24時限目「要注意人物【騒音少女】(前編)」
数時間後。登校時間。
『興味が湧いた時にでも遊びに来るといい。』
図々しく強行手段を取ってまで勧誘を試みた少女から放たれたのは意外にも、彼の事を気遣っての言葉だった。
シャドウサークルへのしつこい勧誘に怯えながら過ごす学園生活。ただでさえ、監査処分で窮屈な日々を送っていた。しかし、その鎖のカギを渡したのは、勧誘した本人だったのだ。
(……ひとまず、楽にはなれたのかな)
これで終わり、とまでは行かないだろうが……多少、肩の荷は下りた。
(シャドウ・サークル……理不尽への対抗、か)
ブルーナ・アイオナス。ロシェロ・ホワイツビリー。
真実か否かは分からないが、二人もまた、理不尽といういざこざに巻き込まれ端へと追いやられた者達。
__仲良くなれるような気がする。
ロシェロが放った言葉。その意味が分からないわけでもない。
(いや、違う……)
クロードは首を横に振りながら頬を叩く。
(関係ない。あの人達と、僕なんか)
夢から覚めるように意識を戻す。
シャドウ・サークルに入るつもりは一切ない。
そもそも、誰かと深く関わるつもりもない。
「……僕なんかに構ったって、何も良い事はない。その程度の人間だから」
心の奥底に閉じ込めようとしてハズの言葉。
クロードは、無意識にその本音を口に漏らしてしまっていた。誰にも聞かれることはない、一瞬の言霊を。
「えー、皆さん。今日は薬草とキノコの採取を行います」
課外授業。裏山の森林前。
課外授業ならば、座学と違って授業内容も変わってくる。勧誘の恐怖にも怯えることもなくなり、それならばと授業に参加した。
「薬草、キノコは出発前に渡した参考書を頼りに探して回りましょう。たまに、顔面のある奇声を放つキノコがいますが、それは魔物のマタンゴです……他の魔物と比べて、さほど脅威ではありませんが、噛まれると痛いので気を付けてくださいね。私も頬を噛まれたことがあるのですが、それはもう」
ヨボヨボと話し続ける先生。初老という事もあって腰を気にするようになったお年頃。何気ない経験談に生徒達は笑っている。
ここ最近、あたりで魔物が増えていると話は聞く。最低限の注意を受けていた。
「では、一時間後にはここに戻ってきてくださいね。道に迷ったとき、何かしらのアクシデントがあった際には自分一人でどうにかしようとせず、まずは発煙筒を使って助けを呼ぶのですよ」
発煙筒。緊急用のアイテムとして生徒に一人ずつ手渡された。
怪我をしたりなどのハプニングがないわけじゃない。すぐに助けに来れるよう、先生もスタンバイしておくようだ。
「それでは授業を始めます」
先生の号令と共に、生徒一同は立ち上がる。
「……ああ、そうだった」
その矢先、先生は思い出したかのように、生徒達に告げる。
「森の中で何かあっては大変ですからね。“二人一組”で行動してください。ペアを組んだ生徒達は森に入る前に私へ一言お願いします」
それは“一部生徒”への処刑宣告。
(____ッ!?)
特にクロード・クロナード。
転校して数日、いまだにボッチであるクロード。何より、このクラスの“特定の人物”に関わりたくないが故に、誰よりも内心で悲鳴を上げている。
(まずいっ……誰か、誰か捕まえてっ、)
「はいはーいッ! 先生―ッ! 私、クロード・クロナード君と組みまーす!!」
(ぐぁああああーーーーッ!?!?)
先手を打たれた。コンマ数秒の差。彼女の方が手が早かった。
絡んだことのない生徒の方を向こうとしたが、それよりも先に片腕を掴まれる。そのまま引き寄せられる。その握力は女子にしてはゴーレムのように強力で、反撃する余裕さえも与えてはくれなかった。
アカサ・スカーレッダ。
一番距離を取りたかった女子生徒に捕まった。
「はい。気を付けていくんですよ~」
「モチのロンですよ~!」
アカサ・スカーレッダ。相棒を引き連れて一番乗りで森の中へ。
「正気やってんのか。神様……」
クロードは真っ白に燃え尽きたまま、アカサに連れていかれてしまった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
森の中、一番乗りで足を踏み入れたアカサはクロードと共に奥へと進む。
「ハッハッハー。君もラッキーだね~。女の子と一緒にハイキングだぜ~? 可愛い女の子引き連れてリア充の仲間入りだぜ~?」
「……ハイ、ソウデスネ」
まるでパペットのようにパクパクと口を動かすだけ。瞳も虚ろで、体も真っ白に燃え尽きたまま蝋燭のロウのように固まっている。申し訳程度で動かしてる足もカクカクと生き物らしくない無機質な歩き方だった。
「おいおい~、ノリわりーな。女子の前でやる態度かよ、それ」
片腕を掴んだまま、頬を膨らませ文句を言うアカサ。
「……言ったじゃないですか。グイグイされるの、あまり得意じゃないって」
騒がしいのが苦手。距離感を何の躊躇もなく詰められるのが嫌い。
クロードは遠回しに言う事もなくダイレクトにアカサに告げる。多少は気を遣ってほしいと正直に。
「んまぁ、君ってムッツリそうだし? こういうのは刺激が強かったかもね。許しちゃって?」
「(ムカッ……!!)」
ムッツリという言葉にまたも過剰反応した。
何処までデリカシーにかける女だと思ったことか。しかし、監査対象にあるクロードはその怒りを懸命に飲み込んだ。
「んじゃ、ボチボチ始めちゃいましょうか! 私はこの辺を見るけど、転校生君は?」
「……あの」
片腕を離し、距離をとってもらったところでクロードは聞く。
「僕に構う理由って、サークルの勧誘とかですか。やっぱり」
「うーん、それもあるけどさ」
半分正解であるとアカサは告げる。
「一番の理由はあれかな? 仲良くなりたいっていうか、本当にそんな感じだよ? 乙女の純粋無垢を疑うんじゃないよ」
「どうしてです?」
「うーむ、強いて言えというなら……」
二秒ほど、思考。
「気になった、から。だよね?」
質問を疑問で返すように。タブーを平然と交わしてきた。
「仲良くなってみたいとか、その人と話してみたいとか……大体、コミュニケーションって、そんな感じじゃない?」
気になったから。実際、それ以外の理由はないのだろう。
「……疑問ですね」
しかし、クロードはやはり思う。
「面白半分で首を突っ込みすぎると、痛い目見ますよ」
初日であれだけの大事件をかました転校生。そんな危険人物にどのような興味を抱くというのだろうか。刺激を感じたいにしてもほどがある。
「サークルには今のところ顔を出すつもりはありません。ホワイツビリーさんにはそう言っておいてください」
あまり長話をしてもグダグダと続くだけ。クロードはどうしたものかと思考した。
「……ん?」
そんな二人の空気を裂く様に、木陰から茂みを擦る音が聞こえる。
「他の生徒かな?」
誰かがクロード達に近寄っているようだった。
何者なのか。クロードとアカサの二人は一歩ずつ、木陰に近づいてみる。
『ギギッ、ギギギッ?』
人間らしくない奇声。そしてその姿、人間にあらずキノコだ。
マタンゴは人間にはさほど害のない魔物。手のひらサイズやちょっと大きいくらいの奴が大半である。そう話は聞かされている。
「「……っ!?!?」」
しかし、そのマタンゴ。
“クロードの1.5倍以上の身長のふっくらボディ”。
あらやだビックリ。皆があっと驚くようなビッグサイズだった。
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