25時限目「追憶[中]【クロナード家の師範】」
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=数年前=
「うわぁ~! すげぇ~~ッ!!」
クロード・クロナードはその日……“空を飛んだ”。
翼が生えたわけでもない、紙切れのように体が軽くなったわけでもない。しかし、彼は風に乗って、こうして王都の外の平原を鳥のように通り過ぎる。
風が、心地よい。
そして、目の前にある“暖かい背中”の居心地の良さにクロードは喜び続けている。
「そうだろう? こんなこと、そこらのガキには体験できないからねぇ。特別なんだよ、クロード」
クロードを背負って空を飛んでいるのは、彼の祖母である“カーラー・クロナード”。
「何せ、ワシは王様に認められた最強の魔法使いなんだからねぇ~」
現・王都のエージェントであるムスタ・クロナードの母親でもある老婆の正体。
それは……ムスタをエージェントにするまでの実力と才能を磨き上げた師であると同時、若い頃は“数々の脅威から王都を救った英雄”の一人。
伝説の魔導書『シカー・ド・ラフト・エアロ・ダイヴ』を使いこなして見せた、最強の風の魔法使いの一人。王都に認められた“英雄”であったのだ。
「すげーやっ! おばあちゃん、サイキョーなんだッ!」
「ああ、そうだよ~。サイキョーだよ~。ワシがその場にいれば、ドラゴンだって尻尾巻いて逃げ出すからねぇ~」
現在は歳ということもあって前線から引いている身であるがまだまだ現役。軽い病や症状に苦しめられながらも、こうしてバリバリとしてて、衰えを見せようとはしない。
祖母の凄さは父親からは勿論、街の噂からも耳に通していたクロード。空を飛ぶその姿は子供から見ればスーパーヒーローそのものだ。一種のアトラクションを楽しんでいるクロードは目を輝かせていた。
「クロード」
後ろでハシャいでいるクロードに、カーラーは優しく語り掛ける。
「どうして魔法使いになりたいんだい?」
「カッコいいから! 僕もお父さんやお祖母ちゃんのようにカッコイイ戦士になりたいから!」
返ってきた言葉は、父親に返したものと全く同じだった。
「……まぁ、子供だしねぇ。そんなもんよ、動機が若くて」
一瞬、カーラーは一人笑うように、クロードからの回答に首を縦に頷ける。
「クロードや」
また一つ。カーラーは孫であるクロードに質問をする。
「お前さんには、この空が何色に見えて、地上の景色はどんな風に映っている?」
あまりに不意。子供からすれば、突然すぎる質問ではあった。
「何言ってるんだよ。空はいつも青いし、地上の景色もこんなにキレイだよ~?」
答えるにも一つしかない。
今、彼の目に広がる景色は心が躍るほどに美しい景色なのだから。
「ああ、そうだね。とってもキレイだねい」
当たり前。その受け答えをカーラーは快く受け取った。
「……難しいんだよ」
一人、ボソッと呟いた。
「空も景色も綺麗であり続けるのはね。そして、戦士もさ」
“綺麗”であること。
目に映る全ての世界が輝いている。この輝いた景色、子供である彼とは違い、カーラーにはどのように映っていたのだろうか。
「戦士の道は厳しいよ。それでも目指すのかい」
「うん、目指すよ!」
回答が変わるわけじゃない。クロードの目から輝きが消えることはない。
「お父さんやお祖母ちゃんが僕やお母さん達を守ってくれるように、いつか僕も皆を守ってあげるんだ!」
「……はっはっはっ」
孫から返ってきた言葉に、何処か微笑ましい表情でカーラーは笑っていた。
「守る、か」
その表情は、深刻そうに気難しい質問した老婆にしては……穏やかだった。
「そんな動機なら、教えてやらんでもないよ」
背中で夢を語り続けるクロードにとって、スーパーヒーローであるカーラーのその言葉は、あまりに焦がれていて、待ち望んでいた嬉しい言葉。
「おばあちゃん! 僕に魔法を教えてくれるの!?」
「ああ、ただし覚悟するんだよ。魔法使いの道は、とっても険しいんだからねぇ!」
カーラーはスピードを上げる。
この綺麗に輝く世界をもっと見せ続けたいのか……今日一日、カーラーはクロードに世界のアチコチを。綺麗な世界の素晴らしい風景を見せてやった。
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それから、数年はカーラーの元で魔法の基礎を教わったりした。
勿論、それは口上通り厳しいものだった。時折スパルタ。甘えなんて許さないことだってあった。
しかし、泣き惑いながらもクロードは逃げることなく魔法を教わり続けた。
魔導書の使い方。基礎となる魔術を使えるようになるまで、カーラーと向き合い続けていた。
そして、彼が十歳を迎えた頃には。
初歩的な一歩である“基礎となる風の魔導書”に刻まれていた魔術を、発動できるようにまで成長していた。
この瞬間、魔法使いとしての成長を見せた光景は、勿論クロード本人にとっても、家族にとっても……そして、数年間向き合い続けていたカーラーにも、喜ばしい事であった。
いつか、学園にも通って、若き立派な魔法使いとしての姿を見せる。クロードの夢はいつにも増して膨れ上がっていた。
しかし、
別れは突然に、やってきた。
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