置されている。甲羅そのものに魔力と魔素が籠っているのか、魔法石が生成され続けている。


「君達の活躍のおかげで、ゴリアテ起動計画の完成にまた一歩近づいた。感謝するぞ」


 ゴリアテの起動に成功した暁には、その名を“栄えある仲間”として紹介すると口にしている。学園だけではなく、都会の魔法研究会の連中にも名を広めるチャンスとなる。


 アカサとブルーナがそれを求めているか分からない。だが……それをキッカケに、動き出そうと考えてはいるのだろう。


「それでは、今日もメンバーが揃ったところで我々の活動を行っていくと思うわけ……だが」


 ホワイトボードの前、ロシェロが不思議そうな表情で首をかしげている。


「クロナード君、君の隣にいる……のは誰だい?」


 ロシェロの視線の先は、クロナードが腰かけている椅子の隣。

 明らかに多めに用意されている人数分。余計な分の一つに腰かけている“男子生徒”が一人。


「うっす! 二年のソルダ・フロータス! どうぞ、よろしく!」

「……ここへ来る前に、ついてきちゃって」


 クロードと交流を深めようと図々しく距離を詰めてくるソルダ……この感覚はアカサに近いものを感じる。


 今日の放課後もソルダはクロードのもとを訪ねたらしく、彼から用件を尋ねた上で……“面白そう”という理由で着いてきたようである。


「やれやれ……」

 ロシェロは一度部屋を出ると、そこから一階のガレージを見下ろす。

「私の部屋は博物館ではないのだがね……あー、コラコラ、触らないでくれたまえ。何かの拍子で動かしちゃったら私は泣くぞ。お前達を子孫諸共永劫恨むからなー」


 ガレージにはソルダの舎弟である不良たちが屯っている。大事な話があると言い聞かされ、この部屋で待機させられているようだ。


 博物館寄贈レベルの代物があるということもあって、不良たちは遠足に来た気分で盛り上がっていた。当然、触れようものならロシェロの怒りがもれなく爆発してしまうが。


 といってもキッパり叱ったところで、こんな愛らしい姿なのだが。怒りを見せるたび、ピョンピョン跳ねる姿が小動物そのものである。


「どうして、ここへ?」

 不良たちを止めにかかろうと一階へ降りていくロシェロの代わりにブルーナがソルダへ問う。


「いやぁ、俺の大親友であるクロード君が最近、どんな事をしてるのか気になりましてねぇ~」

「親友と言えるほど交流深めましたっけ、僕達」

「モチのロンよ。俺達は、拳を交え合って、引き分けかまして互いに絆を深めあったマブダチじゃないのよ」

「いや、先輩、完全敗北だったでしょ。改竄しないでください」


 傷を抉るつもりはないが、真実を捻じ曲げるのだけは勘弁願いたいとクロードは言う。

 だが、そう言いつつも、ソルダは気持ちよさそうに続けるのみだ。諦めムードのクロードである。


「コラコラ、あまり近づかないでくれたまえ……参ったな。ここは出来る限り、メンバー以外は入れたくないのだよ。興味も湧かない人間と一緒にいても心が踊らない。むしろ、変に気が削がれて不愉快なのだが……」


 やはり、ロシェロはあまり歓迎ムードではなさそうだ。

 ちなみにクロードもあまり快い感じはしていなかった。こんな男子大人数、女子寮に押し掛けるのは何処か気が引けた。


「んー、私はコレくらい騒がしい人がいても楽しいと思いますけどね~」

「君以上に騒がしい人が増えるのはいささか困ると言いたいのだけど、私は」


 まるで他人事の様。シャドウサークルの騒音担当であるアカサの発言に冷静なツッコミが冴え渡っていた。


「そういうわけだから、君達にはご帰宅願いたいのだよ。どうか頼む」


 ロシェロとしてはこの場から一刻も早く、無関係の人間を追い出したい。まるで部屋に乗り込んだ害虫と扱っているかのようだ。


 困ったようにロシェロはゴリアテに群がる男子生徒達を見つめている。


「クロナード。少しいいか」

 この状況を見兼ねたブルーナは、もう一人、困ってる表情のクロードへひっそりと聞く。

「……お前は、彼らの事を鬱陶しいと思っているか?」

 ソルダ・フロータスと、その連中について。率直な質問を。


「……まぁ、スカーレッダさんのように、ちょっとズケズケしすぎというか、強引というか。こういう図々しいのは苦手ではあります」


 率直な問いには率直な返答。クロードはひっそりと答える。


「でも……お世話にはなってます。面倒見が良いというか、フレンドリーというか……まぁ、前の事を帳消しにしたいという目的があるのかもしれませんが」


「そうか」


 返答を受け取った矢先、ブルーナはより顔をクロードの元へ近づける。


「いいか、クロナード。アイツはな」

 ヒソヒソと、何かを教えている。

「……わかりました」

 親指を突き立てると、男子生徒達を追い払おうとするロシェロを見て、面白がっているソルダの元へクロードが向かう。


「ソルダさん。あのですね……」

 すると、今度はソルダに何かを教えている。

「ほうほう……オーケイ、分かったぜ!」

 何か理解をすると、ソルダはクロードと共に一階のガレージへと向かっていく。



「ロシェロさん! そんなこと言わずに頼む!」

 両手を重ね、媚を売るようにソルダがロシェロの元へ近づいていく。

「俺達はですねぇ……学園の中でもイッチバンに“大人で聡明で優雅”なロシェロさんから色々と教わりたいんすよ!」

「……っ!!」

 瞬間、ロシェロの頭の中に電流が走る。



「……大人、だと」

「そう! 俺達はそんなロシェロさんに憧れて! なんつーか、そういう大人っぽいところというか、年上のオーラに惹かれてるっつーか!」


 ……もしかしなくても、わざとらしい。

 表情は明らかなニヤケ面。どこぞのあくどい商人がやりそうな表情からして。ソルダの大根役者としての才能を見出してしまいそうになる。


「そうですよ。最近、噂になってるみたいですよ。ロシェロ先輩って、見本になるカッコいい先輩だよなーって」


 しかし、それに合わせて被せてくるのはクロードである。

 彼の大根演技に付き合う。添え物としては、ひとまず完璧なタイミングに。


「カッコ、いい、だと……!」


 一瞬、気づく。

 彼女に変化が起きたことを。


(……お前等も、俺達と“同じベクトル”で褒めろ!)


 アイコンタクト。ソルダはクロードとセットで、男子の不良生徒達にもサインを送る。



「先輩、マジかっけーっす!」

「俺、ずっと前から大人な先輩に見惚れてたっつーか……なんというか、告りたいって何度も思ったつーか!」

「サインいいっすか! 俺、ずっと憧れてたんすよー!!」


 褒める。指示通り、ソルダと“同じ方向性”で彼女を褒めた。







「えぇ~? まったくもぉ~。君達はお世辞を言うにしても、口下手が過ぎるぞぉ~? えへへへへ~」



 ……明らかに、態度が変わった。

 幻覚か知らないが、頭に猫の耳が生えたかのような愛らしい変わりっぷりだ。ああは言ってるが、明らかに“上機嫌”である。



 そうだ、ブルーナから言われた“指示”は一つ。


(……簡単ですね、あの先輩)

(まぁ、コンプレックスだからな。あの見た目)


 “天才”という言葉ではなく……“大人”“年上”“年長者”“頼れる先輩”としての方向性でベタ褒めすればいい。


 ロシェロ・ホワイツビリーにとって、そっち方面の誉め言葉はめっぽう弱い。

 天才は耳が腐るほど言い聞かされているために意味はない。だが、彼女が一番気にしているその見た目を逆に褒めたとなれば……。


 チビ、お子ちゃま、幼児……そう言われることも少なくない。そういった方面で変に悪口を言われることもあった。


 だから、普段から言われることのない方面の誉め言葉。大人がどうとかそう言われると、途端に彼女はデレる。簡単すぎる。



 これにはクロードも、思わず呆れてしまっていた。


「仕方ないなぁ~。なら、特別に“大人”な私の活動を君達に見せてあげよう。ちょうど人手が欲しかったところなのだ……立派な大人になれるよう、この“お姉さん”が鍛えてあげようじゃないか!」


 何処から取り出したのか分からないが、いつの間にか“眼鏡”をかけるロシェロ。誉め言葉のおかげで完全に教師気取りである。


 しかし、不良生徒達といい、ソルダといい、人を上機嫌にするのは結構お上手。これが、俗にいう“パーリーピーポー”とやらの力なのだろうか。



「それじゃあ、諸君! 今日の活動内容だが!」


 二階からホワイトボードを引っ張り出すロシェロ。どうやって降ろしたのかは知らないが、細かいことは気にせずに……一同は今日の活動内容へと耳を傾けることにした。

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