第105話 ニライカナイ
琉美達が待っているイシキ浜に戻り、キジムナーと仲良くなれたことを伝えると、
「死んでもいない者がニライカナイに行くことは、神の意志に反し罰があたるかもしれないし、戻ってこられるかの保証もできない。それに、この
すると、ナビーが俺と琉美の前に立ち、寂しげな微笑みを浮かべた。
「剛をこんな状態にしたのは私のせいだから、ニライカナイには私だけで行くべきだと思うわけよ。シバと琉美が危険を冒してまでやる事じゃないから、2人もここに残って私の身体を守ってちょうだい」
琉美は無言のままムチを縄代わりに使い、ナビーを一瞬で
「流石ドS」
「シバはだまってて!」
縛られているナビーは、ほどこうと必死にもがいている。
「琉美、なんねーこれは? ふざけないで、早くほどきなさい。はーっし、今日縛られるの2回目やっさー」
「ふざけてるのはナビーの方でしょ! ここまで来て残れって、馬鹿にしないで! そんなこと言うなら、ナビーはここで拘束しておいて、私とシバの2人でニライカナイに行くからね」
「はあ!? 何でそうなるわけ? シバ、琉美を止めてちょうだい」
「シバ、わかっているよね? ナビーに言ってやって!」
ナビーに助けを求められたが、琉美と同じく俺もナビーの気づかいに怒っている。
「ここまで一緒にやってきたのに、危険だから残れって俺たちが納得するとでも思っているのか?」
「思ってはないけどさ……シバと琉美も、私の気持ちもわからないわけではないでしょ?」
「ああ、わかるよ。でも、ナビーは俺たちの気持ちわかってないだろ?」
「私もわかっているさー。ここまで頑張ってきたこの3人で、剛を助けに行きたいってことだよね?」
「違わないけど違う。俺たちは、剛さんを助けたい以前に、危険なところに行くナビーの力になりたいだけなんだよ。どこに行くにしても、これまで通り助けられたいし助けたい」
琉美はナビーの前で仁王立ちをして言い切った。
「そもそも、命を賭けてもナビーの命を守りたいと思ったから、この世界に来たんだし。危険ならなおさら、1人で行かせるわけないでしょ!」
ナビーは力が抜けたようにガクッと下を向いた。反省したと判断した琉美は、ナビーの肩を掴みながらムチの拘束を解いた。
すると、黙っていたナビーがボソッとつぶやいた。
「
「当たり前でしょ!」
「ナビーが変なこと言いだすから、皆を待たしてしまっただろ。キジムナー呼び出すから2人とも覚悟を決めろよ」
心配そうに見ていた
「待っていたぞ。じゃあ、
「出てきてすぐそれ? とりあえず、頼みたかったことを説明するから聞いてくれ」
剛の
「本当か!? シバたちのマブイをオイラが抜いてもいいのか? それなら報酬のセジなんていらない。それ自体がご褒美みたいなもんだからな。んーでも、シバのセジも捨てがたいな……す、少しだけでもいいから、セジもくれ。なあ、お願い、セジもくれ」
「わかったから、その血走った目で見つめないでくれ。元々セジを上げるつもりだったからさ。俺たちが生きて帰ることを待ってて」
「絶対生きて帰れ。オイラの仲間に紹介したいからな」
3人で縦並びに立ち、マブイが抜かれて倒れても大丈夫なように、
これで全ての準備が整った。
「みんな、後のことはお願いします。キジムナー、いつでもいいよ」
「じゃあ、行くぞ!」
キジムナーは、俺、ナビー、琉美の順で、股を一瞬でくぐった。
すると、目の前が真っ暗になり、身体の感覚がなくフワフワした感じになった。
前に、剛にやられて
この状態だと、マブイグミされるまで自分の意志で動けない。
イメージでは、
……やっべ。もしかして、これって詰みってやつか?
その時、2つの青白い光の球が近づいてくるのが見えた。
その2つの球が俺に触れると、引っ張って行くように真っ暗な世界を進んで行く。
俺は何もできないので身のない身を任せていると、大きな扉が付いている守礼の門に似たものが現れ、近づくと扉が開き、見えない力で吸い込まれた。
「えー、起きれー!」
急に思いっきり鼻をつままれて揺す振られた。
「
「やっと起きたさー」
「おい! どんな起こし方してんだ。って、この痛み思い出すな……」
琉美は痛がる俺を見てドン引きしている。
「シバは、何で痛そうなのにニヤニヤしているのよ? それに、ナビーも随分と楽しそうだけど、私だけ蚊帳の外にしないでよ」
「違う、この鼻をもぎる起こされ方が懐かしかっただけなんだよ。初めてナビーに会った日に同じことされたからな」
「ナビーは初対面でそんなことしたの? シバはよくここまでついてきたね。やっぱり、ドMなんじゃない?」
「自分がドSだからって、人をドMにしないでくれる? ってか、そんなことより、ここはニライカナイってことでいいのか?」
聞いたものの琉美にわかるはずもなく、2人でナビーに答えを求めるように視線を向ける。
「ニライカナイなのかはわからないけど、見る限り
周りを見渡すと、異世界琉球で見てきた村々の風景と同じような場所に来ていた。
住民が普通に暮らしているみたいなので、神の世界に来た感じはしなかったが、雲1つない青空を見上げると、こんなに明るいのに太陽がどこにも見当たらないので異様な雰囲気である。
「なんか、不気味な場所だな。そういえば、暗闇の中で2つの光の球に引っ張られて門に連れてこられたけど、2人もあの光を見たか?」
2人はお互いに目を合わせ、ため息をついた。そして、ナビーが説明する。
「あの光は私と琉美の
「動かないっていうか、動けなかったんだけど」
「まあ、私たちが動けたのは、いろんな人のマブイと関わってきたノロだからじゃないかねー。それに、
……もしかして、2人もグミヌチジができるようになってたりして。
その時、白い着物を着て槍を持った
「そこの者。見ない顔だが新入りか?」
知らない場所で知らない人に声をかけられたので、警戒をしながら情報を探ることにする。
「えーっと、よくわからないうちにここに来ていたのですが、ここはどこなんですか?」
「あーあ、かわいそうに。自分が死んでしまったことを気が付かずに、ここに来てしまったのだな。ここは、神々の住処であり、琉球で亡くなった者が辿り着く死後の世界でもある、ニライカナイだ」
どうやら、ここはニライカナイで間違いないようだ。
「そうなんですね。なにがなんだかわからなくて困っていたんですよ。すみませんが、この世界の事を教えてくれませんか?」
「ん? 君たちは、自分が死んだことに驚かないのか? まあいい。とりあえず、しやくしょに行って住民票を作りに行きなさい。そこでニライカナイについて教えてくれるからね」
「ニライカナイには、市役所と住民票があるんですか?」
「もちろんさ。まあ、市は死ぬの死なんだけどね。ん? そういえば、君は市役所と住民票を知っているのか? 珍しい……いや、そうでもな……」
素性を知られると厄介なことになると思ったのだろう。琉美が食い気味に話を振った。
「そ、その死役所はどこにあるのですか?」
「肝心の場所を教えてなかったね。一番大きなあの建物だよ」
男が指さした方向には、元の世界で燃えてなくなった首里城の外観にそっくりな、真っ赤な建物があった。
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