私は駅からバスに乗った。隼人はあれならうちに来ないかとは言っていたが、いくらなんでも付き合っている訳でもない(半分告白みたいなことはしたにしろ)のに、二日連続で一緒と言うにもなんか申し訳ないと言うか、気が引けた。私は大きく息を吸った。




 決着をつけなければ。自分のために。私は意を決した。もうでていくと、強い言葉で両親に言いつけるんだ。




 家の近くのバス停で私は降りた。こっから歩いて10分。歩きながら色々考えよう。そう決めて、ゆっくり歩き始める。この道もひさびさなような気がした。昔より、その道は重苦しく感じた。




 少し歩いて、私は街角を曲がった。すると思わず声を出した。




 「え?」そこには男が居た。とてもよく知ってる男。




 「お父さん」私は静かに父を見る。父はしばらく驚いたような顔をしたが、ゆっくりと顔を戻してきた。




 「帰ってきた、って訳じゃないよな」




 「うん。決別のために来た」そう言うと私は父を見つめた。すると父は意外な顔をした。




 「そうか」そう言って笑顔を作った。そして、父は謎のカードを私に差し出してきた。




 「なにさ」私は少し怯えながら訊ねる。




 「1000万円が入っている。母さんに隠れて溜めてきたんだ」




 「なにいってんの?」




 「ああ、お前には俺はまたパチンコに負けたとかってほざいていたからな。実はパチンコなんてしたこともない」そう言うと、父はまるで崩れ落ちるように地面に突っ伏した。それは、ドラマでしか見たことない、土下座であった。




 「許してくれ、とは言えない。酒に溺れ、母さんに間違っていると言うことも出来ず、いつもお前に料理させているのも事実だ。ただ、ひとつだけ。お前は大切な娘だって、そう思ってる」父はそう言った。しかし、そんな言葉をすぐ受け入れれる程の人間ではない。




 「私は、もう昔と決別するから。これから自分は自分で見つけないとって、そう思えたんだ」だから、そんなのいらないと私はそのクレカを跳ね返した。




 「いや、これは今までのお前のだ。絶対に受け取れ」そう言うと父はゆっくりと立ち上がり、それを私のバックに捩じ込んだ「暗証番号は簡単だ。○○○○○だ」




 「……恨まないでよ」




「むしろ受け取ってくれて安心したよ」そう言うと父はゆっくりと 息を吐いた。「お父さんに俺は慣れなかった。その分の謝罪だ」




 「……」私は言葉をはっせれなかったが、父が本心であるのはうっすらと分かっていた。脳裏に微かに霞むどこか優しい父がそれを裏付けていた。




 「じゃあな、もう俺にはなにも出来ない。いや、する権利もないかもな。けれどこれから俺は俺の決着をつけないといけない」そう言うと父はゆっくりと私に笑顔を向けてきた。




 「お父さん……」私は小声でそう呼んだ。




 「また、こんど」そう言うと父は後ろを向いた。その姿が何か不器用であったが、私が居なくなったこの二日間で、父はどれだけ葛藤したかと言うことに気がついた。私はだから、こう呼び掛けた。




 「お父さん、ありがとう」




 そしてそれが、父との最後の時間であったのだ。






 そして私はまた乗ったバス停を折り返した。今日もまたネットカフェにでも泊まろう。これからの道筋と、自分がどうするべきかを考えたかった。

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