24時限目「要注意人物【騒音少女】(後編)」
数分後、空に舞い上がった煙を目にした先生の救援が来る。
腰にダメージが響くようになった年頃とはいえ、生徒のピンチには全力で駆けつける。多少時間はかかったが、木陰で身を隠していたアカサとクロードの二人を発見した。
事情を説明。バカみたいにビッグサイズのマタンゴと戦ったこと。
その証拠に切り裂いたカサ。あまりも大きいサイズに先生も腰を抜かして驚いていた。ただでさえ、腰に響くおじさんなのに。
その後、クロードはアカサと先生と共に、山を下りることに。確保したキノコを持ち運ぶための馬車に彼を乗せ、授業が終わるまで待機させた。
数時間後、授業が終わり、学園に到着するや否やクロードは医療室へ。医療班の治療を終え、痛みが再発しないように足に包帯を巻く。
彼の今日の一難は、これにて幕を閉じたのだ。
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四時限目の座学を終え、ホームルームが始まる。
今日は四時限目で終了のようだ。日によっては昼の時間に授業が終わる日もあるようだ。
この後、残って勉強でもするか。或いは、自宅に戻ってグッスリと洒落こむか。
だが、その前に腹を満たしに行くかも考える。昼食の時間帯、生徒達は友人を連れて食堂や中庭に屋上とそれぞれのランチスポットへと向かっていった。
「……今日はおとなしく寝るべき、かな」
足は治療魔術により完治はしている。この包帯は何かの拍子で痛みが再発した際、それを抑えるもの。だが、外でまた何かトラブルに巻き込まれたと考えると……ゾッとする。
疲れたのも事実である。明日には医療魔術が体全体に回り、痛みの再発も完全に失せるという。自室で勉強するか寝るかと、クロードは考えていた。
「いーや、その前にッ!」
しかし、その帰り道。教室を出る前に障害が立ちはだかる。
「君には私のランチに付き合ってもらうぜいッ!」
アカサ・スカーレッダ。
下校の為、教科書などを乱暴に放り込んだカバン。そして背中には細長いバック。結構な大荷物で道を塞ぐ彼女がそこにいた。
「……いや、今日はその、」
「残念だが、君に断る選択肢は存在しない」
チッチッチと舌を鳴らし、人差し指を杖のように揺らすアカサ。
「何せ! 君は私には借りがあるのだからッ!」
「うっ……」
借りがある。返すべき恩がある。
言い出すとは思っていた。しかし、助けてもらった身でもある彼には強く反論する余裕がない。
「……僕の作戦に乗ってくれた件。身を庇ったことでチャラにはならない?」
「それはチャラになるけど、湿布と馬車まで運んだ借りがあるよなぁ~?」
ニヤついた表情でアカサはすり寄ってくる。
「うぐっ……」
何か裏があるとは思っていた。それがこんなにも早くやってきた。
さりげない優しさには毒がある。女性という生き物の恐ろしい生態に関して、彼のメモリーには新たな記録が付けられることになった。
「おーい、クロード! 今から皆で飯に行くんだけどお前もどうよ?」
弁当箱片手。他の不良生徒と一緒にソルダが教室へとやってくる。
「はいはーい! 私と転校生君、参加でーッ!」
「おおっ! 女子が参加は大歓迎!」
「イエーイッ!」
アカサとソルダは元気よくハイタッチ。
その後ろにいた男子生徒達も女子の参加にテンションが上がっている。不良生徒の集団は勝手に話が盛り上がっている。
「……正気やってるのか、神様」
不運の連続は終わらない。疲れを癒すつもりが、しばらくは増え続ける一方のようで、クロードは溜息を漏らした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数分後、ディージー・タウン。
ソルダのグループの行きつけだという庶民レストラン。二つのテーブル席を占拠し、不良共は己の自慢話に花を咲かせている。思春期の男子は、あったりなかったりする自慢話で自分を上げたいものなのだ。
アカサもその話に加わって大笑いしている。
本当なのか嘘なのか、そのノリは男子のそれで溶け込んでいる。グループに馴染めているあたり、その図々しさは良い方向には働くのだろうか。一部の相手には。
「……はぁ」
誰かと一緒にご飯を食べることが嫌いなのではない。ただ、慣れていない。
しかもこんな大人数。相手は慣れあう事になるとは思っていなかった不良生徒達。レストランの迷惑にならないよう騒音と暴動だけは起こしていないが、やはり空気に慣れることが出来ない。
不安で溜息を漏らしていた。
しかし、ソルダの勧めたレストランの飯は美味い。パスタをくるめるフォークは進む。
「しかし、スゲェって言ったら、うちの転校生君も負けていないぜ~?」
アカサはまるで我が物のようにクロードを押し出し始める。
図々しく首元に通される女子の腕。振り払おうにも食事中ということもあって暴れられない。周りの目もある。
「ハッハッハ、俺達も痛い目にあったからなぁ。それは分かる」
「文字通り瞬殺だったもんな」
「しかも、あのジーン・ロックウォーカーに目をつけられてるんだろ? いやはや、ヤバイって。スゲェを通り越して痺れるって」
まるで、世紀の大悪党のように扱っている。それを不良生徒達は何処か憧れるような目で見ている。
(なんで、そんなに楽しそうなの……)
リーダーであるソルダが仲良くしていることもあって、部下の不良たちもクロードに対して親し気に話しかけてきてくれる。その対応は嬉しいのだが、やはり相手が相手なだけあって、クロードはしどろもどろ、だ。
「これって勉強の賜物ってやつ? それとも、生まれながらの才能だったり!?」
不良生徒の一人がクロードに図々しく聞いてくる。
「そういえば、それ気になってるかも」
「……はぁ」
誤魔化そうとしても、断ったとしても振り切れそうにない。
正直に話したほうがよさそうだと悟った。パスタを食べる手を止め、口元をペーパーで軽く拭う。
「……勉強、です。才能があるかどうかは分からないけど、僕は普通だったと思います」
肩幅を狭くしながらも、徐々に声のトーンを上げていく。
「教えてくれた先生が良かったんです。僕が尊敬してやまなかった師匠」
ブレザーの内側のホルスターの中。風の魔導書と首元のストールに触れて告げる。
「僕の……“おばあちゃん”」
その人物を、クロードは口にした。
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